三日月宗近が刀剣男士となって、1ヶ月がたとうとしていた。
彼が来るまでに、この本丸にはすでに主力部隊ができつつあった。
生身に慣れ、自分の能力が発揮できるようになるまでは、
第1部隊はやめておいたほうがよい・・・というこの本丸の主の命で、
彼は手合わせの日々を過ごしていた。

手合わせの中で、他の刀剣男士たちの性格や癖など、見えてくるものもあった。
宗近はこの本丸が好きになりかけていた。
他の仲間たちはとても優しい。そしてまた、この本丸の主も・・・。

「宗近、最近調子はどうですか?もう、生身の体には慣れましたか?」

手合わせ後、縁側に座って涼んでいると、清らかな声が頭の上から降ってくる。
斜めうしろに、この本丸の主が立っていた。
美奈・・・と言うらしい。
審神者としてかなりの力量の持ち主で、
この時代に散らばった審神者たちの長でもある・・・と鶴丸が話していた。

「まだ体の重さは抜けぬが、前よりは幾分慣れてきたようであるな。
最初は生身の体を与えられてから、ずいぶんと困ったものだった・・・」

「それはそうでしょうね。体を与えられるまでは、”物”だったのですから。」

ケタケタと、美奈が笑った。
齢はとうに20を過ぎているというのに、雰囲気やしぐさはまだ、
少女の域にとどまっているような感じであった。
そんな雰囲気が、宗近は好きであった。
神秘的な魅力も兼ね備えており、長い間歴史を見てきた宗近は、
これまで過ごしてきた歴史の中で、
このような雰囲気の女性を見たことがあったであろうか・・・?と考えてしまうほどに。

そして・・・・美奈はとても綺麗な女性であった。
だからこの本丸でも、彼女に惹かれている刀剣男士は少なくない。
第一部隊の小狐丸や石切丸、鶴丸国永は常に、この主のそばにいたがる。
美奈の雰囲気に惹かれつつある宗近もまた、その一人であった。
この本丸に来たばかりでおこがましいとは思うけれども・・・・。

「おい美奈、そろそろ行かなくていいのか?
今日はこれから、政府のお偉い方との会合なんだろう?
今から時空を超えるんだからな。
また前みたいに時空を越えた衝撃で気分が悪くなっては困る。
今回は早めに行ったほうがいいと思うが・・・・?」

美奈と宗近の会話に割って入るものが一人。
白い布をかぶり、みすぼらしい格好をした刀剣男士。

山姥切国広。

それが彼の名前だった。
その昔、山姥切の写しとして作られた刀。
そして今は、美奈の近侍として、彼女のそばに仕えている。

国広は、彼女が幼い時からそばにいる。
幼少時代より審神者としての能力を見出された彼女は、政府から守り刀として国広を譲り受けた。
それが今美奈の隣にいる彼なのだ。

「あっ、そうでしたね。忘れかけてました。
宗近。今から私と国広は、少し未来へ出かけてまいります。
夜遅くなるかもしれませんので、そのことを他の刀剣たちにも伝えておいてください。」

「山姥切殿も一緒に行かれるのですか・・・・?」

とっさに、分かりきったことを聞いてしまった。
おそらく、嫉妬心から。
国広が少し怪訝そうな顔をしたが、
「当たり前だろう。俺はこいつの守り刀なのだからな」と当然のように言い放った。
とげとげしい態度を見せる国広をたしなめ、美奈は優雅なしぐさで宗近から立ち去っていく。
そのうしろを、国広がついていった。

誰もいなくなった縁側で、宗近は小さく息を吐いた。

「近侍になったならば、主殿のことを名前で呼ぶことも可能であろうか?」

それにはあの、国広を超えなければならない。
自分が彼女の近侍になった時、あれはどんな顔をするのだろうかと頭の片隅で考える。
そうなるためにはまだ、宗近には時間が必要なことくらい、自分でも分かっているのだが・・・・。




ただ、嫉妬心が自分を焦らせる



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