タオルからこんにちは

「……おい、誰だお前ぇは。
人のタオル持って何してやがる…。」

『ぇ…』


こんにちは、皆の衆!
唐突ですが、どなたか私を助けてくれませんか。
今、ガラの悪いサッカー部員が私を滅茶苦茶睨んでいるのです。この人誰なんでしょうかねぇ。
ってか身体に穴が空きそう…
イヤ、もう空いてない? 大丈夫?


「おいっ 聞いてんのか」

『あ、はいっ! えっと…
私、風間君に頼まれて…』

「…あ"ぁ? 風間ぁ?」







事のきっかけは、本日のお昼休み。
お昼ご飯を食べ終わった私の所へ風間君はやって来て、こう述べた。

「手芸部さん、今日の放課後にサッカー部の部室に来てくれる? 直して欲しいものがあるんだ。」

…わざわざ私に頼むんだ。きっと服とかタオルとか、簡単に直せるものだろう。部室に行って、依頼のものを持って帰って、後日風間君に返せばいい。
そう思って私は了承したのだが…
放課後にいざ部室に来れば、

「あっ、来た来た!
このタオル…ここ破けてるじゃん? これを縫って直して欲しいんだ。今すぐ。」

『…今すぐ?』

「そう、今すぐ。ここの部室でやって構わないから。あ、あとこのアップリケ付けといて。
それじゃ、オレ行くね。」

『ちょっ…、行っちゃった…あの自由人め。』


私に、破けてしまっているタオルと可愛らしい熊ちゃんのアップリケを残して、彼は去ってしまった。

『(さっさと終わらして、さっさと帰ろう!)』

どうやら皆部活中なようで、今部室内に私以外の人はいない。誰か知らない部員が帰ってくるまでに終わらせよう。
そう思っていたのに…






『風間君に、このタオルの破けているところを直して欲しいって頼まれて…』

「……風間ぁ!!」

「あれー君下君、呼びました?
あっ、咲ちゃん、もうできたの?」

『う、うん…後は玉留めして糸切るだけ。』


完成間近なそれを見て、風間君は楽しそうに笑ってる。
だが、私と「君下君」と呼ばれた彼は事情が今も分からないでいる。ちんぷんかんぷんで置いてけぼりだ。
…仕方ない、風間君に事情を聞いてみるか。


『それ、風間君のじゃなかったの?』

「これ? これは君下君のだよ。お気に入りのタオルが破けたって泣いて…」

「泣いてねぇ!!」

「まぁ…そんなわけで、咲ちゃんに直して貰おうかと。君下君、オレに感謝していいんスよ。」

「ざけんな、たわけが。」

『たわけ…
(まだ若いのに、言葉のチョイスが渋いな…)』


これはつまり…
風間君のイタズラなのだろうか。それとも親切心?
どっちでもいいけど…君下君(仮)にとっては余計なことをしてしまったかもしれない。


『あの…君下、さん?
勝手にタオルを縫い合わせてしまってすみません…』

「…あ、いや…元はと言えばコイツのせいだし…」

『でも…勝手にアップリケまで付けちゃったし…』

「熊…だと!?」


問題はそこだ。
縫い合わせただけならともかく、そこに熊ちゃんまでついちゃったのだ。
失礼かもしれないが…何とも似合わない!
何だか恐そうな君下君(仮)のナリからして、…この可愛い熊ちゃんは何とも似合わない!!


『あの…もう少しお時間を貰えたら、その熊も外すことができるんですけど…』

「…いい。」

『えっ?』

「外さなくていい。…格好良くなった。」

『(なん……だとっ!??)』


おい…君下(仮)よ。
何だその若干嬉しそうな顔は!? 頬が弛んでるのを隠せてないぞ!? 恐そうなオーラを出しておきながら、実を言うと可愛いもの好き男子か!?

外見とのギャップに放心していれば、ザワザワと外が騒がしくなってきた。
次いで…ガチャッと部室のドアが開いた。


「? 
知らない女子がいるな…」

「おいおい風間か〜!? 女を部室に連れ込んでるんじゃねぇよ〜!」

「…ん、君下。その熊…可愛いな。」

「あっ、キャプテン、それまだ針がついてるんで気をつけてください…」


入ってきたのは、灰色っぽい髪色をした男子、茶髪の天然パーマなチビッコ男子、黒髪で短髪な男子の3人だった。しかも後者2人は、君下(仮)のタオルにある熊ちゃんに目がキラキラしてる。
おかしいな…
高校生男子って思春期じゃん。可愛いものとか嫌いじゃないの? ババアの世代差による勘違いかな。泣けてくるぜ。


「咲ちゃん。
あの黒髪の人が水樹キャプテンで、灰色の髪の人が副キャプテンね。それであの小さい人が…」

『…へー、そーなんだー。』


風間君はここにいる部員を私に紹介してくれるけど、そんなの私としてはどうでもいいんだよね。申し訳ないけど。
だって、私サッカー部じゃなくて手芸部だし。
サッカーというかスポーツ全般興味ないし。

というわけで、風間君の説明を私はボンヤリと聞き流していたのだが…
次の瞬間
私はいやでも覚醒せざるを得なかった。


「キャプテーン、
この人、聖蹟サッカー部のマネージャーにどうっすか?」

『…は?』


何を勝手に言ってるんだ、風間君は。
私が手芸部だってこと知ってるよな? 髪むしり取ってハゲにしてやろうかコイツ。


「いいよ。」

『いや、私は良くないんですけど…』

「え、なんで?」

『なんでって…』


そんな…不思議そうに首をかしげられても困るんですけど、キャプテンさん。
普通本人の意思を確認するよね?
それに私は手芸部に所属してるし。


「…確かに。マネージャーも全員卒業しちゃったからな…今ちょうど1人もいないから助かるよ。
オレは副キャプテンの臼井だ。
コイツはキャプテンの水樹。よろしくな。」

『え? あ…よろしくお願いします…。
じゃなくて!
私、手芸部に入ってるんですけど…』

「…そうか…
ちなみに手芸部の活動はどんな感じ?」

『…毎週月曜日に部会があります。』

「それ以外は?」

『…ぅっ……コ、コツコツ毎日進めること…』

「場所は? 
毎日何時にどこに集合とか決まりある?」

『……………自由、です…』

「じゃあ決まりだね。マネージャーの仕事をやりながら、手芸するってことで。
よろしく頼むよ、マネージャーさん。」

『えぇぇぇぇ……』

「あれ、何か問題あるの?」

『……あ、ありません。』


バカヤロウ、問題大ありだよ。
でも私チキンハートなもんで…
精神的には年下な男子なのに、あんな真っ黒い笑みをされたらNOと言えないんです。
外見は凄い優男っぽくて王子様なのに…
何このギャップ、こわい。今の若い子こわい。

と、いうわけでしてー

私は哀しくも聖蹟サッカー部のマネージャーとなってしまったのです。




(「なぁなぁ! この熊付けたのお前か!?」)
(『そうですけど…』)
(「オレのにも付けて!!」)
(「! 
ズルいぞ灰原。オレのにも付けて。」)
(『…マネージャーの初仕事がコレですか。』)





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