手芸部

『風間君、ほら、こんな感じでいい?』

「おっ、スゲ−!綺麗になってる、サンキュ!」


昨日の帰り道、風間君に強制的に制服を渡された。
それはボタンがいくつか取れかかったもので、それをつけ直してくれというお願いという名の命令。


『…あのさ、入学式からまだ数日しか経ってないんだよ? どんな使い方してたらそんなにボタンが取れるわけ。ボタン1個取れてて、しかも他の3つも取れかかってたじゃん。』

「え、それも直してくれたの?
咲ちゃん女子力高ぇ〜」

『ボタンくらい誰でもつけ直せると思うけど…』


それを直したものを今、教室で、風間君に返してるわけなのだが…


『(そっか…風間君て人気なのか。)』


ジロジロと感じる皆からの視線。特に女子。
いいなぁと純粋に見てくる者もいれば、何でアイツが的な目で見てくる者もいる。

…今度から教室内では接さないようにしよう。

そう小さな決意表明をしたところで、自分の席へと戻る。鞄から教科書を出して1限目の用意をし、それまではと時間潰しに本を取ったところで…声をかけられた。


「あの、咲さん…」

『なに?』

「風間君とはどんな関係なの?」

「制服のボタンをつけてあげたなんて、いいなぁ」

「風間君、格好いいよねぇ〜」


…あっちゃ〜、やっぱその話題か。
君達は同年代だからいいだろうけど、私からしたら彼は弟みたいなもので、恋愛対象としてはあまり見れない。

しかし、
彼女らはそんな私の事情なんか知りもしない。

いきなり「アンタ風間君のなに?」とか喧嘩腰に言われなくて良かったけど…でもそう期待する目で見られるのも困るんだよね。勝手にライバル視されるのも嫌だけど。


「咲さんって何だか大人っぽいよね!」

「あ、それ私も思ってた〜!」

『そうかなぁ…(中身は四捨五入すると30だもの)』

「彼氏とかいるの?」


その言葉に、何となくだけど、クラスの大半がこちらを意識するのを感じた。
目も、顔の向きもそのまま。
だけど耳は大きくなってる、そんな感じ。


『…うん、この学校じゃないけど、いるよ。』

「えぇ〜!どんな人ー!?」

「いいなぁー!年上!?」

『フフフッ 秘密〜♪』


彼氏おったんかい、と思ったそこの貴方!
いませんよ〜、本当は彼氏なんていませんよ〜。
でも『いる』って…
『私は彼氏いるから風間君とは何でもないし興味ありませんよ』というアピールしといた方が安全じゃない?

実際、私に話し掛けてきたこの子達も、私のこと睨んでいた女子達も、ホッとしたような雰囲気になったし。







『…アレはまるで…そう、
突き付けられていた銃を下ろされたような…
そんな心地でしたね。』

「紫苑ちゃん?どうかしたの?」

『え、あ、いえ、何でもないです!』

「アハハ、新しい後輩は独り言が多いタイプか〜?」

「部長、それよりいい加減決めましょうよ!
今年の手芸部は何を出展するのかを!」


無事に授業が終わって、放課後タイムなぅ。
昨日宣言した通り、私は今手芸部に来ている。
本当は見学の予定だったのだが…なんやかんやで入部決定になってしまった。これぞ、先輩の圧力という名の権力。


『(私の方が大先輩なのになぁ…年下に何故こんなヘコヘコしなくちゃいけないんだろう)』


のほほんとした部員なため、体育会系のように厳しいものはないけれど…《先輩・後輩》となると自然と上下関係ができちゃうもんなんだよねぇ。
私の方が実際は先輩なんだけどね!(2回目)


「文化祭の時期になるとね、手芸部はその年に作ったものとかを出展するの。ただ飾る時もあれば、売る時もあるし、両方する時もある。」

「だから毎年この時期になったら、一応これから何を作るか決めていくんだよ。」

『な、なるほど…(本格的だな)』


フムフムと聞きながら各自何を作りたいか提案、そして話し合い。
最終的に出た結論はというと…


「それじゃ、アクセサリーとちょっとした小物を今年は文化祭で売ろう!」

「OK、じゃあ今日はこれだけメモして解散ね。
1)出展するための物を1人5個以上から10個以内、文化祭までに作ること。
2)1を熟しさえすれば、後は自由に作って良し。
以上、解散!」


か、軽い…
いや、この軽さ大好きだよ。貴重だよ!
でも期待以上に軽かった!!

今日は話し合いだけで終わったけれど…いかんせん、その話し合いが長かったために、もう外は暗くなってきている。
靴を履き替えて校内を出、校門へと向かう最中。ヘトヘトながらも声を出して、一生懸命に走る男性集団を前方に発見。


"セイセキーッ"

"ファイッ!"

"オオッ!!"


『……おおっ気合い入ってんなぁ〜
何部だろう。』


汗水流して…うぅん、青春ですなぁ!
感心感心と校門へ足を進めると、ちょうどその軍団も近付いてきて…


『あっ』

「おっ、咲ちゃん!」

「…え…あ…お、お疲れさまです…!」


その軍団の中心にいた、柄本君と風間君と目が合った。なるほど、どうやらサッカー部なようだ。
というか柄本君は大丈夫なのかしら…死にかけてない?今にも倒れそうだけど。


『お疲れさま、頑張ってるね、偉い偉い。』

「咲ちゃんは今帰り?」

『うん、初めての手芸部。ちょっと盛り上がってたら遅くなっちゃったの。』


へーと聞く風間君と柄本君はともかくも…
おい、後ろにいるお前ら。
「手芸部だって」
「女子じゃん…!」
って、お前馬鹿か。手芸部やってる男だっているんだぞ。それに手芸部やってなくとも女子は女子だ。


『じゃ、私帰るから。死なない程度にねー。』


じゃーなと手を振る風間君に、ペコペコとお辞儀をする柄本君。そしてブンブンと手を振りまくる残りの男衆団…君達は女子を見たことない男か?

そんなこんなで、今日もまた簡単に挨拶を済ませてお別れしたわけだが…

この時は思いもしなかった。

私が後に、聖蹟サッカー部でマネージャーになるなんてこと。





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