正反対




ジープを走らせる音だけが懐かしく、他からはいっそ早く逃げ出したかった。


『葵〜?ちゃんと捕まってないと落っこちるわよ〜』
「……」


その細い腰に回す腕を心持ち握り直す。
あったかくて柔らかくて、不思議な気持ちだった。





***


『八戒もう起きてたのね、おはよ』
『おはよう、朱麗。今日はいつもに比べてまた出発が早いから僕もいつもより早起きだよ』
『早起きもいいけどこのあとジープだって運転するんだから、ちゃんと睡眠取らないとだめよ?私ちょっと葵の様子みてくるわ』


朝日が昇り始め、空がだんだんと明るくなる。いつもなら寝ているような時間であるものの、今日は朝早くに出発することが前日の話し合いで決まっていた。
葵の話が正しいと仮定した場合、あの女妖怪の術の力か、清蘭は葵と入れ替わってしまったらしい。
その清蘭の代わりにやってきた葵の様子を見に朱麗は立ち上がった。

葵はみんなとは少し離れた場所でいつもは清蘭が使っている毛布を被り、丸くなっていた。
朱麗があと一歩近づこうとした、その時葵は察知したようにムクリと身体を起こした。


『わっ、びっくりした…』
「……」
『寝れた?』


急に起きてくるものだから朱麗はびっくりしているようだったが、すぐに笑顔を浮かべる。葵はその問いに口を開くことなく、交わった目線をそらしてから軽くひとつ頷いた。


『そう、ならいいけど。おんなじに見える世界でも葵にとってはすべてが違うのよね…。あの子は大丈夫かしら……』


朱麗が想うのはどうやら清蘭のことらしい。母親のような、姉のようなそんな朱麗の横顔は心配そうに外を眺めているのだった。

うらやましくなんか…ないはずなのに…

少し陽が高くなった頃、早々と朝食を済ませると次の街へと進む。


『さてと、葵は私と一緒ね』
「…?」


そもそも一体どうやって?ジープは頑張ってもあと一人しか乗ることが出来ず、なにより朱麗と一緒ということはジープには乗らないということなのだろう。…なんて、考えているとジープが車へとメタモルフォーゼしていた

「あれにみんな乗るのか…?」
『ん?…まっさかぁ!流石にジープには乗り切れないからね、おいで俊雷!』


俊雷と呼ばれ寄ってきたのは一緒にいた白い毛並み、額には桜の紋様をつけた…ーー


「犬?」
『山犬よ。可愛いでしょ?』
«ワフッ!»
「…フワフワ」

俊雷と呼ばれた山犬は人懐っこく、挨拶をするように葵に擦り寄った。三蔵達や、朱麗のことは目に見えて距離をとっていたが、どうやら俊雷は平気のようだ。

『…アニマルセラピーかしら』

なんてそんなことをしている間に三蔵達は皆、ジープに乗り込んでいて、朱麗もすぐに俊雷にメタモルフォーゼしてもらうとバイクの姿となった俊雷にまたがり、それに続いて葵もそのバイクにまたがったのだった。

***







『バイクの乗り心地どぉ〜?』


数分走らせたところで朱麗は葵に話しかけた。斜め前を走るジープの後部座席では悟空が二度寝をしているのが見える。
大した反応を求めるわけじゃないが、葵と清蘭が元に戻るまでにどのくらいかかるかわからないわけで、そうなると最低限のコミニュケーションは取れる方がいいと判断した朱麗は気を利かせて話をふるのだった。


「…あったかい」
『あったかい?』
「朱麗の背中、あったかい」


そんな言葉を聞いた朱麗は、なんとなく意表をつかれた。
葵の性格は清蘭とは真逆で、人に甘えることが極端に下手。でも普通の女の子なんだと実感した。


『そっ、か』
「なぁ…清蘭ってどんなやつなんだ?」
『清蘭?…そうねぇ……』


急に聞かれるとぱっといい答えが浮かばず、少し考える。四六時中一緒にいるとどうしてもその本来の人柄を見失う。


『一言でいうなら 頑固で無理強いしすぎなお姫様 かなぁ…』
「お姫様…」
『そっ。私にとって清蘭は可愛い妹みたいなものよ。でも危なっかしくて目が離せないわ〜。あの時も私がもっと気をつけてたら…』
「……」



あの時、とは多分こんな状況になる前に戦っていた女妖怪とのことを指しているのだとなんとなくわかった。
あの時気をつけていたらこうはならなかったのだろうか…。一瞬の出来事だったために葵もあまり良く覚えてはいなかった。
最後に聞こえた声は他でもなく、三蔵の声だった。

「葵…!!!」



三蔵…


ポツリとつぶやいたその言葉に朱麗は気づいたが、あえて聞こえないふりをするとハンドルを握り直した。







changement









こちらも相も変わらずジープの走る音だけが、それこそ本当にその音だけが響く。
たまに八戒が様子を伺うようにして助手席に座る清蘭を見る。清蘭本人は目を伏せているが、その膝の上に乗った兎の精霊【卯月】がまるで監視するように睨みをきかせているのだった。

その後も会話があるはずもなく、ずいぶん長い時間が過ぎていく。

「走ってる時間的に、そろそろ街が見えてくると思うんですけどねぇ…」

八戒がそうつぶやくように言った。
その言葉に反応するように三蔵は、寄りかかっていた身体を起こした。だがそれは前方を確認する為ではなく、手には愛銃が握られていた。

「八戒…」

三蔵は多くを語ることはなく、運転席に座る八戒にまるで確認をとるかのように名前を呼んだ。

「えぇ、あちらこちらから妖気を感じますね…。悟空、悟浄起きてください」

朝が早かったために乗ってすぐ二度寝をかましはじめた悟空と、乗ってる間に暇を持て余し二度寝していた悟浄を起こす。


「んー…。あ!もう街につくんだな!!」
「…の前にやることがありそうだな。眠気覚ましにはちょうどいいか」



悟空は眠い目をこすりながら前方を見ると、うっすら見え始める街への期待をふくらませる。一方悟浄はタバコを吸い、ひと呼吸したところで増える妖気に気がついたようだった。


「あー、清蘭ちゃん…?荒れそうなんだが、ジープで待っとくか?」
『変な気を遣わなくて結構。私も戦うわ』


悟浄は気を利かせたつもりで清蘭に話しかけたが、あっさり断られてしまった。その様子を見て三蔵は清蘭を見て何かを考えていたが、清蘭と目が合うと「…勝手にしろ」とつぶやいてそっぽを向いてしまった。

そうしている間にもジープは西へと走り続け、肉眼ではっきりと街を捉える。だがその瞬間思ってた通りに敵襲を受けるのだった。


「三蔵一行!!!死ねえぇぇぇ!!!」

「断る」

先陣を切って突撃してきた妖怪は、むなしくも三蔵にひとことで断られるとその愛銃の銃弾の餌食になり、地面へと伏せった。

「つーかよ、そんなに死んで欲しけりゃもっと妖気を隠せってー、の!!!」

会話の最後、握り直した錫月杖を強く降れば鎖でつながった鎌が勢いよく妖怪達を切り裂いていく。

相も変わらず数だけは多い妖怪達に、多少めんどくささを覚えるがこんな雑魚共にやられるわけもなく戦闘を続けるのだった。























***
はい。戦闘開始!!です!!
葵さんと清蘭さんと半々くらいに書けたのかなぁ???

正反対の性格のふたりが同じだけど違う三蔵一行と共に戦闘に入ります。
三蔵一行の目にどうやって映るかとか、そんなところが気になるところですね。

前半の葵さんの話では
あまり多くを話さない、馴れ合いをしないそんな葵さんの見せる人間味?を出したかったです。
普段一緒にいる一行には素の自分をだしていても、あんなにも近くで人の体温を感じるようなことはなかったはずなので「人ってこんなにあったかいんだ…」ってことを思い出すという感じで。
そんなにも近くで他人の体温を感じた記憶はきっと妹が生きてた頃なのかなぁ…。


後半の清蘭さんはもう
『私に話しかけないで、近寄らないで』
なオーラ満載。
だからといって守られたいわけではなく、戦いにも参加するんですねー!【卯月】出しっぱなしにしてたのに、平気なんでしょうか???

そのへんが次回の見どころ?です!!!!


ではまた!

読んでくれてありがとうございました。
黒音/咲夜




2016.05.18

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