藁にもすがる想い


『…うっ…』

「菜也様!」

『…陽炎か…』


目が覚めたら、やっぱり薄暗い部屋の中。
体は縛られていて、動かすこともできない。
こんなことなら、もっとあの夢を見ていたかったなぁ。


「…いい夢見れましたか?」

『…うん…。夢の中でね、初代ボンゴレのジョットと会ってきた。誰かに似てるなって思ったけど…沢田に似てたんだなぁ。』

「! 沢田で思いだしましたが…
菜也様、沢田が現れたとの噂を先程聞きました。」

『…何言ってるの。アイツはもう死んだだろ。』


この時代はもう終わっている。
先日、沢田が殺されたことで始まったボンゴレ狩り。ボンゴレだけでなく、ボンゴレの関係者全員を殲滅しようという動きがあり…ボンゴレは壊滅状態。

それだけではない。

奴良組、そして花開院家も壊滅した。
時代と共に技術が発展し、奴良組はあっけなく壊滅されたのだ。
…いや、奴良組だけじゃない。
妖怪全てが、今はもう絶滅に瀕しているのだ。


「オレも最初は耳を疑いました。
ですが…外の者が話しているのが聞こえたのです。どうやら、10年前の沢田が現れたようですよ。」

『…そうか…10年バズーカか…!』

「しかも、沢田だけではないようです。山本や獄寺など、10年前の並盛の連中らが続々と集まっているようです。
…ボンゴレリングを持って。」

『ボンゴレリング…、か。確かに、ボンゴレリングがあれば百蘭らにも対抗できるかもしれない…。まぁ…この時代の戦い方に慣れたら、の話だけど。』


10年前と今では、戦い方が全く違う。
私達妖怪にとっても生きにくい世の中になってしまったし、10年前の彼らが来たからと言って、この情勢が変わるとも思えないんだが…。


「…いや、賭けてみる価値はある。」

『お母さん…!』

「鯉菜様、大丈夫ですか!?」

「…あぁ…。それより、さっきの話だけど…
10年前の沢田達が集まりつつあるってことは、ここにいる菜也も、10年前の菜也と入れ替わる可能性があるってことよね。」

『そう…だけど…』

「…どうせ奴良組、いや、この世界は終わりだ。だったら、最後の悪足掻きとして、菜也と沢田達に賭けるってのはどう?」

『それって…』


"賭ける"…?
確かに、10年前の沢田や私に賭けるのはいい案かもしれない。でも、仮に10年前の私がここに現れたとして、私一人で皆を助け出せる訳がない。


『10年前の私っつったらほとんど戦えないんだよ。それに…皆だって縛られて動けないじゃん。私一人で皆を助け出すなんてほぼ無理だとおもうけど…』

「そんなの分かってるわよ。
私が言ってるのは、私やここにいる藤組の皆の命を賭けて…10年前の菜也をここから逃がそうってこと。」

『そんなの…!!』

「…それはいい考えですね。」

『陽炎!?』

「どうせオレ達はここで死ぬでしょう。畏れももうほとんど吸い取られているし、外に出られたとしても直ぐに殺られてしまうでしょう。」

「…でしたら、皆の命を賭けて、菜也様をここから逃がす…」

「それがいいわ! やられっぱなしは妖怪の性に合わないし。」

「それでこの世界を救うことに成功したら、ラッキーってもんですわい!」


ここにいる皆、縛られて、畏れもほとんどなくしていて…いつ消えてもおかしくない。
ーそうだ。皆もう、覚悟ができてるんだ。


「…決まりね。後は菜也が賛成してくれれば満場一致なんだけど?」


お母さんの目が、覚悟を決めろ、って物語っている。
そうだ、私はもう、藤組の頭なんだ。


『最期のお願いだ…。
皆の命を、私にください。成功するか分からないけれど、沢田達と全力を尽くす。だから、もし10年前の私が現れたら、お前達も私のために、全力を尽くして欲しい。』


なんて、残酷なお願いなのだろう。
皆私を慕ってきてくれて、私を支えて、助けてきてくれたのに。


『10年前の私のために、死んでくれ。』

「「「おおおおっっ!!!」」」


こんなお願いをする私に、それでもなお君達は、着いてきてくれるんだ。
なんて幸せ者なのだろう…私は。
きっと、この時代に来る10年前の私は泣いてしまうだろう。それでも…負けないで欲しい。


『じゃあ…今のうちに作戦を練ろう。
だが、その前に…陽炎。』

「はい!」

『10年前の私に、伝言を頼む。』

「伝言…ですか?」

『あぁ。
"未来を変えろ"…それだけ、伝えて頂戴。』

「…分かりました。」


こんな世界、誰が受け入れられるか。
絶望にくれてた皆の目が、再度、希望で輝いた。

- 78 -


[*前] | [次#]

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -