1本じゃあ物足りない。


「来たな、変態ストーカー野郎!!
神がお前を見過ごしても、オレはお前を許さん!! 成敗してやる!!」
「そ、そんなぁ〜!」


剣道道場の中心で繰り広げられるのは、怒っている持田先輩とビクビク震えている沢田綱吉の会話。
…未だに信じられない。
小犬みたいに怯えているあいつが、パンツ1丁になって告白するだろうか。

「安心しろ、ルールは簡単だ。
お前は剣道初心者だからな…オレから1本取れば貴様の勝ち、もしできなかったらオレの勝ちだ。
もちろん、勝った賞品は笹川京子だ!!」
「しょ、賞品!?」
「最低な男ね。」

ルールを説明する持田先輩の言葉に、京子ちゃんはムッと怒り…花ちゃんは辛辣な言葉を投げかける。
一方…沢田の方を見れば、お腹を押さえながら道場を去ろうとしている。緊張でお腹でも痛くなったのだろうか。
そして沢田が道場を去ったところで、ようやく持田先輩は沢田がいないことに気づく。

「ん? 沢田はどこに行った。」
「トイレに行きたいと言うので行かせました。」

その言葉に…
沢田のことを知っている人は「アイツ逃げたな…」「やっぱダメツナだぜ」と口々に言う。一方持田先輩は、みっともないことに「オレの不戦勝だぜ」とガッツポーズをして喜んでいる。

『1本くらい楽勝だろうに…ねぇ?』
「いや、沢田には無理でしょ…剣道初心者っていうか運動初心者レベルだし。」
『運動初心者ってなによ。運動音痴でいいじゃん。』
「…それもなんか微妙よ。」

不戦勝だと喜ぶ持田先輩…
やっぱりダメツナだとボヤく外野…
そしてクダラナイ話をする私と花ちゃん…
ここにいる誰もが、沢田が逃げた事を信じて疑わなかった。

しかしー


ゥォォォォォオオオオオオオオ!!!!


『…なんか聞こえね?』
「…モーター音じゃない?」
『……なんか近付いてきてね?』
「……モーターが激しく動き出したんじゃない?」

…花ちゃんはどんだけ私を否定したいんだ!!
そんなことを心の中でツッコミながらも、聞こえてくる音に耳を傾ける。そして近づいて来る音の正体はモーター音ではなく…


「いざ、尋常に勝負!!」


パンツ1丁になった沢田の声だった。

「なっ…」
「うわっ、変態だ!」
「キャー! イヤだー!!」

パンツ1丁で登場した沢田に、仕方がないが皆キャーキャーと騒ぐ。

『ちなみに…
キャー♪ ジョニーデ〇プだー♪♪
のキャーじゃなくて
キャー! ゴキブリが出たー!!
系のキャーだからね。』
「アンタは何を解説してんのよ! てかアレまじで沢田なの!?」

誤解を招かないように言うが…
花ちゃんにバシンと頭を叩かれながらも沢田から目を離さない私は、決して変態だからではない!!

「うぉぉおおおおおお!!」
「プッ! ははははは!!
裸で向かってくるとは…馬鹿な奴め!! これでも喰らいやがれ!!」

裸のまま、バッファローのように持田先輩へと突進する沢田。防具はおろか…竹刀も持たないで何をするつもりなのだろうか。
勿論持田先輩がこんな絶好のチャンスを逃す筈もなく、竹刀を沢田の面に向けて勢い良く振り下ろす。
しかしー


バチィィィン!!

「だぁぁぁぁ!!」
「がっ…!」

…なんという事でしょう…!
あの沢田がなんと…
竹刀を顔面で受け止めたまま、持田先輩に頭突きをかましたじゃあありませんか!! そんな彼の額からは血が流れているが、そんなことを気にも止めず、倒れた持田先輩に馬乗りになる沢田。

「マウントポジション!?」
「アイツ、何をする気だ!?」
「あれは…手刀だ!」
「そうか、面を打つ気か…!!」

馬乗りになりながら手を挙げる沢田に、周りの者は沢田が面を打つのを見守る。
だがー


べリッ!

「ギャッ!!」


あまりの予想外な沢田の行動に、しーんと静まり返る道場。それもそのはず…彼が取ったのは面ではなく、


「100本取った!!」
『…痛そう。』


持田先輩の髪の毛だったからだ。

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