サバイバル

長かった夏休みも終わり、授業が始まって2日目。
選手権トーナメントの発表が出た。


「じゃあコレを貼ってきてくれ。」

『了解でーす。』


監督からトーナメント表の紙を受け取り、向かう先はグラウンド。指示された所にその紙を貼っていれば、それに気付いた人が直ぐに集まってきた。やっぱり皆気になっていたんだろう。


『トーナメント表を貼り出してるので、各自ご確認くださいね。』

「で、出たぁぁ! 者共、ついに出たぞぉー!!」

「うるせぇ!
耳元ででけぇ声だすんじゃねぇよ。」

『声デカ…』


皆を呼びに行った来須は、君下先輩に声が大きいと怒られていた。でも君下先輩も時々うるさいからね、特に大柴先輩に怒鳴ってる時とか。
あぁ…でも、もう1人うるさい奴いたわ。


「ええと…あった! 1番端っ子です!!」

「うるせぇ」

「すみません…!」


柄本君だ。大人しくて気を遣う彼は、実を言うと声がデカイ。最初は声が小さくて聞き取りにくかったのに、部活の成果か、今では声が大きい。


「…あれ? 桜木高校さんの名前がない?」

「桜高はB代表の方だよ。インハイ同様、東京代表は2校だ。」

「…ということは、うちは桜高さんとは戦わないってことですよね。ラッキーですね!」

「………」

「ん? あれ?」

「お前ほんっと何も知らねぇんだな!!」


サッカー初心者の彼は何も知らない。
勿論私も知らないことが多いけれど…時々監督や臼井先輩に教えてもらっている。そして、教えたことを時々テストしてくるのが、この臼井先輩だ。


「柄本、東京は今4強の時代と言われてるんだ。
そこで…咲、4強は何処か言えるよな?」

『抜き打ちチェック…!
えと、"名門"聖蹟、"新興"桜高、"古豪"天王洲、"絶対王者"東院学園…です…よ、ね?』

「そうだ。桜高と天王洲はB代表のシードで、予選で聖蹟と戦うことはない。問題はA代表の逆シード…3年間5回連続東京代表の東院学園だ。」


よかったー! あってた、あってたよ!
これで間違えてたら首絞められていたかもしれない…そして"それも悪くない"と思う私は末期かもしれない。


「そ、そんなのとやるんですか…!?」

『大丈夫だよ。大柴先輩なんかさっき"王"に相応しいのはオレだって破天荒なこと言ってたし。』

「…それ大丈夫なんですか…?」

「ヒーローじゃないのか。」

『私もそれ言いました。そしたら…
"オレはヒーローキングなんだ、よく覚えとけ女"と言われました。そういうわけで、今日のボトル、大柴先輩のだけ下剤入れてもいいですか? なんかムカついたんで。』

「咲さん…落ち着いてください…!」

「駄目に決まってるだろ。アイツは馬鹿だがサッカーの才能はあるしな。」


柄本君は優しいなぁ…苦笑いして宥めてくれる、できた子だよ。一方の臼井先輩は腕組みをしながらそんなことを言っていたが、何を思ったのか…突然私の肩に手をポンと置いた。


『な、何ですか…』

「咲、大柴はこの部の中で1番扱いやすい単純な奴だ。だから…」

『普段は誉めて誉めて誉めまくる。そして大きなミスしたら、普段誉めてる分、滅茶苦茶バカにしてやるんですよね?』

「そうだ。」

「…そ、それ…大柴先輩怒るんじゃ…」

「いいや、むしろそうした方が大柴も堪えて反省するさ。誰だって、自分を認めてくれている人が怒ったり失望したらショックだろう?」

『心理戦だよ、柄本君。』

「は、はぁ…」


そうだ、私には臼井先輩直伝"取り扱い説明書(大柴ver.)"があるんだ。恐れるものなんざない。この怒りは今度大柴先輩がやらかした時にぶつけよう!





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