Summer Time

『鹿児島県といえば、ブラックピッグ?』

「…気持ち悪いから黒豚と言え。」


チカちゃんに変な目で見られながらも、スタスタと向かう先は鹿児島県のとある合宿所。
そうー
私達は今日から4泊5日の夏休み合宿なのだ。
昨日終業式があったというのに、もう合宿だぞ。サッカー選手は大変だなぁ。私が学生の時はウハウハ…でもないな。夏休みなのに勉強ばっかだったわ、クソ。


『ふぅ…にしても、GWの時よりも人が多いなぁ。』

「ヒゲが言ってた。今回のこの合宿では8回戦あるって。」

『あー…そういえばそんなこと言ってた気がする。インハイで敗れた他の強豪校もたくさん参加してるらしいね。毒盛っちゃう?』

「選手権の時ならともかく…今盛ってどうすんのよ。」


言っておくけど…
チカちゃんと冗談を言い合いながらも、手はちゃんとマネージャーの仕事をやってますからね! サボってなんかないんだからね! ちゃんと初戦の準備してるんだから!


「出番がないなんて思うなよ。」

「水樹キャプテン…?」

「まずは俺たちが出るが選手権まで一ヶ月、椅子を約束された者は1人もいない。俺たちは逃げも隠れもしない、全力でレギュラーの座を奪いに来い。」


おぉう…なんというか、何て漢らしい男なんだ!
いいねぇ、こんな青春。
何で私は青春なかったんだろう、いやまぁ、今その青春を人の体で味わってるけどさ! ごめんね!

それにしても…こうやって強い奴が育っていくのか。

普段試合に出ない人はこういう時に必死に頑張って…そしてレギュラー人は席を取られるかもしれないと必死に頑張る。
あれだ、ボクシングとか相撲でも、トップの位を守ったり奪いにいったりする…あんな戦い。


『…つぅかこんなことなら咲紫苑じゃなくてサッカー上手な高校男子に乗り移りたかったわ。』

「あんたは何変なこと言ってんの。ほら、水配ってこい。」

『うぃっす』


初戦の相手は千葉県の房総。
前半戦はいつもの面子で、初っぱなからガンガンいこうぜ作戦。結果、前半は3対0で聖蹟の優勢。
そして後半からは、徐々にレギュラーの人に代わって1年生が入っていった。

勿論、経験値少ないからボロボロ。
柄本君に釣られて皆よく走るけど…でもハッキリ言って、


「下手くそ…」

『ドストレートに言うねぇ…チカちゃんは。』

「まぁ…今まで初心者の柄本が曲がりなりにもやれていたのは、風間や水樹、君下がアイツを生かしてくれていたからな。」

「ヒゲ…そこまで分かってんなら本人に直接言えばいいじゃん。」

「自分の手で掴んだもの以外、本当の意味で身にはならん。捨て身で挑戦して、失敗して、修正して、また失敗して、そういう繰り返しの先にしかどうやら成功というやつはないらしい。」

「それじゃ、監督の仕事ないじゃん。」

「はっはっ その通りだな。失敗するチャンスを与えてやる、教育者にできることはそれだけだ。…にしても1年5人は入れすぎたか…」

「……」

『…惚れた? 顔赤いよ? 監督バツイチらしいから頑張ればいけるんじゃね?(コソッ』

「うるさい! アンタも『源氏物語』読んで淑やかな女性を見習え!」


バシンとメガホンで叩かれた、痛い。
聖蹟は暴力的な人が多くないか…?
まず君下先輩と大柴先輩はよく殴り合いするし、チカちゃんはよく1年のバカトリオと風間を昇天させてるし、臼井先輩は黒帯、灰原先輩はプロレスするし…


『…ヒゲ、うちの部はいつか死者が出るかも。』

「なんのこっちゃ。」


監督に変なモノを見るような目線を送られながら…
試合が終わって戻ってくる選手達に、私は水を配りに行った。







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