×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ごまかす気持ち


『具合大丈夫か』


ピロン、


『うん、大丈夫。昨日はありがとうね』


ピロン、


『でも無理すんなよ』


ピロン、


『大丈夫だって!過保護め』


「誰のせいでこうなったと……」


イラっとして、携帯を握る手に力が入る。

ため息をつきながらそのまま携帯を置いて、眠気覚ましのコーヒーを啜った。


秋と俺は、幼稚園の頃からの幼馴染みだ。

性格も趣味も全く似ていないのに、何故か秋とはずっと一緒にいた記憶がある。

まぁ一因としては、恐らく秋の性格にあるのだろうが。

秋は昔から、どこか抜けているやつだった。

忘れ物や、迷子なんてしょっちゅう。

両親も相当苦労しただろう。

とにかく、心配で目が離せない。

同い年の俺からしても、秋はそんな存在だった。

そして不思議なことに、俺は何故か秋が泣いていたり、困っていたりすると、そばにいなくてもなんとなくわかった。

もしかしてと唐突に不安になって秋を探しに行くと、一人で泣いていることなんてしょっちゅうだった。


「トシ君はすごいね!なんで秋が泣いてるって分かるの?センサーがついてるの?」


そんな幼い秋の言葉を真に受けて、その夜風呂場で体中を探ったのも何だか懐かしい。

センサーなんかついているわけがない。

こればっかりは、昔からの謎だ。



ピロン、



軽快な音をたてた携帯を見ると、秋からのメッセージが表示されていた。



『ごめん。怒った?』



思わず、笑みがこぼれる。

秋は、昔から変わらない。


俺たちがまだ小学生の頃、些細なことで喧嘩したことがあった。

原因はもう覚えていないが、恐らく秋が俺になにかをしでかしたのだろう。



「……ごめんね……まだ、怒ってる……?」



両目にたくさん涙をためて、

震える両手でワンピースを握り締めながら謝りにきた秋の顔を、今でも鮮明に覚えている。

俺はその時、凄く嬉しかったんだ。

秋が、俺が怒っていることを気にしてる。

どうでもいいやつだったら、わざわざ泣きながら謝りになんてこないだろうって。



『怒ってねェよ』



ピロン、



「返信はえーな」



苦笑しながら、メッセージを開く。



『良かった。』



「…………。」


あの時と、同じ。

きっと満面の笑みで、そう言っているんだろう。


ふと、視界に昨夜脱ぎっぱなしだったワイシャツが入る。

それを手にとって顔に押しつけると、僅かだが、秋のにおいがした。

途端に思い出される、昨日の記憶。

酔っ払ってへにゃへにゃの顔だとか、首に回された秋の両腕の感触だとか。

あったかい、背中の体温だとか。



あぁ、もう

昨日会ったばっかりだってのに



「会いてェなー……」



呟いて、はっと我にかえる。


においかいで、俺は、変態か。


慌ててそれを洗濯カゴにいれるため立ち上がると、再びピロン、と携帯が鳴った。


「あぁそういや、返事してなかっ……」


見ると、それは秋からのものではなかった。



『明後日の夜、空いてる?』



「…………。」


飲み屋で声をかけられた、ただそれだけの関係の女。

気は強そうだが、スタイルも良く、美人でいい女だった。

……少なくとも、秋よりかは。



『今日の夜なら、空いてる』



でも、

俺が本当に触れたいのは、ただ一人。

でもきっと、触れてしまえば簡単に崩れてしまうだろうから。

今まで積み上げてきたそれを崩してしまう覚悟など、今の俺には到底ない。

だから、こうやっていつも誤魔化す。

自分の心まで誤魔化すことなど出来やしないって、十分に分かっているのに。


「こりゃ、あの白髪と一緒にされても文句言えねーな……」


はーあ、と大きくため息をついて、洗濯でもすっか、と洗面所に向かった。

今日は快晴。

洗濯日和だ。


「……何してっかな……」


どうせ、部屋の片付けもしねーでごろごろ日向ぼっこでもしてるんだろう。

青空を見て思い浮かべるのは、だらしない幼馴染みの姿だ。

後で様子見に行くか。

昨日も相当酔ってたしな……。


「……あ、」


”過保護”


数分前に言われた言葉を思い出して、苦笑する。

いいだろう?別に。

俺はこうでもしてなきゃ、お前のそばにいられないんだ。



俺は、

いつまでだって、

お前だけのヒーローでいたい。


[ 2/4 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]