本音と建前




悟浄の1振りで、周りに群がる妖怪達が一瞬減ったように見えたが、懲りずに後から後からわいてくる。その間、葵はそれとなく朱麗と俊雷から距離をとっていた。
それを吉と取ったか、妖怪たちがそちらへと群がる。

『葵!!』

そのことにいち早く気がついたのは朱麗だった。その声に反応して悟空達は振り返り、足を踏み出したその瞬間周辺の空気がわずかながら痺れた。原因はどうやら葵の手にしている武器のようだ。

お前らってホントに懲りないよな

そうポツリと呟けば、手に握られた武器でバサバサと敵をなぎ倒す。舞うようにクルクルとその刃の重さを利用し、攻撃の手を緩めることは無い。刃先についた鈴がシャンシャンと一定のリズムを刻み、飾りのタッセルが風になびく。


『アイツ強ぇーな!!』
『無駄な動きがなくて、綺麗ね』


助けに足を踏み出した悟空と朱麗だったが、葵のその様子を見て足を止めた。葵の戦いっぷりに感心していると、その隙を狙ってか刃を向けられる。


『私達もやるわよ!』
『おう!!』









changement










「にしてもよ、今日はまた一段と相手多くね?」
「まぁ少ない方が楽ですが、やるしかないのでさっさと片付けてしまいましょう?」
「あーーー、こんなことしてたら腹減っちゃうっつーの!!」



普段に増して幾分かおおく感じられる敵の数。悟浄は不満をもらし、悟空は腹を空かせる。そんな中、三蔵は少し別のことを考えているようだった。


「…意地張ってないで、引っ込んでいたらどうだ。このくらい俺ら4人で事足りる」
『…ほっといて』


これ以上、私に構わないで!!!
私は………、私は!!!
ひとりちゃんと闘えるの!!!!

『咲き燃えよ【炎華】!!!!』


まるで三蔵がかけた言葉に反発するように攻撃を仕掛ける。清蘭は花札を取り出すとその花札から1枚選ぶと敵の方へ投げつけた。
すると、花札から勢いよく炎が出てきたではないか。花札から出た炎は敵を数人包み込んだ。…その炎はまるで、大輪の華のような形をとるとゴウゴウとうなり上げ燃え盛っている。


「その辺にしとけ」
『ほっておいてって言ってるでしょ!!【卯月】、ここはいいわ!そっちをお願い!』


清蘭の額には汗が滴る。その身体のサインを三蔵は見逃していなかった。だがそんな言葉聞き入れる気もない清蘭は、次々と力を使う。

そうしてうさぎの【卯月】も闘いへと参加する。所持していた金棒を担ぐと小さな身体を活かし、身軽な身のこなしを見せ確実に敵の急所を殴りつける。
しかし、【卯月】だけでは敵の数の方が多いため、また一枚花札をとりだそうとしたところを三蔵と目が合った。


兄さん達とならこんな風にはならないのに…。
でもやらなくちゃ。
早く兄さん達の所へ帰るんだ…!!


そんなことを考えながら清蘭は歯を食いしばると、また精霊を召喚するのだった。


『いでよ、【皐月】!!』


呼びかけに応じ、出てきたのは羊だ。
その纏っている羊毛は電気を帯びており、その羊毛を妖怪へと飛ばすと身体に引っつけた。それを見計らうようにして清蘭は叫ぶ。

『唸れ【雷獣放電】!!!!』

その言葉を言い終わる瞬間、なんと今度は花札から雷が放電された。先ほど羊毛をひっつけられた妖怪達は、大量の電気により感電死させられることとなった。


バタバタと倒れていく敵の数。
ほかの4人と肩を並べるほどだろう。そのことを確認すると清蘭は少し笑った気がした。自分にだってちゃんと闘える、それが具現して見えるからかもしれない。
あと少し、あと少しやっつけたらきっと終わる。そう思うと花札を握る手は自然と力が入る。だがその瞬間他人の体温を感じる。見慣れた手だけど知らない手。


「いい加減にしたらどうだ!」
『嫌だ!!触んないで!!私はひとりで闘える!!!!!!!』


止められた手を乱暴に振り払う清蘭。悲痛に叫ぶ彼女のその目からは血涙がツーっと音もなく流れた。








changement













『葵…怪我、平気?』


つい先程次の街へと到着した一行は、いつも通り街での拠点に宿を借りた。
葵は先ほどの敵襲で何らかの怪我を負ったようで、朱麗が心配そうに聞いた。


「…こんなの大したことない。ほっといたって治る」


そう突き放すように言葉を返すと、部屋のドアに寄りかかる。それは八戒の気功を受けなくても良いといった感じだ。
だが朱麗は怪我とは別に心配そうに葵を見つめていた。


『だいたいお前が勝手にひとりで突っ走るからだ』
「…お前らがやるのが遅いから、しょうがないだろ」
『そんな事言ったって、なぁ〜』
『今回は予想以上に多かったですしね…』


三蔵の放った言葉を切り口に、葵は油を注ぐ。その返答に悟浄は苦笑しながらタバコ灰を灰皿にトントン、と落とす。悟浄の意見に同意するようにして話す八戒もまた、苦笑するしかなかった。


「……」
まるで他人だ。いや、厳密には他人なんだ。
それならいっそのこと、声も顔も背格好も、すべて違ったら良かったのに。そうしたら期待もしないし、裏切られた気分にもならない。
……いつの間にかこんなにも甘えていたのか。

やっとみつけた、私の居場所だったのに…。



『でもよあんま無理されて倒れられても困るし、今後あんな数を真っ向に相手するなんざやめた方がいいと思うぜ?』


その言葉は悟浄の優しさだった。
でもその優しさすら今は疎ましくて、鋭い表情で悟浄を見ると言葉を返した。


「うるさいんだよ。何も知らないくせに…」
『そういうなら教えてくれたらいいンじゃない?』
「黙れ」
『おっと?』


自分が今何を考えて、何を感じて、どうしたいかなんて伝えない限り伝わらない。そんなことわかってるいるし、伝えたいわけではなかった。出来ればひとりになりたかった。
自分の居場所のないココにいても、息が詰まりそうで辛かった。
そんな感情を隠すように表情を崩さずに、また突き放す。


「他人に話す義理なんてない」

『おい、どこへ行く』


葵は部屋にいるみんなを見渡した。
そしてドアの方へ向き直すと、ドアノブを回したのだがちょうどそこで三蔵に声をかけられた。
その声はいつものあの声よりも低く、どうやら不機嫌らしい。きっといつもより眉間のシワを深くきざみ、タバコを吸っていることだろう。葵にはそれが手に取るようにわかる。


「俺は…、お前の可愛がるお姫様じゃないんだ。…ほっとけ」


吐き捨てるようにそう言うと、葵は振り返ることなく部屋をあとにしていった。


『ど、どーするよ』
『三蔵…?』


悟浄と朱麗が顔を合わせ、お互いに微妙な面持ちで三蔵に話しかける。だが返ってきたこたえは…

『…お姫様じゃねぇ、義妹だ』
『え、そこ!?』

という、ツッコミだった。
どうやら三蔵のなかでお姫様という言葉が引っかかったが、どうせ朱麗の言ったことだろうと処理していた。

そんな三蔵は葵の考えた通り、いつもより眉間のシワを深くきざみタバコをふかしていた。どうしたらいいものか、と朱麗は少し考えると、朱麗もまたドアの方へ向かう。


『私ちょっと外に行ってくる!おいで、俊雷!』


そう言って部屋の外へと出ていった。


『あれ、朱麗どこ行ったんだ?』
『たぶん葵さんを追いかけていったんでしょうね…』

全くと言っていいほど、状況を理解していない悟空の質問に八戒が答える。

『姉貴のやつ、変なとこおせっかいっつーか…』
『清蘭に対してもずっとそうでしたし、姐御肌、ってやつなんでしょうね』
『…まぁー、口は悪いけど悪いヤツじゃないだろうし、平気だろ』
『ですね』


そういう八戒はいつもの笑顔を浮かべるのだが、悟浄にはこころなしか心配そうにも受け取れる気がした。











changement















「出せ」





低く響く声が頭の中で反響する。
私に構わないで。私に触らないで。
私は貴方なんか知らないってば…。

私に、触らないで…。


お願い…ひとりにしないで……。







「三蔵、入りますよ」
「……」


コンコン、とノックの音が二回するとその後に八戒の声が聞こえた。八戒は返事がないのでそのままドアを開けば、三蔵がだんだんとオレンジがかる空を考え深そうに眺めていた。

清蘭は戦いの最中に血涙を流したかと思うと、次の瞬間そのまま意識を手放した。
原因とするならば、限度を大幅に超えたストレス、能力を体力に達し上限に振り切って使ったためだと考えられる。

そんなことがあり、こんな状況では死なれては後味が悪いとジープに乗り込むと街へと走ったのだった。


「まだ熱高いですね。うなされてるみたいですし」
「…あぁ」



熱のせいなのか、うなされる清蘭をチラリと見た。


「葵はどうしてますかねぇ」
「…さぁな」
「人付き合いがうまい方じゃないので、ちょっと心配ですね」
「……アイツは、素直じゃないからな」



あくまでも心配していないような返答をする三蔵は、「タバコを買いに行ってくる」と言うと八戒と清蘭の看病を交代した。


























***
というわけで、咲夜にみせましたらオーケーが出ましたので更新です!
なんかもう全然関係ない話なんですけどね、タグを含めだいたい今ので5000文字くらいなんですよ。最近はだいたいこんなものかなぁ、って思うんですけど、前はもっと長かったりして読み返して読みづら!!ってなったり 苦笑
いろいろ考えてやらないとなぁ、と思った次第です。


ハイ、本題?ですが…
戦闘ですね。葵さんは一手に引き受けてバッサバサ行きます。
清蘭さんはメッチャ力使いまくります。結果倒れます。過去の設定で男性恐怖症なのもあり、(顔などは同じでも)他人と一緒にいることなどからのストレスですね。
【非常に辛い、悲しい、怒り】などから血涙という例えをもちいますが、清蘭さんは咲夜曰く血涙しているそうです!←

清蘭さんは表情に出して無理するタイプ
葵さんは表情に出さないで無理するタイプ

ですかねぇ???



今後この無理するふたりがどう変わるか、変わっていけるのかですかね

ではまた!


読んでくれてありがとうございました。
黒音/咲夜



2016.05.28


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