天国と地獄
9月24日、本日は晴天なり。
遂に選手権予選が始まった。全国へ行く為の最後のチャンスでもあり、3年生にとっては最後の戦いでもある。負ければ即引退、高校サッカーは終わってしまうのだ。
それを皆意識しているのだろう。
柄本君や来須、白鳥など1年生は皆げっそりしている。きっと昨晩寝付けなかったんだろうなぁ。…まぁ、そう言う私もそのうちの1人でもあるけれど。
そして、
水樹キャプテンもまたそのことに気付いていた。
「あー、俺たち3年は今日で最後かもしれない。」
「なにを縁起でもねぇことを…」
突然の爆弾発言に1年は勿論、2年も戸惑っている。それでもキャプテンは止めることなく、言葉を紡ぎ続けた。
この1年半、全国に行けていないこと。
どんな言い訳をしても、敗北は否定だということ。
負けたままなら、何も残らないということ。
皆が皆、キャプテンの言葉に耳を傾けている。
「だけど俺は…今までやってきたことは間違ってなかったと信じている。これはそれを証明する戦いだ。」
そう言って、キャプテンは上着を脱ぐ。さっきまで下を向いて話を聞いていた人達も、顔をあげ始めた。
「心配するな、必ず勝つ。
ついて来い、全国まで一直線だ。」
キャプテンマークを腕に付けながら言い放ったその言葉は、どうやら後輩たちに届いたらしい。さっきまで青ざめてた顔が、今度は少し赤くなっている。
どうやらスイッチが入ったようだ。
「聖蹟行くぞぉ!!」
「オオオ!!」
こうして、選手権東京都予選は幕を開け…
初戦の聖蹟対目白台は、8対0という結果で聖蹟が勝利した。
「水樹、俺は教師になるのが夢なんだ。俺のサッカーはここで終わりだけど、やりきったから清々しいぜ。最後の相手がアンタらで良かった。」
「…子供たちに自慢させてやる。」
「へ?」
「先生は全国で優勝したチームに、一番初めに負けたんだと。」
「…!
う…あぁあああ…!!」
どんなに頑張ってきていても、勝負というのは一瞬で天国と地獄に分けてしまうのが残酷だ。
目白台のキャプテンである彼のように、サッカー以外にも夢があれば、まだマシかもしれない。もしくは水樹キャプテンや犬童さんみたいに、プロ入りが決まっている人もいいかもしれない。
でも、サッカー以外に何もない人はどうするんだろう…
『…青春って、ちょっと酸っぱいなぁ…』
「はぁ? 何急に。」
『いやいや、夢の国から現実世界へと戻るような虚しさがあるなぁって。』
「何わけ分からないこと言ってんのよ。早く帰る準備終わらせるわよ。」
『ウィッス』
今までは青春っていいなぁとしか思ってなかったけれど…青春というのは切なさもあり、だからこそ甘酸っぱく感じるのだろう。
今日はそんなことを思いながら、荷物を片付けた。
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