糸のほつれ



頭が真っ白だ。
それと対象に空はだんだんとかすみ
だんだんと赤が濃くなる。まるで血の色だ。

『ウソ…、清蘭は…?』
『なぁ、どうなってんだよ三蔵!!なぁ!??』
『…くっ……』

つい先程まで一緒にいた清蘭は消え、代わりに中から出てきたのは見ず知らずの人間。
姉妹のように過ごしてきた朱麗も、いつも脳天気な悟空までも驚きを隠せずに問うように三蔵をみるが、もちろん三蔵もそんなことを知るよしもない。ただあまりにも悔しそうな表情が、みんなの目に焼き付くだけだった。

『…………』



また

また

また





守れなかったのか




自然と握りしめる拳に力が入る。
もう二度と手の届かない場所には行かせない、傷つけさせない、怖い思いなんて絶対に、絶対にさせない。そう思いこんな偏屈な旅にまで連れ回してる。
守ってやる、そう言ったのは自分自身。そんな簡単な約束をまもれなかったのも自分自身。

『…クソッ』

吐き捨てるようにそう言った三蔵を見て、自分の彼女である清蘭が目の前から居なくなってしまった驚き、不安、悲しみを兄である三蔵がこんなにも背負っている事に言葉を発することができなかった。
どんなに『俺の清蘭』なんて言っていても、保護者の愛情に代わるものは何一つないのだった。

『…どこいっちまったんだよ、清蘭……』
『まぁとにかく、この子も連れて安全なところに避難しましょう。悟浄、運ぶのお願いできますか?』
『………おう、わかった』

この場を収束に指示を出したのはやはり八戒だった。落ち込む悟浄の肩を叩き、彼に指示を出してやる。
悟浄も、八戒の指示に少ししてから反応すると、清蘭の代わりに現れたその子を抱き抱える。

朱麗は嫌な程に赤く染まる空を眺めていた三蔵を見る。しばらく様子を見てからそっと声をかけた。

『三蔵…』
『……』

きっと見つかるよ。
なんてそんな無責任で軽すぎる言葉なんていらないんだ。何の慰めにもならない。結局朱麗はかける言葉が見つからなかった。

『……行こう』
『………………あぁ』

少し先の方で三蔵が歩き出すのを待っていた3人は、歩き出したのを確認するとまた前を歩き始めた。










changement









「なー、八戒ー。この子どこに寝かしたらいいよ」
「あぁ、ちょっと待ってくださいね」



八戒はそう言うとジープに積んでいた、毛布を地面の上に敷く。


「気休めですが、何も無いよりはいいでしょう。それで、ですが」
「なぁー、飯食いながらだって話くらいできんだからさー、先に飯くおうぜーーーー」



どこまでいっても悟空は悟空。
とは言っても、何もわからない今、なにか出来ることがある訳では無いのだ。
問題解決が先か、腹ごしらえが先か。今の状況でどちらかを選ばなければならないのなら、悟空ではないがここは腹ごしらえなのだろう。

悟空がご飯と聞いて自ら薪集めしたり、慌ただしく八戒の手伝いをはじめる。いつもなら三蔵は一番奥にどっしりと構え、悟空ともう1人、葵が八戒を手伝う姿を見ながらタバコをくゆらせるのが日課であるのだが、やはりなにか落ち着かない様子だ。


「三ちゃん、アイツがいなくて落ち着かないんだろ」
「あ゛ぁ?」
「タバコの減り、いつもより早いぞ。アイツがいたら「ちょっと?悟浄とふたりで吸いすぎだから!煙い!」って言われちまうもんなー」
「……」


はっきりいって、気にしたことがなかった。
いつもそれが普通だった。止められて、煙たがられて、しばらく間をあけてはまたタバコをくわえる。それが普通だった。

「…チッ」

不思議にもその いつも≠ニ違うことに気づいたその次のひとくちから、なにかいつもと違う味がした。煙を吐いていたタバコを半ばで地面にこすると火を消し、携帯灰皿に入れた。

それから、しばらくたつと悟空待望のご飯の時間。
ご飯といってももうそろそろ食料のそこをつくので、大していいものは出てはこない。お米を炊いて、缶詰のおかずをみんなで囲ってつつくくらい。
その匂いに誘われてなのか、毛布の上に横になっていた少女がムクリと身体を起こした。

「お?姫サンのお目覚めか?」
『…ん…。私はにしてたんだっけ…、ってあれ?みんなどうしたの…?』


キョロキョロと周りを見渡す少女。どうやらこちらの事をなぜだか知っているような口ぶりだった。
少女もみんなが思った反応と違うのか、不思議そうな顔でそれぞれの顔をよく見る。

『…兄さん、だよね……?』

少女の顔はだんだんと怖い顔になる。
知ってるはずのみんなは、いつもと違う反応で…まさかみんな記憶喪失?


『…違う、兄さんじゃない……。悟浄じゃない。八戒じゃない。悟空も、悟空じゃ…ない…』
「なんだよ!俺は悟空だぞ!!三蔵は…兄さんじゃないけど、八戒は八戒だし、悟浄だって悟浄だぞ!!意味わかんねぇよ!!」
『意味わからないのはこっちよ!じゃあ!!朱麗に俊雷はどこなの!!みんなをどこにやったの!?さては妖怪の仕業ね!?今すぐ兄さん達を返さないと容赦しないわよ!?でておいで!【水無月】、【如月】!!』
「は?ちょ…」


何をどう捉えたかのかわからないが、少女は構えると何かを呼び出す。悟浄の困惑の声をかき消すように、技を続けざまに繰り出す。


『おねがい、みんなの偽物をやっつけて!!ーーすべてを凍りつかせろ【永久凍土】!!』














changement
















『ちょ!?おま!!急に何すんだ!!』
「…姿も声も同じ。けどお前らは私の知る三蔵一行じゃない。うせろ、妖怪め」


土煙が舞い、その騒ぎに5人はとっさに構える。だがどうしても頭に引っかかる言葉が聞こえ、短気の三蔵もその引き金を引ききれずにいる。

『ちょっと待ってください!今あなた三蔵一行≠ニ言いましたよね?しかも姿も声も同じと…』
『どういう意味だ…答えろ』


愛銃を再び構える。が、

グウゥゥ〜〜

被るようにして悟空の腹の虫が限界の白旗を鳴らす。


『猿、もう少し緊張感持てよ…』
『しょ、しょうがねぇだろ!?腹減ってんだから!!それにソイツ、清蘭と思って開けた繭に入ってたならなんか知ってるかもしれないだろ??』
『悟空にしてはマシなこと言うわね…』
『朱麗まで、ひでー!』


何をするかわからない刃物むき出しにしている人間よりも、出来上がったご飯の方に既に頭のスイッチが完全に入れ感っているため、これ以上の話はもう頭に入らない。

『はやく!!!飯!!!!』


そんな悟空のおかげもあってか、無理やり丸めた自体は清蘭の代わりを加えてご飯を囲うことにした。

『そういえばお前なんて名前なんだ?』
「葵、です…」

この自体に流されるように悟空の隣に座ることになった葵は、決まりがつかなくなった青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)≠さりげなくしまった。


『いただきます!!!!』
「…いただきます
『それでなんですけど、僕なりに考えてみたんですよ。あの繭は何らかの仕組みで、清蘭と葵さんを交換した。…とか』
『あー、たしかにそれなら納得するかも』


朱麗は、悟空の隣に座る葵≠見ながら納得する。当の葵は特に発言しようとすることなく慎ましく、大人しくご飯を口に運ぶ。


『でもよ!!その場合清蘭はどこに行ったんだ、ってなるだろ??』
『あー。じゃああの女妖怪が自分の巣に素早く持ち帰ったとか?あと人に箸向けないで』
『あ、ワリ』
「……」


なにやら悟浄が騒がしくご飯をかきこんでいたその箸を朱麗の方へピッ、と向けた。



その場合私はどこから来たんだよ



葵は考える。
今周りにいる三蔵一行が何者なのか。姿も声も同じなのに何が違うのか。同じようにご飯を囲むのに、こんなにも雰囲気が違う。空気が、重い。
全くもってここには自分の居場所がないのだ。


『もし朱麗の言う通りなら、早く探さねーと行けないんじゃねーの?あ、鯖味噌缶の汁もーらい!!』

ご飯に鯖味噌缶の細かい残りとその汁をかけると、残りのご飯を素早くかきこんだ。

『確かに悟空が言う通り早く探さないとね!!』
『………待て』

焦る気持ちに、残る食べ物を口に放り込もうとするも、三蔵の声でピタッと止まる。

『三蔵…?』
『これは俺の憶測にすぎないが、清蘭はこの世界にはいないだろ』
『え、三蔵…。清蘭いなくなったからって、気を確かに!!』




くだらない
くだらないからこそ、羨ましく感じる
そんなに愛されてるなんて

清蘭ってどんなやつなんだろう…




少し馬鹿にしたようなその切り返しに、三蔵はどこから出したのか愛用のハリセンで朱麗の頭へと容赦なく1発かました。

『イッター!!か弱い女性の頭を叩くなんて、ホントどうかしてる!!』
『フン、か弱いなんてテメェには似合わねぇよ』
『まぁそれは置いといて、どういうことなんです?』
『大事な彼女が叩かれたっていうのに、置いとくなんて!ちょっと八戒!?どういうこと!?』



でもやっぱり、くだらない…



『あの女妖怪、死ぬ瞬間俺に向かって後悔するといいと言った。俺にとって後悔する出来事になるって事。つまりまずそんな簡単なところにいるはずもねぇ』
『確かにそうですね…。その話が本当なら、例えば…、どこか見つからない場所、見つけられない場所に飛ばされた。あるいは既に…………』


嫌な推測が口に出される前に、まだ聞きなれないその声が割って入る。



「…死んでる可能性は、ないだろうね」






























***
どうも!
繭を引き裂いたら別の人でした!事件 の続きです!←
2組の一行が同時に同じことに、別世界でなる。前作 並行世界とそのへんは変わりありません。


今後はこんな感じで同時進行で、行ったりきたりだと思います。
今後清蘭に対して葵の一行はどうするのか、とか
葵に対して清蘭の一行はどうするのか、とか

本人達は何を感じるのか、とか。
時間が経つにつれ、それぞれの考え方が変わったり、感情の表現が出せればなぁと思ってます(`・ω・´)



最後に葵サンが「…死んでる可能性はないだろうね」って言いましたが、まぁその考えは次回話してもらう予定です(予定)



では
読んでくれてありがとうございました。
黒音/咲夜


2016.04.23

[ 4/12 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -