道連れ (達也side)


『お母さんっ!!』

「いけません、菜也様!」

「陽炎…後は頼んだわよ。
それと、菜也…またいつの日か会いましょう。それまでは元気にやってるのよ?」

『嫌だっ…嫌だぁ!! 陽炎、離して!!
お母…、…お母さんー…!!』




朦朧とする意識の中、何となく聞き覚えのある声が頭の中に聞こえてきた。

……聞き覚えのある声?
何を言ってんだ…オレは。これは紛れもなく、鯉菜と菜也の声じゃねぇか。

覚醒し出す頭に応えるように、真っ暗だった視界にも次第に光が射し込んでくる。久しぶりの眩しさに目がチカチカする中、1番に見えたものは赤い色だった。
そして次に見えたのは数々の死体…
オレの身体であるという感覚は全くないものの…視界から分析するに、これをやっているのはオレに間違いない。



「達也ぁ、アンタ人の畏を喰っておきながら私に刃向かうとか…良い度胸じゃないの…
離婚すっぞこの大馬鹿野郎ーっ!!」

「ガアアアアアァァァァァ!!!」



ー鯉菜?

何でアイツがここに…
いや、それよりも…何でオレの身体は云うことをきかねぇんだ。何でアイツは逃げないんだ。
このままじゃ…

オレがお前を、殺してしまうじゃねぇか。



「聞こえっかこの頭お花畑野郎ー!!」



誰の頭がお花畑だよ。

オレの目の前には、一人…昼と夜が入り混ざったような姿で戦う鯉菜がいる。息は切れ切れで、身体中のあちこちに傷ができており、誰の血かも分からない程に汚れている。
周りの者は死んだか、もしくは全員退避したのだろう。ここにはもう…姿形が変わり果ててしまった化け物のオレと、鯉菜しかいない。

何で、逃げてくれなかったんだよ……



「グルルル……ウガアアアアアァァァ!!!」

「ぁぐっ…! …痛ってー…
達也…アンタ日頃の私への恨みをここで発散してない?」



いくら強がって憎まれ口を叩こうが…
いくらお前がオレの名を呼ぼうが…
オレの身体はもう、目の前にある物を壊すことしかしねぇ。お前がここにいなければ破壊の対象は他の物にいってたかもしれねぇのに…
お前がいるせいで、オレは嫌でもお前を傷付けてしまう。



「グルルル…!!」

「…どんだけ体力有り余ってんのよこの馬鹿は。こっちはもう…スッカラカンだってのに。」



お前を傷付けたくない、だから逃げてくれ。そう口にしたいのに、オレの口は鯉菜を食い殺すためにしか口を開かない。
そんなもどかしさがオレを襲う一方で、オレは心の何処かでホッとしている。

ー助けてくれ。
ー誰ももう殺したくないし、傷付けたくない。
ーオレを……一人にしないでくれ。

オレはいつからこんなに弱くなったんだろうか。鯉菜と菜也の幸せを願うことに嘘偽りない…だが、いつの間にかオレはあいつらなしで生きていけなくなってたみたいだ。

そしてそんなオレを余所に、オレの身体は次の一撃で鯉菜を殺す準備をしていた。



「本気で来る、か。
……達也。アンタには悪いけど、鯉菜や沢田達のためにも…アンタにはここで死んでもらう。
これで最後よ……明鏡止水・桜!!」

「グルルアアアアアアァァァ!!!!」



鯉菜が盃を構えると、オレの視界を覆うように炎が燃えさかる。熱くて痛みに襲われるかと思いきや、何も感じず…ただただ…もう一度あいつの顔が見たいと思った。
泣いてるかもしれないし、案外けろっとしているかもしれない。どんな表情でもいいから顔が見たい…そう思っていれば、



「う"ぅ"っ……!!」



炎の色に包まれて、痛みに顔を歪ませたあいつの顔が見えた。
何が起きてるんだー?
状況も分からずに混乱する頭だったが、ふと目が捉えた鏡によって、オレは時を止まるのを感じた。部屋の隅にあったその全身鏡に映っていたのは、オレという化け物が…大きな牙を持った口で鯉菜に齧りついてる光景。



「グルル…」

「………く………ぅっ…」



畏れを全て使い切ったのだろう。先程までの姿とは打って変わり、今はいつもの昼の姿になっていた。

あぁ…オレは、鯉菜を殺してしまったのか。
そして今度は菜也やその友達…多くの人を食い殺していくのだろうか。
ーそれならもう、オレはいっその事死にたい…。

希望のない先に再び意識を沈めようとしていたその時…



「ハッ…ただで死ぬもんですか!
死ぬ時は…アンタも道連れよ、達也!」



瀕死の状態でオレの口内に妖刀を刺す鯉菜が、鏡に映し出された。まさかと思ってそいつへと目を向ければ、何処かの半妖と似たような…不敵な笑みを浮かべている。
次いで、オレの身体が崩れていくのを感じる。バタンと床に倒れた鯉菜と、消え去る己の身体。

さよならだー
そう言おうとすれば、虚ろ気な目をした鯉菜と視線がかち合った気がした。
そして最後に、



「もし、転生…したら…
また…会えるといいね…。」



笑顔でそう言われたような気がした…。








ーーーーーーーーーーーー



(「おい鯉菜、お前…オレを全力で殺したろ」)

(「当たり前じゃない。アンタだってこの私に向かって全力で殺しにかかったじゃないの、痛かったわぁー…」)

(「…ぅ、まぁ、そうだけど。
てかオレってお前に必ず殺される運命なの? これで2回目じゃね?」)

(「…そうねぇ。また転生して達也と一緒になったら、またまた私はアンタを殺さなくちゃいけないのかしらねぇ?」)

(「…今度は交代しねぇか?」)

(「断る!」)

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