吹き抜ける風(慶半)



ひゅうひゅうと、風の音がうるさい。



あぁ、これは僕の息をする音か。











これが僕の最期―――・・・


あっけなかった、かな。

けれど、とても充実した人生だった。


秀吉、君に会えたからだ。
君に会って、僕は、君と同じ夢を得た。


僕と君の夢を

君の最期まで

君と見たかった



すまない、秀吉。
君をおいて逝くのが残念でならないよ。

もっと君と、夢を追いかけていたかった。
もっと、生きていたかった。









突然、ふわりと上体が浮かんだ。
大きな手とたくましい腕が身体を支えて、誰かが僕の顔を覗きこむ。

「おい…!しっかりしろよ、半兵衛!!」


名前を呼ばれて、瞼をこじ開ける。
そこには見知った男の顔。

…慶次君? どうしてここに?
まさかお別れの言葉でも言いに来たのかい。


「死なないでくれよ…お願いだから…!」



それは無理だよ。

そう言いたかったのに。
もう、うまく口が動かなかった。



慶次君の涙が、彼の頬を伝って僕に落ちる。
温かなそれは慈雨のように僕に染み入った。


「け…いじ、く…」
「だめだ、喋るな半兵衛! 今手当を、」


無駄だよ、もう諦めがついているんだ。
僕が受け入れているのだから。
君もどうにか納得してくれないか。



「ひで…よ、しに、…伝え…」
「あぁ、大丈夫だ、秀吉にもちゃんと伝える」



そんなに涙を零すなんて。

あの夜、君が僕に言った言葉は嘘ではなかったんだね。



信じられなかった。


信じられるはずなかった。



すまない。



今となってはもう遅いけれど。





慶次君。
君は風のような男だと、僕は思う。

どこ吹く風のように人の言葉を流しておいて
実は考えが深くて。

笑っているようで空虚で。

愛だ恋だと語らいながら、
好いた者を、もう手の届かない所へと奪われていく。


もしかして僕も、その一人になるのかな。




想いは、重なることはなかったけれど。




僕は今、もっと君に向き合うべきだったと、少し後悔している。


僕は君が嫌いだった。

君も同じように僕を嫌っていると思っていた。

でも違ったんだね。



今、僕はやっと自分の本当の気持ちに気が付いたよ。





手を伸ばす。
あの夜、君が触れたように。
君の頬に手を添える。


慶次君。
少なくとも、僕はもう君を嫌ってはいないんだ。

それを、言葉にすることはできなかったけれど。

この感情を認めることはできなかったけれど。


秀吉が捨てたものなんだ。
だったら僕も捨てるべきだから。



僕は屈折していたのかな。
間違っていたのかな。

でもね。
この生き方が、僕を僕たらしめるものだったんだ。

慶次君。
君はきっと分かっていたうえで。

僕に想いを伝えてくれたのだろう。







ありがとう。


僕を好きだと言ってくれて。



ありがとう。
    













一陣の風が吹き抜けた。

空っぽの身体を包んで。

安らかな心をさらって。









2014.3.19



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