風と土

『初めまして、咲紫苑です。
よろしくお願いします。』


今日は、聖蹟高校の入学式。
校長の長い長い話を終えて、今はクラスで自己紹介の時間だ。

教壇に立って、名前を言い、ペコリとお辞儀。
パチパチパチ〜と定番の拍手が鳴るのを聞きながら、自分の席へと戻った。場所は1番後ろ。当たり席。


『…はぁ…』


正直私は戸惑っている。
今朝、掲示板に貼られていた紙を頼りに、私は自分のクラスへと向かった。
教室に入って、席を確認して着席。
『何もすることないなぁ〜』なんて考えながらも持ってきた本を読んで時間を潰していた。

…えっ?周りに話し掛けて友達作れよって?
簡単に言わないでよ。私中身は26歳なんだよ。周りの奴等は全員16歳とかそこら辺だぞ。ジェネギャプつらいです。あと私人見知り!

そんなわけで本を読んでいたわけなのだが…
コソコソと時々聞こえてくるんだよね。

"あの人…生きてたんだね…"
"同じクラスかよ…"

とか、そういう陰口みたいなの。
まったく…陰口言うならちゃんと私の聞こえないところで言えよ。てゆぅか、咲紫苑は何してたの?
そんな居心地悪い時間を過ごしていれば、先生がやって来て全員で体育館に移動。そして、校長の長話を聞いてからの冒頭に戻る。


「次ぃー柄本くーん」

「は、……ははは、はいっ!」


1人、また1人…と自己紹介が行われていく中…
柄本君と呼ばれた男の子が教壇へと歩いていく。
…彼、大丈夫なのだろうか。
顔赤いし、汗ダラダラだし、ずぅっと小さい声でモジモジしてる。


「あの…その……ええと……
…………僕は…!」

「はい!もういいよぉ!おしまい!!
柄本つくし君でしたー!拍手!!」

「あの……いや……まだ……」

「もう5分経ちますよ。残念ですが次の人が控えているんで。土屋君、自己紹介お願いします。」

「はい!」


あちゃあ……可哀想に。
でも流石に5分はなぁ、長いよなぁ。
でもあの先生も気が利かないにも程がある。
名前は? 何処出身? 趣味は?
何でも良いから質問してあげれば良かったのに。

勿論、名前すら言えなかった彼を見て、クラスの反応と言えば「あがり症?」「ぷっ緊張しすぎ」などとヒソヒソ話している。


『(はぁ…早く終わらないかなぁ…)』


何処にでもあるような、かったるい高校生活になりそうだ。
最早元の世界に戻りたい…
いや、もうちょっとゲームとかして遊び呆けてから帰りたい。
色んなやりたいことを頭に思い浮かべていれば、突如教室のドアがガラッと空いた。

そして先生含め、全員絶句。

入ってきたのは長髪の金髪男。
「遅れてスンマセン」と軽い謝罪をした彼は、柄本君を見つけるとフレンドリーに話し掛けた。


「おっつくし、同じクラスじゃん!
悪いな、校門に集合って言っといて完全に寝坊した。」

「かっ…風間くぅ〜〜〜ん!!」


俯いていた柄本君は顔を上げると、その金髪男を見るなりホッとしたように涙をこぼした。
てか何で泣いてんの?
さっきの自己紹介を失敗したから?


「あ、あの…君!
今自己紹介の途中だから、席に座ってください。」

「え? あ〜すんませーん。
じゃ、また後でな、つくし。」


先生に注意を受け、ヘラヘラと自身の席へと向かった彼の名は風間陣(かざま じん)。何だか不思議な関係だなぁと思いつつも、私は自己紹介をそっちのけに机の上にあるビラを見た。


『(部活…どれにしようかなぁ……)』





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