この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 2-4)お別れ

3人が来て十日目のある夜のこと、突如それは起こった…



ボフン!!


「彩乃様! ご無事ですかー!?」

「カゲロウ!? どうやってここに!?」


奴良組本家の庭にて皆で花火をしていれば、突如大きな煙と共に見知らぬ男が現れる。
カゲロウと呼ばれたその男には羽がついており、どうやら鳥の妖怪のようだ。


「あぁ…!!彩乃様がご無事で良かったです、安心しました!!
斑殿もヒノエ殿も元気そうで…。」

「私はおまけか!?」

「それより…アンタどうやってここに来たんだい?
ってかいい加減その手を離しなさいよ!!」


彩乃ちゃんの手を握り、良かった良かったと言うカゲロウさん…
そんな彼にニャンコもヒノエさんもお怒りプンプンな様子だが、当の本人は全く気にしていない模様。
そんな感じでしばらくワイワイとしていたのだが、しばらくしてハッと思い出したようにカゲロウさんが話し始める。


「そうだ、皆さん方がいない間…
彩乃様は部活の合宿旅行に行っているということにしておきました。」

「そ、そうなんだ…」

「リクオ殿や氷麗殿のご協力も経て、何とか信じて貰えたようです。」


カゲロウさんの言葉に少しホッとした表情を見せる彩乃ちゃん。
その様子にカゲロウさんも頬を緩ませるが、直ぐに真面目な顔に戻って口を開く。


「…私が出掛けから戻れば、皆様の姿が見えないもので焦りましたよ。
幸い、しばらくして変な妖の商人が来て助かりましたが…」

「変な商人…?」

「それって、もしかして私に箱を売ってくれた奴かい?」


ヒノエさんの問いに、カゲロウさんはこくりと頷く。
彼曰く、ヒノエさんの貰った箱は…煙に覆われた者を異世界に連れて行くらしい。だが、その商人は<行き>の分の箱しかヒノエさんに渡してなく、<帰り>の分の箱を渡しそびれたらしい。


「…なので、その商人がわざわざ家に届けてきてくれたんです。」

「それにしては…随分と時間がかかったねぇ。待ちくたびれたよ。」

「ああ、それは今度は私が行くための箱を取り寄せてくれてたんです。そして…これが<帰り>の箱になります。これで元の世界に帰れる筈ですよ。」


…なんていうか、変な箱があるもんだなぁ。


『カゲロウさんがいて良かったね! 彩乃ちゃん』

「! うん! ありがとね、カゲロウ。」

「いえ、私は当然のことをしたまでです。」


そんなこんなで、ようやく元の世界に帰れるようになった彩乃ちゃん達。誤って私達が煙に掴まらないよう、距離を少し置き…帰るその時を見守る。


「鯉菜…私がいなくて寂しくなったら…!!」

『大丈夫ですのでヒノエさん、そのいやらしい手を引っ込めてください。』


にぎにぎと手を構えるヒノエさんはお別れなのに相変わらずだ。


「むぅ…ようやく邪魔なデブ猫がおらんくなるのう。」

「誰がデブ猫だ! はげりひょん!!」

「これでもう酒が泥棒豚に盗られなくて済むぜ。」

「私は貴様らに仕方なく付き合ってやっていただけだ!」

「…斑殿はどこでも食い意地がはっていますね。」


…こちらの酒飲み仲間も同様だ。最後までそれか。
そんなニャンコ先生やヒノエさんの様子に苦笑いする彩乃ちゃんを見れば、目が合ってお互いにクスクスと笑う。


「鯉菜ちゃんに会えて本当に良かった!
元の世界に帰っても、ずっと忘れないよ。いつかまた会えるって信じてる。」

『当然だよ、私達友達でしょ?
そっちにお邪魔した時は面倒みてよね。』

「もちろん!
リクオ君も…元気でね、ありがとう。」

「おう。…気ぃつけて帰れよ。」


そんなこんなでお別れを終え、カゲロウさんが箱を空高く持ち上げる。
そして、
「奴良組の皆さん、お世話になりました!」
という彩乃ちゃんの言葉を最後に、真っ白い煙が辺りに充満する。
煙が晴れたそこには誰もおらず…


「帰っちまったな…」

『うん…でもまあ、縁があればまたいつか会えるよ!』

「そうだな。」

「…美味しい酒でも置いておくかのう。」


静かになった奴良組の空を見上げれば、満天の星空。
とても綺麗で広い夜空に…何となく、いつの日かまた会えるような気がした。







(「…むっ?ここにあった銘酒がないぞ。」)
(「…何だこの紙。何か書いて…」)
(「<餞別にこれは貰っといてやる。斑・ヒノエ>…だって。」)
(『あはは! 今頃彩乃ちゃんに怒られてそう〜!』)




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