三日月型のレモン

『…バトミントン…バスケ…バレーボール…。
うーん…私運動苦手だしなぁ…』


入学式から3日が経った。
早い人は既に部活に入ってるし、私もそろそろ決めなければならない。


『いっつも帰宅部だったからなぁ…今回は何か入ってみたいんだけど…』


ペラペラと部員勧誘のビラをめくるも、なかなかしっくりくるものが見当たらない。取り敢えず運動部のものは除外していこうかな、うん、そうしよう。

自身の机の上にバサッとビラを置き、入りたくない部活のビラを見ればそれを右へと置いていく。
それをやり終えれば、元々あったビラは約半分以下にまで減っていて、今度はそれを1枚1枚ジックリ見ていった。


『美術部…いいねぇ。吹奏楽部…興味はあるけど、ピアノでもう音楽の練習はコリゴリ。料理部…美味しそうだけど太ったら悪いしなぁ…。
オカルト部!?「妖怪を探してみませんか」…って、私霊感ないし。』


面白くて興味のあるものばかりで、段々と楽しくなってきた。やっぱり文化部がいいね、運動は苦手だし。そういえば…贅沢言うならあまり厳しくないところがいいなぁ。


『…茶道部…書道部…手芸部…、
……手芸部?』


ペラペラとビラをめくっていた手がピタリと止まる。
ビラには「手芸部」と大きく書かれており、「ほのぼのとやっています」だなんて魅力的な謳い文句があった。


『「バッグやブックカバーなどの実用的な物からキーホルダーやアクセサリーなどの小物まで、好きな物を何でも作っちゃいます♪」…か。
いいなぁ…懐かしいなぁ、楽しそうだなぁ。』


私の顔の認識力は途轍もなくクソレベルだが…
実を言うと、(自分で言うのもなんだが)手はそれに反してとても器用なのである。
それこそ、ここに書いてある小物作りなんか大の得意だ。


『……よしっ、決めた!
私は手芸部に入部しよう!!』


入部届の紙に、自分の名前と「手芸部」を記入する。カリカリとシャーペンが奏でる音は、誰もいないこの教室に妙に響き渡った。
授業も掃除もとっくに終わっていたため、今学校に残っている生徒と言えば…部活生だけだろう。後は自習する偉い生徒とか。


『……明日手芸部を見学するとして…。にしても案外時間つぶせたなぁ。』


ペンケースや書類などを鞄に入れ、その鞄を肩に下げて教室を出る。
人がいない学校って不気味だなぁ…
内心ドキドキワクワクしながら靴を履き替えて外に出ると、空にはもうお月様が昇っていた。


『…さてと、帰るか。』


咲紫苑…否、私の家には今出突っ張りであったはずの両親がいる。どうやら私が目覚めたのをきっかけに帰ってきたようだ…と言っても、3日後にはまた2人とも仕事で遠出しなければならないらしいけど。

ハッキリ言って、その3日後が待ち遠しい。

なんせ私からしたら初めましての人達なのだから。記憶喪失で自殺未遂以前の記憶をなくした(という設定の)私に、彼等は明らかに気を使って話し掛けてくるのだ。
なんていうの? こう…

『た、ただいま帰りましたー…』
「お、おかえりなさーい…」

お互い気を使って話すから物凄く疲れてしまう家族、みたいな。そんな感じ。
あれ? 分からない?


『帰りたくないでござるぅー…』

「…あれ、あの人って同じクラスの…」

「えっと、咲紫苑さんだよ」

『…君達は…柄本君と風間君、だよね。』


校門を出たところでバッタリ遭遇。
風間君は「オッス、今帰り?」なんてフレンドリーに聞いてくるのに対し、柄本君は「こ、こんばんは!」と相変わらずどもって挨拶してきた。
この2人って凄い対照的だよね。


『……にしても、2人とも何してんの?
柄本君すごい息切れてるじゃん、走ってたの?』

「えっ、あ、はい! ごめんなさい!
走らせていただいてます!!」

『(何故謝った…?)』

「オレ達聖蹟サッカー部なんだぜ。」

『サッカーするの? 風間君はなんとなく分かるけど…柄本君は意外だな。運動好きなんだ?』


何てことない、ただの世間話。
それなのに柄本君はいちいち大袈裟に謝ったり、お礼してくる。
ほら、今だって……


「ぼ、僕は……サッカー初心者で……その、サッカーも下手だし走れないから、その…」

『あー、だから頑張って走って、体力つけてんだ? 偉いねぇ、頑張ってね。』

「は、はいっ! 
ありがとうございます!頑張ります!!」


頑張って、なんて誰でも使うような言葉なのに。それなのに、柄本君はバカ丁寧にもお辞儀をしてくる。そこまでしなくてもいいのになぁ…。


「それで、咲ちゃんはこんな遅くまで何してたの?」


飄々として問うてきた風間君に、
私は宿題をやってたこと、そして、どこの部活に入るか考えていたことを話した。
話の流れから必然的に「どこに決めたの」と聞かれ…隠すまでもないし『手芸部』と簡単に明かした。

でも、隠すべきだったかもしれない。


「へー、手芸部か…。じゃあさ、ついでにオレの制服のボタン、つけてくんない?」

『は?』

「頼むよ〜はい、コレ。」

『えっ、自分でや…』

「じゃあオレ達走ってくるから。よろしくー。」

「し、失礼します!!」


タッタッタッと走り出す風間君と、ペコペコお辞儀しながら去っていく柄本君。
私はあっけにとられ、風間君のブレザーを片手に、そんな2人の後ろ姿を見ることしかできなかった。 
「できたら明日返してねー」
なんていう風間君の声が聞こえてくるけれど、
私は声を大にして言ってやりたい。


『誰もまだやるなんて言ってないからね?』





(「か、風間君…よかったの?」)
(「いいよいいよ、きっとやってくれるさ。」)





prev / next
[ back to top ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -