過去を引きずってもあまりいいことは無い
いつぶりだろう
独りでいるのなんて、いつぶりだろう
いつも誰かの存在を背中に感じてた
いつでも手の届くところに誰かがいて
それに心を許していた事にも今回はじめて気がついた
さみしい なんて考えたこともなかった
なにもかもすべてを失って生きているのが辛くて死にたくて
拾ってもらってからも死にたいと思ってた
でも生きると決めたあの日を境に変わった
さみしい なんて
「考えたこともなかった…」
宿を飛び出してからあてもなく前を決めて進んでいた足を止めた。周りを見渡せば幸せそうな家族連れや、仕事仲間なのか楽しそうに話している人達が目に入る。もうお昼も近く、漂う食事の匂いが鼻をくすぐる。
『ハラヘッター』
「!…朱麗……」
『って今頃部屋で悟空が騒いでる頃かしらね』
お腹をすかせて騒ぐ悟空のことは容易に想像出来た。そのことを考えてか、葵はクスッと笑った。
『そうやってもう少し肩の力抜いたらいいのよ?』
「……」
頭ではわかってるからこそあまり話したくないのか、目をそらすとまた難しい顔をした。
「…!?」
『クゥーン』
『俊雷だって葵のことを心配してるのよ』
「…いい子」
擦り寄ってきた俊雷に驚いた様子を見せたが、すぐに受け入れるとしゃがんで頭から背中に向けて優しく撫でる。俊雷も嫌がることなく気持ちよさそうに目を細める。俊雷に向き合う葵はとても穏やかで、不安や孤独を忘れた顔をしていた。
『やっぱりアニマルセラピーかしらね』
「…?」
『こっちのハナシ』
「…話、変わるんだけどさ」
『なぁに?』
葵は撫でるのをやめ、立ち上がると真っ直ぐな目で朱麗を見る。
「……清蘭ってどんだけ愛されてるんだ?」
『え……?』
「アンタも含めて、皆が皆あんな顔して心配するとか…。こう言ったらなんだけど、俺から見たら普通じゃない。たかが仲間のひとりだろ?」
『葵……』
「口を開けば清蘭はどうしてるかなとか大丈夫かなとか…。ホント、甘ったるい」
先程までの和やかムードは一転して、なにかが重くのしかかる。そうして葵の心には言葉を発する度に錠が落ちる音が聞こえる気がした。
『あははー……。そんな風に見えてたのか。…じゃあさ、葵は心配なんてして欲しくないってこと?』
「……え?」
何かが違う。似ているようで違うパズルピースを無理矢理にはめるような、そんな感覚に似ていた。
『たかが仲間のひとりだとしても大事なものは大事なの。三蔵にとっては妹で、悟浄にとっては恋人でもあるの。そうでなくても大事な相手には無事でいて欲しいなんて、当たり前のことでしょ?』
「………」
当たり前のこと
そんなこと、言われてもわかってる。
わかってるのにどこか腑に落ちない。
なのにどうしてこんなに
ずるい とか 羨ましい とか
思ってしまうんだろう。
『それに私達、ポーカーフェイスで居られるほど器用じゃないもの』
ウィンクしながら朱麗は付け加えるようにしてそう言った。葵はそんな朱麗をすこし見つめてからまた目をそらす。
『どうかした…?』
「そう、だよな。変なことを聞いて悪かった。…よっと」
葵は大事な仲間のことを批判したことを謝ると、その辺に積んであった荷物を踏み台の代わりに屋根の上へと登った。
『ちょ、どこ行くの!?』
「……」
『ねぇ、葵!』
屋根を降りて向こう側へ降りる瞬間、葵は「…どこでもいいだろ」とそう突き放すようにつぶやいた。
changement
暗闇に立つと前がわからなくなる。
なぜって?
自分が向いている方向すべてが前になるから。
『…私何してたんだっけ……』
清蘭は何も覚えていなかった。ただ1人ぽつんと暗闇に立っている事だけが事実。
周りを見渡してみたものの、何も見えない。自分の足はおろか、顔に近づけてみた手ですらよくわからない。
『みんな………どこ………』
何も見えないことが怖くてみんなに声をかけた。だが返事が返ってくることもなく、その暗闇に吸い込まれるようにして音が消える。
次の瞬間清蘭は悪寒を感じ、ゆっくりと振り向けば無数の手がこちらへと手を伸ばしている。
『いや……!!』
その手は自分の知ってる手ではなかった。まるで捕まってしまったらもうみんなの元には帰れないような…。
捕まったらダメだ
そのことだが頭の中でぐるぐると回る。捕まらないためにその足で前へと進む。
だけどなぜだかいくら走っても辺りは暗闇。走って走って走っても手は追いかけるのをやめてくれない。
『嫌だ、怖い……。助けて、兄さん…!』
すると一筋の光が差し込んだ。
前を歩いていたのは見間違えるはずもない三蔵だった。一瞬目があった気がして、清蘭は安堵の表情を浮かべ走って駆け寄ろうとする。
前に進んでるのに何故か距離が縮まることはなく、先を歩く三蔵はだんだんと遠くなる。
『待って…!』
三蔵は前へ進んでいくのに、自分は一向に近づけない。足は前に進んでるのに進んでない。
『ねぇ、待って!!』
三蔵を呼び止めようと声を上げれば、三蔵の周りには自分を除いたみんながいた。そこにいないのは、自分だけ…。
『イヤ…。兄さん、みんな……待って、置いていかないで…!』
必死に手を伸ばしてみるが、どうあがいても届くはずもなく、その伸ばした手は虚しく空をつかむだけだった。
清蘭は掴みそこねるとバランスをくずし、足を絡ませ転んでしまう。不思議と倒れた時に感じる痛みはなかったが、その代わり足首に他人の熱を感じた。
『い、嫌…お願い…。やめて、離して…やめて…やだ……』
スーッと血の気が引くのがわかった。
足首をつかむゴツゴツとした大きな手は、清蘭を離してなんてくれない。そして光とは逆の暗闇へと引き戻される。
『兄さん・悟浄・朱麗・悟空・八戒・俊雷・ジープ、助けて…やだ……置いてかないで!!!!』
じんわりと伝わる熱が足首からだんだん上へと這い上がってくる。無数の知らない手が、知らない男の手がベタベタと這い上がってくる。
| いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! |
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! |
***
「な、なんだ!!?」
「清蘭さん!?」
街の宿の一室。
いきなり叫び声を上げ始めた清蘭にびっくりする一行。
なにか夢を見ていたらしく、起き上がった清蘭は身体を震わせ怯えているようだった。冷や汗を垂らし、身体からは血の気が引いていた。
「おい清蘭!大丈夫か?しっかりしろっ」
心配そうに悟空が清蘭の肩に触れようとした時、清蘭はそれを拒むように手をひっかいた。
『いやぁッ!!』
「いっ…」
『ご、ごめんなさい…っ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!嫌だ…叩かないで、蹴らないで…っ。…お願い…これ以上痛いことしないで…!!!』
どうやら目は覚めているようだが、高熱が引き金となったかパニック症を起こし、現実との区別がつかずに怯えきっている。
「とりあえず落ち着かせねぇと話になんねぇな」
「でもこの様子じゃ…」
なにかどうしたものかとさすがの八戒も眉を寄せ、考えてしまう。すると何を考えたか、三蔵は清蘭に近づくと迷うことなく、その怯えきった清蘭を抱きしめた。まさかまさかの行動に3人は呆気にとられた。
一方清蘭はなんとか逃げ出そうと、三蔵の腕に噛み付いたり爪を立てたりしている。だが、三蔵がそれに屈するはなかった。
「もう大丈夫だ…清蘭。俺が傍にいてやるから安心して休め……」
『…に……兄さん…?』
三蔵の声を聞くと逃げようとしていた抵抗がやみ、その顔を確認しようと顔を上げたその瞬間、清蘭は腹に鈍い痛みとともに再び意識を手放した。
***
ふぁーーーーい!
さてさて今回はなんだか不穏な葵さんと、悪夢にうなされる(+最終的に強制終了させられる)清蘭さんでした!!!!!!!!
葵さんのほうは
言葉で言わないけどすぐ感情に出てしまうっていう。羨ましさとか+自分の居場所の無さ ですかね。
過去の話を引っ張りますが、家族が死んでしまって可愛がってた妹ももちろん死んでしまって、生きてく意味を見つけられずにいたんですよ。そこでなんやかんやあって生きる覚悟を決めて、そこがやっと葵さんの場所になったわけで、それが三蔵さんたちなんですね!
でも今目の前にいるのは違う人達で、心配してるのはもちろん自分ではなく、消えてしまった仲間のことでそれは当たり前だけど
「お前の場所はない」
と言われてる気分しかしなくて劣等感です!!
ですが今後その家出?が役に立ちます←
清蘭さんは
悪夢にうなされてますね!ベースはこれまた過去の話ですね。かいつまんで言えば
男性恐怖症+知ってるけど正確には知らない男の人たち+力の使いすぎ
で前回熱を出し、うなされてるんですね。
頭の中に残ってる嫌なことが夢の中で具現してるというかそんな感じ。
そしてそのパニックを止めるのが三蔵様っていう。なんででしょうね??他人なのにね?優しいね?最後の方でなぜ他人である清蘭さんに優しく出来たのか聞きたいですね!(どんな)
ではまたお会いしやしょう
読んでくれてありがとうございました。
黒音 /咲夜
2016.06.11
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