代用できないモノ




「みんなどうしてるかなぁ…」



ぽつりと呟いたその言葉は消えることなく、何故か返事が返ってきた。

「どうしてるでしょう?占ってみます?」
「誰だ」
「もしかして、あなた…」

「く、くるな!」


声のした方を見ると、そこに立っていたのは巫女の格好をした黒髪の良く似合う女の人だった。女の人は葵を見るなり何かを感じたのか、手を差し伸べて葵に寄っていく。葵は警戒を解くことなく後ろへ後ずさる。

「もう…そんなに怖がることはないじゃない」

あまりにも怖がって逃げているようで、女の人はその足を止めて肩を落とした。


「……わるい」
「まぁいいわ。それで、あなたはどうしてコッチに来ちゃったの?早く帰らないと帰れなくなるわよ」
「…え?どういう……」


それはまるですべてを見透かすような、綺麗な目をしていた。
ーーーもうすぐまた夜が来る。





changement








「じゃあ三蔵、留守を頼みますね」
「ああ…」


返事を聞き終えると八戒は部屋の扉をパタンと閉め、悟浄と悟空を連れ夕食を買いに外に出掛けた。


「…やっぱ三蔵変だよな」
「そりゃあ三蔵のヤツだって参るだろうよ。大事な葵はいねぇし、清蘭ちゃんは寝込んじゃってるし」



宿を出たところで悟空はつぶやいた。いつもと違う三蔵にどこか違和感を感じているようだった。それに対して悟浄はいつもと変わらない顔でタバコ咥えると、火をつけながらそう返した。


「でもたしかに、いつもと違うアイツを見てるのは変な感じはするけどな」


もうそろそろ月が昇ろうとする空を仰ぎ、悟浄はタバコの煙を空に吐いた。


「こんな言い方したらあれだけどよ、他人のしかも女の子に優しくするとか予想外だったんだけど?」
「葵とアイツが似てるわけでもないもんなー!」



悟浄と悟空はついさきほど見た行動や、ここに来るまでに助手席を自主的に譲った行動の真意を考えはじめる。

「似てるからじゃないですか?」

八戒がそう2人に返すと、その2人はクルッと振り返って「それはないだろ!」と言い出した。
顔が似てるわけでもなく、服装が似てるわけでもなく、性格が似てるわけでもなく、2人には八戒がいう意味がわからなかった。


「目に見えるところじゃなくて、もっと核になるところ、とでも言うんでしょうか」
「かく になる…ってどういうことだ?」



教えてもらったのに余計に悟空の頭の上にははてなが浮かんでいた。


「その人の中心、とでも言いましょうか?例えていうなら、何でも抱えようとして変に我慢しまう所…とか?」
「「あー…」」



そう言われ、悟空と悟浄は声をかぶらせながらなんだか納得したようだった。


「葵のやつ素直じゃねぇしな」
「あぁ、それは三蔵も同じ事言ってましたよ。ホントもう少し素直に自分の感情をぶつけてくれてもいいんですけどね…」
「葵いまどうしてるかなぁ…」



昇り始めた月を見つめ、悟空は心配そうにそう言った。心配してない仲間なんていない。信じられるのは仲間でも、昨日の自分でもなくて、今日の自分だけだ。でも仲間は何より大事なことに代わりはない。










changement











「夜になっちゃったわね」
「……」
「明後日が満月らしいわ」
「……」
「そういえば私の名前言ってなかったわね。私は乃亜。ここで巫女をしてるのよ…って、ちょっと聞いてるのっ?」


街の端にぽつんと立つ古びた社。彼女とはぼんやり考えながらふらふらしていたら出会った。
葵が返事をしなくても勝手に進んでいく話に、葵は聞いているのか聞いていないのかぼんやり昇ってきた月を眺めていた。


「明後日が、満月…」
「…もう……。そんなことよりあなた、帰らなくていいの?」
「帰る…?どこへ」


そこでやっと会話が成立した。
だがその目に光がなかった。落ち込み、現実から目を背け、帰る場所がわからない…まるで家出少女のよう。


「どこって…家族の所とか、仲間の所とか…」
「当たり前って、普通って、なんだ」
「……?」


人それぞれ当たり前は違う。
その当たり前がわからない。
みんなのところに帰れたら
おかえりって言ってもらえたら
それだけでそこに居場所ができる。

…もし言ってもらえなかったら?
そもそも帰れなかったら?



「………何を信じて、何のために生きたらいいんだよ…」

「…もう、そうなっちゃったら自分の為に生きるしかないんじゃない?」
「自分の為…」


昔同じようなことを三蔵にぶつけたことがあった気がする。生きる意味も、死ぬ意味もわからなくて、ただ塞ぎこんでいた。自分の為に生きる。旅をはじめて、それがやっと見つかった気がしたんだ。


「…帰りたい」


寂しくて、怖くて、不安で、はじめて本音がこぼれたのかもしれない。
乃亜は「きっとすぐ帰れるわ」と返すと葵の頭を撫でた。







changement










「……」


窓の外は暗く、月だけがぽつんと浮かんでいるようだった。三蔵はその月を見ているが、いつものようにタバコを吸ってはいなかった。


『……タバコ、吸わないの?』

「…起きたのか」
『うん…』


街につく手前での戦闘中、無理がたたったのか熱を出して倒れた清蘭。陽が落ち、やっと目を覚ましたが、まだ少しだるさがあるように見えた。


『みんなは、どこに行ったの…?』
「飯を買いに行った。お前を置いて外に食べに行くこともできないしな」
『そう…。……ありがとう』
「…なにがだ?」
『…わからない』


兄さんじゃない
そんなのは見たらわかる。

けど、最初ほど嫌じゃないのは、どうしてだろう。
もちろん早く帰ってみんなに会いたい。
それは変わらないけど、けど……



『もうひとりの仲間って、どんな子?』
「もうひとりの仲間?」
『だって、私と重ねてそのもうひとりの仲間のこと心配してるでしょ?』
「……アイツは、色々足りてない。大されたことは出来ねぇけど、頼っていいヤツが居るんだって事をアイツにわかって欲しい」


そのあと三蔵が何かを語ることは無かった。しばらくすると3人が帰ってきて、部屋が急に賑やかになる。それと入れ替えで「タバコ吸ってくる」と八戒にひとこと言うと、部屋を出ていった。


「ホント三蔵サマが他人を気遣うとか怖いよなー」
「悟浄も見習って、病み上がりの清蘭さんの前でタバコ吸おうとするのやめたらどうですか?」
「あ、ワリィ」



その光景はいつも見てきたものとさして変わらないはずなのに、やはりどこかに違和感を感じていた。
清蘭は『別にいいよ。いつも兄さん達も吸ってるし』とこたえた。あえて悟浄とは呼ばなかったのは、目の前の悟浄が恋人とは別人だということを意識してだろうか…。

買ってきたというご飯の中から食べれそうなものを選んで受け取ると、そこで三蔵が部屋に帰ってきた。


「三蔵オカエリー!あ!!そうだ!三蔵!!」
「…悟空、騒がしいぞ」
「てか口の中のモン飲み込んでから喋れよな!!この猿!!」
「なんだとー!!うるせぇよ、このエロガッパ!!!」


『…ふふっ』

「!」


いつもと変わらないくだらない喧嘩をしていると、清蘭が少し笑っているようだった。


『あ…』
「やっぱお前も、笑ってる方がいいな!」


笑ってる清蘭を見て、悟空は自分の思ったことをそう言った。


『お前も…?』
「え?あぁ、俺らの仲間にって奴がいるんだけど…あんひゃはらはひんだおあー!!」
「いやだから、口にモノ入れて喋んな。つーか、何言ってるかわかんねぇよ」



話の途中で何故かご飯をかきこんだものだから何を言っているのかわからなくなった。今の会話でわかったのはもうひとりの仲間の名前だけだった。


『その葵…ってどんな子なの?』


なんでだか無性に気になった。
きっと自分と入れ替えで、この世界から消えてしまったのだろう。


「どんな…妹?いや、弟?あとは素直じゃないな。八戒どうよ」
「僕ですか?そうですねぇ…。彼女は良く気が利きますし、いい子ですよ」
「葵は女だけど強ぇー!でもあんま笑わねぇんだ。ぜってぇ笑ってる方がいいのに。なぁ、三蔵!」

「…なんでもいい」



三蔵は悟空に話をふられたが、そっけなく答えた。でもその答えに「帰ってくれば なんでもいい」という意味が含まれることに、悟空以外はちゃんと気づいていた。


『大事にされてるのね、葵ちゃんって』
「三蔵サマお抱えのメイドだもんな〜」
「!」

『メイド…?』


悟浄のその発言に三蔵自身がびっくりする。
そして今回はお決まりのハリセンじゃなく、悟浄が後頭部に感じたのは冷たく硬い銃口。


「…ゴキブリが長く生きすぎじゃねぇのか?」
「ちょちょちょっと待てよ!!!!だって真実じゃねぇか!!なぁお前ら!!」
「……」
「……」
「死ね」
「マジでほんと!!!死ぬから!!!」

「でも確かに長安にいた頃から葵ってほんと三蔵の周りの仕事なんでもやるよな」
「働きのですよね」



悟空はデザートの肉まんを頬張りながら喋り、その言葉に八戒も納得しながらお茶をすする。
どうやら悟浄の言う「メイド」とはそういう事らしい。

いなければいないでやっていける。もちろんそれは何事もそうだ。
だけど、やはりいることに越したことは無いのだ。何かが足りずポッカリと空いた穴を埋める代わりは何一つとしてないのだ。




















***
こんな感じですかね?
今回はとても行ったり来たりしました。
そして【乃亜】さんが登場です。

巫女さん、黒髪、黒い目

っていうのを咲夜から聞いた気がします!←
あとはお姉さんみたいな感じ!です←


私的には清蘭さんはさみしそうに外を眺めて、好きな?タバコも吸わない姿に何かを感じ取ったんじゃないかなぁって思ってます。

兄さんはこんな顔したことないな

みたいな。
いやたぶん清蘭さんがいない今向こうの世界でそんな顔してると思います!
触れられるのは拒否するかもだけど、同じ空間でご飯食べるくらい平気だなっていう正常な?判断ができるまで落ち着いてるといいと思います!!


葵さんに関してはもうなんか家出してます!!!
乃亜さんのところにいます。
そのまま一夜明ける予定なので、朱麗さんたちと合流するのは次の日です。
つまり次は2日目?です
入れ替わった日、1日目、2日目
って感じです。3日目というのか??



てことでまた(=`・ω・´)∩



読んでくれてありがとうございました。

黒音/咲夜



2016.06.17





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