殻(沢田side)


初めて見た。
いつも冷静沈着な印象の彼女が、あんなに取り乱した姿。


…『オレのせい』…か…


大粒の涙が滝のように流れ出ていて、泣き喚くその悲痛な声に…胸が締め付けられた。しかも彼女の両親と仲間は、目の前で次々と地に倒れたって言ってた。
そんなの…
苦しくて、悲しくて、怒るのも当たり前だ。
オレが彼女の立場なら、きっと同じように取り乱していただろう。



「だ、だから、そんなに謝らなくても…」

『ううん。沢田のその気持ちは嬉しいけど…話も聞かずに沢田を責めたのには変わりないから。酷いこと言って本当にゴメン。』



そう言って、何回目か分からないけど…奴良さんはまた頭を下げた。目元はまだ少し赤く腫れていて…きっとさっきまで泣いていたのだろう。


『ボンゴレだけじゃない。奴良組も関係してることを知らなかったとは言え…あんなこと言って…沢田を傷付けた。』

「…仕方ないよ…。オレだって母さんや皆が目の前で倒れていくのを見たら、きっと正気ではいられなかったと思うし。オレもこっちに来てしばらくの時は取り乱したし…
それに…あの獄寺君と山本もお互いに八つ当たりしたこともあったんだよ!」

『…山本は想像つかないけど、獄寺は誰にだって常に当たり散らしてる気がする。』

「ははっ…確かに…」


乾いた笑いが、この簡素な部屋で響いた。
ここに来る前はドキドキした。
凍夜さんに「菜也が話がしたいって」って呼び出されて…凍夜さんの部屋に行ったんだ。入れば奴良さんが1人出迎えてくれて…急に謝られたから凄く吃驚したのは言うまでもない。


『…取り敢えずさ、白蘭ってやつは倒さなくちゃいけないんだよね?』

「う、うん。白蘭を倒さないと、オレたちが…」

『…そっか。』


説明を聞いたとは言え、まだ分からないことだらけなんだろう。実際オレだって分からない点もあるし。
それでも奴良さんの目というか…雰囲気?
何となくだけど、さっきまでとは空気が違うんだ。いつもの、冷静な奴良さんに戻ったんだと思う。


『…沢田達はもうこの時代の戦い方を習ったの?』

「うーん…一応今までも修業してたけど、明後日からまた本格的に修業を始めるんだ。了平さんも雲雀さんもここに来たばっかだし…それにボンゴレ匣も新しく皆手にいれたしね。
…奴良さんは…その、…どうするの?」

『この時代の戦い方は、凍夜兄ちゃんに教えてもらうつもり。あと…もしかしたら生き残りがいるかもしれないから…花開院家に一回行ってみたい。』

「そ…か、そうだよね。」


藁にもすがる思いってこういうこと言うのかな…。
小さな声で、きっと誰もいないと思うけどね、と悲しそうに奴良さんが笑った。
そうだよ、そんな簡単に諦められる筈がない。


「…よし! じゃあ明日皆で行こう!」

『どこに?』

「その花開院家だよ! 白蘭はチョイスまでは手出ししないって言ってたけど…その御門院家と柳田って奴はどうか分からないだろ? だからオレ達皆で行こう!」

『…でも、』

「大丈夫、皆きっと同じ事を言うよ。獄寺君も山本も、了平さん、クロームだって。
そうと決まれば…皆に話しに行かないと!」

『ぅわっ!? ちょっ、沢田!?』


1人じゃ危ないし、凍夜さんと2人でも危ない。ここはできるだけ大勢で行った方がいいと思うんだ。
それに…


「…奴良さんは…オレ達のことどうとも思ってないかもしれない。でも、オレ達からしたら、奴良さんももう仲間の一員なんだ。ボンゴレとか藤組とか関係なく。
だから、行こう。」

『………』


腕を掴んで引っ張って行くくらいしないと…
きっと彼女は、引きこもってしまう。
部屋に引きこもるとかじゃなくて、自分の殻に。
オレ達に対して一線を引いてるから。
今まで、それはオレ達のことが嫌いだからだと思ってたけど…多分そうじゃない。


「オレだけじゃない、皆…
奴良さんのこと待ってるんだから。」


だからこそ、少し強引でないとダメだ。
オレ達は敵じゃないよ、味方だよ…って本人に言わなければ、きっと彼女はソコから出られないんだ。


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