わかったことは四つ。

一つ目は、相手の体のどこかに触れなければ、過去や未来を見ることはできないこと。更に、対象は必ず一回につき一人であること。二つ目は、過去の情報はほんの一秒前に至るまで全てをほぼ完璧に把握することができる。それはその時私が見たい情報のみを厳選し、まるで辞書を引くように好きに閲覧できるということ。ただし未来については断片的にしかわからない。ただ、その事象に近づくにつれて予知は鮮明になってゆく。三つ目は、起こる運命は変えられないということ。例えば先程、リゾットが肘をぶつけ、テーブルの上のコーヒーをこぼしてしまう予知をした。それは約一時間前の予知であり、その結果を知っていながらテーブルは汚れた。ただしコーヒーではなく飲みかけのミネラルウォーターで汚したのだ。しかも、こぼしたのは私。そう四つめは、自分自身の過去や、未来を見ることはできないということ。


「……これから一時間後、何が見える?」


「………イルーゾォ、ホルマジオ。ペッシ。三人の男が帰宅して、あなたに挨拶する。あなたは私を紹介する。一人は肯定的に迎え入れ、一人は困惑し、もう一人は嫌そうな顔をする。」


「俺以外の人間の動向もわかるのか?」


「……さあ、わかんないけど、あんたの中の想像が正解を導いてるんじゃない?」



薄暗いアジトのリビングルームで、私と暗殺チームのリーダー、リゾット・ネエロは向かい合って椅子に座っていた。彼は長い脚を組み、片肘で頬杖をつきながら私に手を差し出していた。私はその手を握り、彼の未来を見る。もちろん、必要であれば彼の過去を見ることもできる。ほんの数秒前の出来事、つまり感情も。未来予知に必要であれば簡単にどんな情報も出てくる。当然に、私はこのたった数時間で彼の幼少期から付き合った女の顔や名前、好物や映画の趣味まで、恐らくこのアジトに居る他の誰よりも彼のことを知り尽くした。


私だったら冗談じゃない。見ず知らずの人間に心のすべてを暴かれるなんて。それにこいつら、私が完全に白だとは思っていないはず。みすみす敵に手の内を晒すような行為に違和感しか感じなかった。もっとも、先程のこいつの能力を知る限り私が黒だと思った時点で簡単に殺せてしまうだろうが。



「……気持ちわりーヤツ。他人に心の中を見られるとか、嫌じゃないの?」


「特に隠したい過去はない。感情もな。今大切なことはお前の能力がどういったもので、どの程度相手の心の内と、未来を予知できるか知ることだ。それが今後の俺達の命運を左右する。余計なことを考える必要はない。」


「…………」



こうして奴の心の中を覗いていても、彼の言葉通り彼の中に揺るぎと言う文字はなかった。喜び。怒り。悲しみ。この男は何に対しても素直に感情を受け入れ、そして純粋に行動する。マフィアの、更には暗殺チームのリーダーに対して言う言葉ではないが、これが正義だと言うならきっとそうなのだと思う。国民の為と謳う政治家より、警察官より、ずっと純粋な正義に近い。まさかそんな事実、はいそうですかと信じられる訳はないけど。



「どうだいリゾット。その女使えそうなのかい?」


「ああ、未来予知の方はタイムラグが短すぎるが、成長の余地ありと言ったところだな。過去を見るのは凡そ百発百中だろう。俺がガキの頃近所のバーさんと文通してたことまで当てやがった」


「何そのほっこりエピソード。」



他の男たちと違い、幾分か人当たり良さそうな笑顔を浮かべこちらにやって来たのはメローネという名前の男。だがこういう雰囲気の奴に限ってロクでもないのは世の常ってやつだ。
あからさまに嫌な顔をして睨みつけると男は舌舐めずりをして私の頭の天辺から爪先まで舐めるような視線を送った。


「残念。性悪そうな女だから使えなければいいベイビィのママになると思ったのに」

「今のところそれは無しだメローネ。」

「わかってるよ。そんじゃまあひとつ、宜しくな、ネエロ・イル・ミーチョ?」


そう言って差し出された手はあたり前に取る訳がない。つんと横を向いた私に奴はなおもニコニコ笑顔を崩さず、リゾットの手を握っていた手を取ってそのまま自分の口元まで持っていった。
突然のことに抵抗する間もなく、手のひらにねっとりとした生きた人間の舌の感触が伝わって力づくで振り払おうとした。しかし振りほどけない。男は私の反応を伺うように視線を寄越しながら丹念に一本ずつ指をしゃぶった。あまりの気持ち悪さに急所を蹴ってやろうと脚を振り上げるとパッと手を離して距離をとった。

肩で息をする私に、メローネは自分の口の中の感触を味わうようにふむ、と少し考えてからあのニコニコとしたいい笑顔で私に向き直った。


「うん!いい汗の味だよ!少しベタつきがあるから恐怖や不快感を感じた時の汗だな。塩分濃度も丁度いい!肌のハリや血の巡り、俺の股間を蹴っ飛ばそうとした元気さも合格点だなあ。いやあ君はいいベイビィを産むと思うよ!誇りに思うといい!」



「………何この気持ち悪いの!?!?!?」


「メローネ。自己紹介がまだだろう。彼女に挨拶を……ああ、アンタの名前を聞くのもまだだったな。……丁度イルーゾォとホルマジオ、ペッシも帰ったきたようだ。あんたの言う通り同時の帰宅だ。」




丁度いい、全員集まれ。、リゾットの言葉にダラダラと辺りに散らばっていた奴らが集まる。たった今帰宅したイルーゾォ、ホルマジオ、ペッシ。三人は見慣れないアジア人が居るのに訝しげな視線を向けつつこちらにやって来た。リゾットのイメージで見た通り、イルーゾォは背の高い長髪の男。ホルマジオは坊主頭で剃り込みが入っている。ペッシは派手なコートとグリーンの髪が特徴的だ。



「全員聞け。こいつは人の過去と未来を予知できるスタンド使いだ。今日からチームの一員になる。…名を名乗れ。」

「………ナマエ。私はマフィアは嫌いだし、ここに来たことも本意じゃない。スタンドの存在も今日初めて知ったし、この力を使ってどうやってここを抜け出そうか考え中。宜しく。」



「ああ!?」「兄貴ィ、なんスかこの女!?」「リーダー。悪いが俺は反対する。利用するよりも殺っちまった方がいい」「ッハッハッハ!!言うなァ〜〜〜おもしれ〜〜」、口々に様々な言葉が聞こえてきた。元より、仲間になる気も、ましてや仲良くする気なんて更々ない。こっちは脅され、自由を奪われてここに居る。いつ寝首を掻いてやろうか目下模索中だ。


「コイツ……ナマエはソルベとジェラート、プロシュート、そして俺の死を予言した。そして現に、ソルベとジェラートは死んだ。」


『!!』


「お前らもわかってると思うが、この予知が何を意味するのか。もちろん、この女がボスや件の護衛チームによる早々のスパイという可能性も有り得る。ともなれば俺達のすべきことは二つだ。こいつを捕虜としてこのチームに囲うこと。そしてもう一つは、こいつの能力を利用して、運命を翻すことだ。」



リゾットの言葉を聞いて更に鋭い視線がこちらに突き刺さる。分かってはいたけれど、妙な動きを見せたり、使えなければ簡単に殺すって訳か。そうでなければボロ雑巾になるまで絞り尽くすと。さすがは暗殺チームのリーダー。自分の正義に忠実で、隙のない純粋な悪。



「……それともう一つ。仲良くしろ。」



いやできるか。心の中で全員がそう突っ込んだ。



prev | index | next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -