雪男、来る。


『ふっ…ぅ、…っ』

「………」


お母さんと、姿形が変わり果てたお父さん…
二人を置いて、陽炎に抱えられたまま私達は去った。近代的な建物内を走り回りながら外へと目指す最中も…無情にも仲間は一人一人倒れていく。

私を逃がすためにー、
私を逃がせられるようにー、

私と陽炎の道を、命を賭けて、作っていく。

それでもなお…


「………菜也様…
地上に出たら、オレが足止めします。
なので、その隙に逃げてください。」

『…ちじょう…?』

「はい、ここは花開院家跡の地下です。
いいですか…地上に出たら、
真っ直ぐ並盛へ向かってください。
きっと…どなたか迎えに来るはずですから。」


陽炎はどうするの?
そんなこと、聞いても答えは分かってる。
でも、聞かずにはいれなくて…


『陽炎は…どうするの…?』

「…並盛でボンゴレと合流してください。
そしたら、きっとまたお会いできるはずです。」

『…本当、…なの…?』

「…本当、です…。
オレが貴女様に…嘘をつくはずないじゃないですか…」


ようやく、陽炎が…
優しくて、厳しくて、でも私達藤組のことを一番に考えてくれている陽炎が…
ようやく、暖かい微笑みを浮かべた。

そして、そんな彼が私に珍しくもお願いをした。


「約束です、菜也様…
必ずや…生きて、ボンゴレと合流してください…
この約束だけでも、守ってください…」

『…………はい…っ…』


きっと、私の今の顔は涙で不細工になってるだろう。
それでも…
そんな顔を見られてでも、陽炎とちゃんと目を合わせて、返事しなくちゃいけないように感じた。
そして次第に、
人工的な光ではなく自然の光が見えてきて…


「いたぞぉー!」

「奴良菜也はボンゴレリングを持っているから、ぜったいに捕らえろ!!」

「後のものは殺せぇー!!」


地上に出るや否や…
私達を追いかけて来ていた者だけでなく、外で待ち伏せしていた者もやってきた。色んな動物が何故か 死ぬ気の炎を纏っているし、皆何やら箱のようなものを手にしている。

予想以上に敵が多い。

多勢に無勢とはこういうことを言うのだろう。さすがの陽炎も苦難な色を浮かべていたけれど、それは予期もしない人達の登場で、勢力挽回となる。


「おい…
妾の許しを得ずに何を好き勝手やっておる。
お前達のせいで、最近妾の可愛い子分達が減っておるのだが?」

『羽衣狐…さん?
狂骨ちゃんに…白蔵図さん、がしゃ骸も…!!』

「…陽炎、ここは妾達に任せて行くがよい。
藤組邸はもう敵の手に墜ちておる…酷かもしれんが、遠回りして行け。」

「…恩にきります…!」


羽衣狐さんが現れたんだ、きっと勢力を覆すだろう。
そう信じて疑わなかったのに、実際は五分五分、というところだろうか。あくまで時間稼ぎになるという程度なのだ。
強者である彼女らを苦しめているのは、あの…


『あの箱…なに?』

「…それも全て、ボンゴレに聞いてください。
時間がありません、行きましょう!!」


敵が使う、小さな箱…それに皆手こずっている。
でもその正体を知る暇もない。
今はただ、並盛へ向かわなければならないんだ。

羽衣狐さん達が足止めをしてくれている間に、私達は花開院家跡を出た。今にも倒れそうな陽炎に言って降ろしてもらい、そこからは二人でこそこそと並盛へ向かったんだ。
知ってるはずの町並みはどこか新鮮で…ここが、私の知っている並盛ではないことがうかがえた。


「…!! 来たか…」

『え…』

「…菜也様、今度こそ、ここまでな様です。
オレが敵を止めてる間に、ここを真っ直ぐ走ってください。そして洞窟を見かけたらそこに入ってください、そこがボンゴレのアジトですので。」

『かげろ…っ!!』


ドンッと背中を押されたかと思いきや、「振り向くな、走れ!!」という大きな声が聞こえて…
私は言われるがまま、無我夢中で森の中を走った。

どこに向かっているのかー、
ちゃんと行き先は合っているのかー、
何が起きているのかー、

グルグルとした頭で一生懸命に走った。
だけど、


「…見つけたぞ、憎き奴良組…!」

『あっ…』

「花開院家は滅ぼした…次は貴様ら妖怪、特に奴良組だ。一匹残らずに滅してやる!!」

『っ!!』


目の前に現れたのは…
白の狩衣に、黒の指貫の格好をした男。先程から幾度も目にしている小さな箱を手に、そいつは仕掛けてきた。
私には…武器もない。
陽炎も、守ってくれる皆ももういない。
陽炎との約束を、果たせられない。

目の前に迫り来るナニカに、訳もわからず、死を覚悟した。
その次の瞬間、



「呪いの吹雪 "雪あらし"」



雪の降る季節でもないのに、猛烈な吹雪が辺りを襲う。あまりの寒さと風の強さに、目も開けられず、呼吸もできない。



「…本当だ。マジで若返ってる。」

「だ、誰だっ!? 雪ということは…雪女か!?」

「残念…雪は雪でも、オレは雪男だ。」



しばらく聞いていないけど、親しみのある声。
それに、"雪男"ときたら…1人しかいない。
その姿を確認しようと、
少し目を抉じ開けてみれば…
そこには私のよく知った人がいて、ついつい、安心からか涙が出てきてしまった。



『凍夜兄ちゃん…!!』

「よっ。久しぶりだな、菜也。」


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