セイ、ハロー。
「練習の前に、1つ報告があります。」
昨日の放課後、なんやかんやで聖蹟サッカー部のマネージャーをやることが決まりました。
ちなみに手芸部は辞めていません。何故なら、副キャプテンである臼井先輩に「手芸部も兼業していいから」と言われたからです。
正直、おかしいと思いません?
私のメインは手芸部なんですよ。それなのにあの言い方ときたら…まるで私が手芸部も副業としてやりたいと我が儘言ってるみたいじゃないですか。ふざけてますよね。でも私はチキンなので抗えないんです。
そんなわけでー
「こちら、マネージャーです。」
『今日からマネージャーをやらせていただきます、
1年の咲紫苑です。よろしくお願いします。』
水樹キャプテンに促され、現在サッカー部の皆に挨拶をしている私。目の前には沢山の人がいる…まぁ、部員全員がいるから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。
私が言いたいことは、
皆の顔と名前を正確に覚えるのにどのくらいかかるかなってこと。
髪色、髪型、体格、顔、声とかが凄く特徴的な人は憶えやすいから大丈夫なんだけどなぁ…。例えば、風間君は金髪&長髪だし、柄本君はなよなよして頬っぺた赤いし、臼井副キャプテンは灰色ヘアーだから覚えやすい。問題はそうじゃない人達だ。困ったなぁ。
しかも、仕事内容もこれから覚えていかなきゃならないし…
「それじゃあ、水樹は1年の面倒をまた見ておいてくれ。」
「合点承知之助」
「その他はいつも通り練習。
オレはマネージャーに仕事教えてくるよ。」
自己紹介を終えると、臼井副キャプテンがてきぱきと指示を出し始めた。水樹キャプテンよりもキャプテンっぽい…というか「合点承知之助」って…水樹キャプテンそれ古くない?
もしかしてこの世界では今それが流行ってるのかな…
なんて、どうでもいいことを考えてる私のもとに、臼井副キャプテンがやってきた。
「じゃ、始めよっか。マネージャーの仕事を今から教えるから、忘れそうならメモしてね。」
『はい、お願いします。』
メモ帳とシャーペンを構え、いつでも書けるポーズ。「分からなかったら直ぐに言ってね」と言いながら足を進める彼のあとを、私はドキドキしながらついていった。
…別に胸キュンのドキドキじゃないからね。恐ろしくて『分からない』って言えないよというヒヤヒヤのドキドキだからね。
だが、そんな私の想像に反して、臼井副キャプテンは実に親切丁寧に仕事を教えてくれた。
質問しても普通に、否、優しく答えたくれたし…
『(逆鱗に触れなければ、親切な良い人かもしれない…。)』
「…取り敢えずはこんなもんかな。何か質問は?」
『大丈夫です、ありがとうございました!』
「そうか。まぁ、分からないことがあったら誰でも良いから聞いてくれ。3年と2年なら何でも答えられるだろうから。」
『はい!』
取り敢えず、一段落。
思っていたよりもマネージャーの仕事が難しくなくて良かった…と言っても、労働力半端ないし大変なのは変わりないけどね。でも、これなら私でもできそうだ。
『(強いて言えば…問題は体力がもつかかな。)』
「…意外だな。」
『はい?』
「案外普通の子じゃないか。」
『…何の話ですか?』
突如、ポツリとこぼれた言葉に、私は頭がついていけない。何の話で、誰の話をしてるのか…そもそも独り言なのかな。無視して良かった?
「前から言ってたんだよ。マネージャーにしたい人がいるって。」
『誰が。』
「風間が。」
『誰をマネージャーに?』
「君をマネージャーに。」
『何で。』
意味が分からない。
風間君のことだから、てっきり成り行きで私をマネージャーにしたてたのかと思ってた。もしくは、イタズラで。
ところがどっこい。
私をマネージャーにしたかっただと? 何それ。アイツどんだけ私のこと好きなの? …なんてねーハッハッハッ。
「…いつも1人でいる、でも、堂々としている。」
『(…これも私のことなのかな?)』
「友達がいない、ボッチ。」
『(私のことだ、間違いない!)』
「あの風間が心配してたんだ。だから一体どんなやつかと思いきや…普通だな。」
『期待損させてすみませんね。』
クスクスと笑ってる臼井副キャプテン…
否、もう長いから臼井先輩でいいや。
臼井先輩は美形だから、静かに笑ってるその姿が何とも美しい。イケメンっていいな。くそっ。
『つまり、ボッチな私を心配した風間君の計らいによって、私はマネージャーになったと。』
「そうだね。
…昨日はああ言って、君を無理にマネージャーにさせたけど。嫌ならやらなくてもいいんだよ。
…マネージャーが欲しいって言うのは本音だけどね。」
何だこの人。昨日は恐ろしい笑みを浮かべてドS丸出しだったくせに! 今はキラキラと光輝く王子様じゃないか!! 王子だけどドSって…しかもイケメンって…ハイスペックにも程があるだろ。
『…やりますよ、マネージャー。』
「いいのか?」
『はい、風間君を心配させた御詫び。
あと…青少年の青春ってやつ、間近で見たいので。』
「…プッ…咲、お前台詞がオバサンくさいぞ。」
だって心は君よりも一回り歳上だもの。
というのは心の中でだけ呟いて、ふたりでクスクスと冗談を言いながら笑った。
明日からマネージャー、頑張りマッスル。
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