消えゆく命
リング争奪戦が終わって1週間。
事態は大きく変わった。
何が変わったかと言うと…
『…今日も学校に来ていなかった。』
「急に行方不明になるなんざ…神隠しとかじゃないのか? 最近悪さしてる妖怪とかいるんじゃねーの? 鯉菜」
「そう思って今調べて貰ってるけど…町自体には何も異常はないのよね。達也、醤油とって。」
「ん。」
「…ちょっと。誰が醤油かけてくれって言った? かけすぎじゃん。絶対これ辛いじゃん。」
「オレの愛の濃いさだ。」
「上手いこと言ったとでも思ってんの?」
リボーンや沢田、獄寺、山本、京子、ハルちゃん、ランボとイーピンが…何故か行方不明になっているのだ。学校に来ないのはもちろん、家にもいない。どうしてだろう…また何かマフィア関係で問題が起きてるのかな。
ーそう考えていたのが、昨日の夜。
それが今や、目の前に謎のミサイルが迫ってきているのだ。後ろから、ヒュルヒュルヒュルなんて音が聞こえてきて…何だろうって振り替えったら時既に遅し。
これはもう、避けられない。
死ぬ
そう思った次の瞬間にはミサイルが直撃してて…
グルグルと視界が回って、
ドサッ
『…っ!?』
次に襲ってきたのは、床に落ちた衝撃。
真っ暗で何も見えない…
床も冷たい…ここは何処なんだろう…
『……だ、誰か…』
ジャラッ
『…な、なにこれ…鎖…!? 何で!?』
手足には、鎖に繋がった手錠と足枷が。少し余裕があるけど、僅かにスペースが足りなくて取れない。
何が何だか分からなくて、怖くて…
それを外そうとガチャガチャしていた時、
「うっ…菜也様…? どうかなされましたか…?」
『…その声…陽炎!? 陽炎なの!?』
「!
もしや…10年前の、菜也様…!?」
『10年前…?』
傍で聞こえたのは陽炎の声で、「10年前」とかよく分からないことを言っていて…。
ようやく暗闇に慣れてきた目が捉えたのは、私と同じように手足を繋がれている陽炎だった。しかも、陽炎だけじゃない。見たこともない妖怪もいれば、私の知ってる藤組の妖怪もいる。
『どうして…何で皆縛られてるの!?
しかも皆っ、何でそんなに畏れが…!』
「…来たぞ…」
『…え…?』
「皆起きろ! 遂に10年前の菜也様が来たぞ!」
「ほ、本当か!?」
「おい皆、寝てる奴を起こせ!! 始めるぞ!!」
皆同じように手足に枷があって、ボロボロで、畏れも弱まっている。
ーどうして? 何があったの?
聞きたいことが沢山あるのに、そんなことを聞けるような空気じゃない。1回限りの賭けに出るような、そんな剣幕をしてる。
「鯉菜様! 起きてください!」
「…っ、何よ…私今さっき畏れを取られ…」
「菜也様が、来たんです!!」
「…菜也が…そう…
じゃあ、始めるわよ!!」
「「「おおおおおっっ!!!」」」
お母さんがいることにも驚いたけど、お母さんの有り様にはもっと驚いた。誰にも負けないくらい強いお母さんが、ボロボロで、鎖で繋がれてる。
どうしてって、お母さんって、叫ぼうとしても…
それは陽炎に口を手で塞がれてて叶わなかった。
「菜也様、今は一刻も争う時です。
これから何があっても、騒がずに、大人しくしていてください。チャンスは1回のみ、そして希望も菜也様だけなのです。」
ウンともスンとも言わせてもらえず、陽炎はそう捲し立てる。そして外からはバタバタと何やら騒々しい音が聞こえてきて、「来たぞ!早く!」って藤組の誰かが急かした。
「菜也様と鯉菜様を覆え!!
火だるま…悪いが頼んだぞ!!」
「任せとけ〜ぃ
御二人のために死ねるなら本望だわ〜ぃ」
『…死ぬ…って…?』
陽炎を筆頭に、近くにいた者が精一杯、私に覆い被さる。重いし息苦しい。それに火だるまの"死ぬ"ってどうゆうことだろう。
隙間からその火だるまを見ていれば、
次の瞬間…
ドオオォォォン
「ぐわっ…!!」
「くっ…」
『…熱っ…!』
火だるまの身体が光り、爆発した。あまりの突風と熱さに目を閉じてしまい、しばらくして目を開けてみれば、そこに火だるまの姿はない。
『(…自、爆…?)』
目の前で自爆されたことがショックだった。
だって、私の知ってる藤組なら、仲間にそんなことさせないと思う。
それなのに…どうして…
『かげろ…っ』
「……あ…オイラ今ので枷が取れたぞ!」
「痛たた……あ、アタイも取れた…」
「よし…枷が取れた者は直ぐに周りにいるやつの枷を外せ!! 急げ!!」
「早くするんだ! 今の爆発で扉が吹き飛んだから、扉の前にいた奴らはいなくなったけど…」
「また次のやつが来るぞ!!」
「急げえぇぇぇ!!」
畏れがほとんどなくて消えそうな妖怪も、さっきの爆発で血だらけの妖怪も、皆フラフラになりながら…身体を縛り付けているものを互いに壊している。
そして全身が自由の身となった時、
「最終確認だ…
ゴールはただ1つ。菜也様をここから逃がすことだ。」
『え…?』
「菜也様、詳しいことは行きながらオレが話します。ですが、今はとにかく逃げることを、そして並盛に向かうことに専念してください。」
『ちょ、ちょっと待ってよ陽炎! 皆は!?
皆はどうすんの!?』
「…オレたちはどうせここで死にます。なので、死ぬならせめて、菜也様を逃がしてから死のうと、ここにいる全員で決めたのです。」
『そんなの…!』
「来たぞおおぉぉ!」
「…菜也様、必ずや生き延びてください。
あなたはオレたちの希望なんです!」
最後に、行くぞ、と声をかけた陽炎。
その声を合図に、全員で駆け出した。
先頭に何人かの妖怪がいて、後ろには残りの妖怪が走っていた。私はと言えば…ただ陽炎に抱えられるだけ。私達の後ろにいる妖怪が、1人、また2人、と消えていって…
それをただ、私は眺めることしかできなかった。
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