利害関係


目が覚めれば、ベッドで寝ていた。
体を起こし、ここは何処なのだろうとキョロキョロ辺りを見回していると、聞こえてきた声。
凍夜兄ちゃんの声だ。


「…調子はどうだ?」

『……ここは…』

「ボンゴレアジトのオレの部屋だ。」

『ボンゴレ…アジト…?
……ぁ…そうだ、凍夜兄ちゃん!
お母さんとお父さんが…!!』

「分かってる。その事についても、今の現状も全て話そう。皆会議室に呼んでるから、行こう。菜也の話も、全部聞かせてくれ。」


というわけで、凍夜兄ちゃんに促されるまま会議室へ来た。行方不明になってた沢田達全員(ただし雲雀さんは除く)がここにいるし、中には10年後の草壁さんや、知らない人もいる。


「チャオっす、菜也。早速で悪いんだが、お前が知ってること、見聞きしたこと全部教えてくんねーか? その後、オレ達もこの時代のことを詳しく説明するぞ。」

『…でも、このメンツは…』

「大丈夫だぞ。もうお前が妖怪仁侠一家の娘だってことは皆にバレてるからな。ちなみにオレはばらしてねーぞ。」

『…分かった。』


リボーンに促されて、私はありのままに話した。
気が付いたら、私含めて藤組が皆拘束されていたこと。皆、畏れが絶え絶えで瀕死状態だったこと。お父さんが、人間とは信じられないような化け物に成り果てていたこと。それを倒すためにお母さんがあの場に一人残ったこと。仲間が一人一人死んでいったこと。京妖怪に助けられたり、変な男に絡まれたりしたことなど…

あらゆることを話した。
途中泣きそうになったけど、唇を噛んでそれを耐え…何とか最後まで話し終えた。バレてなきゃいいな。凍夜兄ちゃんならともかく、沢田達の前で泣くとかなんか屈辱だし。


『それで、そっちはどうなの?』

「あぁ、この時代については…
ツナ! 何ボーッとしてんだ。お前が話せ。」

「いてっ!? 蹴らなくてもいいだろリボーン!」


蹴られた後頭部を擦りながら、沢田はゆっくりと話し始めた。どこかビクビクとした態度が気になるけど、仕方ないので大人しく聞いた。
そして、聞いた話をまとめるとー…
ここは10年後の世界で、ボンゴレは壊滅の危機。敵はミルフィオーレの白蘭という男で、彼は世界征服しようという魂胆らしい。この未来を変えるため、そして過去に帰るために、私達は白蘭を倒さなければならないという。


「チョイスまでに、もっと強くならなくちゃいけない…ってところかな。」

『…チョイス?』

「う、うん…オレもまだ詳しくは知らないんだけど、チョイスっていうバトルをやるらしいんだ。詳しいルールとかは9日後に分かるらしいんだけど…」

『ふーん…』

「あ!
あとこれ…奴良さんのボンゴレ匣だよ。」

『ボンゴレ匣…?』

「この時代ではリングと匣兵器で戦うんだ。そしてこれが奴良さんのボンゴレ匣と、もう一つは夕闇の匣。この時代の奴良さんが置いていったものなんだって。」


ここに来るまでに何度も見た匣…
ひとつはボンゴレの紋章が入っていて、もう一つはツノの模様がある。


「つ、使い方はね、リングに炎を灯して…それを匣にある穴に入れれば…」

『…要らない。』

「ええっ!? で、でも…!」

『てゆうかさ、何で私がアンタに指図されなくちゃいけないわけ。ここに来た時言ったじゃん。ボンゴレの面倒事に私を巻き込むなって。』

「それは…っ」

「てめぇ10代目になんて口ききやがる!」


罰の悪そうに視線を逸らす沢田と、いつも通りつっかかってくる獄寺。夕闇のボンゴレリングを持ってるから? だったらそんなの棄ててやるよ。


『私は藤組であって、奴良組でもある。アンタ達ボンゴレの一味になった覚えはないんだけど。』

「あぁー…そのことなんだけどな菜也、敵は白蘭だけじゃねぇんだよ。」

『…それでも奴良組は関係ないじゃん。』

「いんや、むしろ関係オオアリだ。」


隣にいた凍夜兄ちゃんが席を立って、前に出る。そしてペンを取り、ホワイトボートにすらすらと文字を書いていった。


「確かに、ボンゴレの敵は白蘭だ。
だが…奴良組の調査と菜也の情報で、ようやくあることが判明した。白蘭はある奴等と手を組んでる。」

『…誰?』

「…ひとつは御門院家、そしてふたつ目は百物語組の幹部だ。菜也も知らないだろうが、両者とも奴良組の宿敵だ。」


凍夜兄ちゃん曰く、御門院家は安倍晴明の子孫らしい。てっきり安倍晴明は良い陰陽師かと思ってたけど、どうやら人間と妖怪の両方を支配しようとしてる悪い奴だったようだ。
一方の百物語組は、江戸時代の頃からずっと奴良組を怨んでいる組のようだ。一度は鯉伴じいちゃんに、二度目はリクおじちゃんに倒されたらしいけど…また、何か企んでいるとのこと。


「3ー40年くらい前かな、大きな戦いがあったんだ。安倍晴明とその子孫である御門院家らが暴れまわったらしくてなぁ…。このままじゃヤベェってんで…奴良組は全国各地の妖怪と結託、そして陰陽師の花開院家と共闘して、安倍晴明を倒したんだって。」

『…?
じゃあ何で今になって御門院家が…』

「今の御門院家は、安倍晴明の子孫の生き残りだ。親父達が倒したのは、安倍晴明とあくまで力のある代表…つまり幹部みたいなものだ。今出てきてんのは、幹部にはなり得なかった…生き残り。
アイツらは、安倍晴明を倒したオレ達妖怪と花開院家を怨んでいる。」


…仁侠一家の私でも少し頭がこんがらがってるんだ。沢田達は全くちんぷんかんぷんだろうなぁ。
あ、でも…獄寺とかリボーン、草壁さんとか…頭の良い人は分かってそうな雰囲気だ。


『じゃあ…百物語組の方は?』

「百物語組…つっても幹部は二人だけなんだ。
山ン本の"耳"である柳田って男と、山ン本の"鼻"。"鼻"は妖怪…というよりかは、柳田の耳についている鈴を指すらしい。」

『…耳とか鼻って、何?』

「あぁ、分かんないよな。んー…百物語組の幹部名って思えばいいよ! 他にも目とか口とか色々あったんだが、ソイツらは親父達が倒したみたいで居ないから。
取り敢えず、柳田の狙いは恐らく地獄にいる山ン本の復活だ。」

「…地獄にいるのを復活〜!?」

「ハハハッ 妖怪ってすげぇのな!」

『…………それで? 山ン本が復活したら、私達に復讐ってこと?』

「まっ、そういうこった。」


…てゆうことは、何だ?
ボンゴレの面倒事に巻き込まれたって思ってたけど、本当は奴良組の深い因縁がこんな問題を起こしてるってこと? でもそれもおかしい気がする…。


『…ボンゴレの敵は白蘭。奴良組の敵は…御門院家と柳田。』

「そうだ。
白蘭は、ボンゴレが奴良組と同盟関係にあることを利用し、御門院家と柳田に声をかけたんだ。」

『一緒にボンゴレと奴良組を倒そうって?』

「……いや、それは恐らく違う。これはあくまで憶測だが…利害関係の一致で、互いが互いに利用してるんだ。
その要となるのが…コレだ。」


ゴトッと机に置かれたのは、2つの匣兵器。
…何だろう…文字が書かれてある。1つは"吸"、もう1つには"保"って匣に書いてある。


「これは、どちらも"対妖怪用"の匣だ。
コイツで妖怪の生命力とも言われる畏れを吸いとり、コイツは妖怪をこの中に保存…つまり閉じ込める。」

『畏れを吸う…
だから皆畏れが異様に少なかったの!?』

「あぁ。
御門院家はミルフィオーレと協力して対妖怪用匣の製作を…、ミルフィオーレは対妖怪用匣を使って畏れ及び妖怪の収集…、柳田は山ン本復活のために収集された畏れを回収。」

「なるほどな。ミルフィオーレや柳田って奴がお前ら妖怪を苦しめれば、それはそれで御門院家としてはメリットあるしな。」

「流石リボーン、その通りだ。
それに、御門院家だけでは倒せなかったであろう花開院家も…マフィアたるミルフィオーレの手を借りればあっという間だっただろう。」


見事な利害関係の一致。
協力じゃない…お互いが、お互いの野望のために、相手を利用している。


『そういえば…保存用の対妖怪匣って何に使うの?』

「…オレ達もその調査に苦難していた。だが菜也の話を聞いてようやく分かった。
ミルフィオーレは…対妖怪用匣で採集した畏れを柳田に渡すついでに、妖怪で人体実験を行ってんだ。」

『人体、実験……』

「…前から謎だったんだ。全国各地で妖怪が捕まる被害は出るし、それと同時に行方不明な人間も出る。時には…妖怪とも人間とも言えねぇ変な化け物に遭遇する被害もあった。」

「妖怪独特の力を人間が手に入れる…そういう実験でもしてるのかもしれねぇな。」


確かに…それならお父さんがあんな目にあってた理由にも結び付く。結局は…ボンゴレと奴良組が同盟関係にあるように、ボンゴレの敵と奴良組の敵も利害関係で繋がってるってことだ。


『(…しまったなぁ…)』


沢田に酷いこと言ってしまった…正に、後悔しても何たらってやつだ。謝らなくちゃいけないし、奴良組が関わってる以上私も戦わなくちゃいけない。

あぁ…もう、グチャグチャだ。


「…だからな、菜也。オレ達にも関係…」

『…ごめんけど、しばらく一人にさせて。頭の中、整理したいから。』


返事を聞く前に席を立って、会議室を出る。
ここに来たまでの道を引き返して…辿り着いたのは凍夜兄ちゃんの部屋。ベッドにゴロンって寝っ転がって溜め息をひとつ。


『………頭痛い…』


情報に押し潰されそうな頭を手で押さえながら、
ゆっくりと…また瞼を閉じた。

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