「ねえルルーシュ、いやだよ。目を開けてよ?」

閉じかけた目を、俺はゆっくりと開く。
美奈、どうしてお前がここにいるんだ?
俺は魔王・ルルーシュとして、至上最悪な皇帝で人生を終わろうとしているのに。
どうしてお前は、俺を腕の中に抱いてるんだ?
その答えが分からなかった。
美奈はスカイブルーの瞳を揺らしながら、俺を見ている。

「美奈・・・・

「ルルーシュ・・・・しんじゃやだ。」

ポタポタと彼女の涙が頬に落ちてくる。
遠くで民衆のゼロを連呼する力強い声が聞こえた。
スザク・・・・あいつはちゃんとゼロを演じてくれているんだ。
そう思っただけで、口元が緩んだ。

「なんで笑うのよルルーシュ。しっかりしてよ!!!どうして私達を置いて逝こうとしてるの?
ナナリーだって、ルルーシュが必要なの!!!私にだって、スザクにだって!!!
みんなルルーシュを必要としてるの!!!たとえルルーシュが至上最悪な皇帝でもいいの!!!
本当のルルーシュは違うから。どうして自分を犠牲にしたの!?
私、こんな平和なんて望んでなかった!!!」

また、ぽとぽとと彼女の涙が俺の頬を濡らす。

「美奈・・・・すまない。」

「すまないじゃないよ!!!
嫌な予感がしてここに来たら、ゼロの格好したスザクがルルーシュを刺してて・・・。
これがあなたの書いていたシナリオだったって、すぐに分かった。」

俺は嗚咽を必死に堪えながら話す美奈の頬に手を当てる。
自分の血で、美奈の頬が赤く汚れた。
美奈はそんなこと気にせずに、手を俺の上に重ねる。

「お願いだから死なないでよ・・・」と呟く声も、やっと俺の耳に届く。
もう、終わりが近いんだなと自分で感じた。

「美奈、俺はもう・・・最後に一つだけ、一つだけ・・・・」

涙をたくさん溜めた瞳を見上げ、俺は最後の力を振り絞った。
泣きじゃくる美奈の唇に、触れるだけのキスをする。
美奈はスカイブルーの瞳で、じっと俺を見つめた。驚いている。

本当はもっと、激しいキスをお前に贈りたかった。
ずっと好きだった。ずっと一緒にいたかった。でも、俺はもう、これで十分だ。
わずかな時間だったけど、お前と再会できて、一緒にいられた。
学園で。そして俺が皇帝になってから、今日という日まで・・・・。
そして、日本人であるお前やスザクが、日本の誇りを持って生きていける世界を作り出した。もう十分だ・・・。
だんだん瞼が重くなってくる。

「いや・・・・」

彼女の震える声が小さく響いた。

「いや・・・・逝かないでルルーシュ。
これが最後のキスなんて、そんな寂しいことしないでよ・・・・。
私、ルルーシュが好きだったのに!!!」

その言葉は、はっきりと俺に届いた。
それが聞けてよかった。
俺は顔をほころばせ手を伸ばし、小さく囁くように蒼音に伝える。

「美奈・・・・俺も好きだったよ。ずっと。
でも、もういいんだ。お前はスザクの許婚。だから今度は、スザクを支えてやって、ほしい。」

最後は言葉にならなかった。
力が入らない。うまく伝わっただろうか?
伝わっているといい。ああ、すごく眠たい・・・・。




ことんと、美奈に伸ばされた腕が地面に落ちる。

「うそ・・・・」

美奈は直感で分かった。ルルーシュが逝った。
優しい笑みを浮かべて。今まで見た表情の中で、一番の優しい微笑み。
最後に彼は言った。今度はスザクを支えてあげてほしいと。
美奈はまだぬくもりがあるルルーシュの手を取って、自分の頬をすりつける。
そのまま彼だけに聞こえるように言った。

「ルルーシュ・・・・わかった。私はあなたの願いどおり、スザクを支えるよ。
ありがとう、大好きだった人。そして、さようなら、大好きだった人。」

美奈はその場に泣き崩れた。
遠くで響くゼロを呼ぶ声は、いつまでも続いていた―――――――。



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