この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 2-3)見つからない解決策(リクオside)

「ふふ…最初は吃驚したよ。
奴良組には何回もお邪魔したから私のことたいてい皆知ってる筈なのに…鯉菜ちゃんに『どちら様ですか』って聞かれたから驚いちゃった!」


彩乃さん達が来て早くも1週間。
最初は友人帳のことや夏目レイコさんのことを沢山教えてもらい…奴良組との関係をも話して貰った。


「そしたら…リクオ君のお父さんとお姉さんに会うし、リクオ君は私のこと知らないし…」

「す、すみません!」

「いいのいいの! 気にしないで!
それに…世界が違ってても、リクオ君はリクオ君なんだなって思ったから…
何ていうかホッとしちゃった!」


ちなみに最初はタメ口で話してたけど…よくよく話を聞いてたら先輩だと分かったから敬語で話している。


「…それにしても…
姉ちゃんと父さんはそっちの世界じゃいないんですか…?」

「うーん…
リクオ君のお母さんからお父さんの名前は聞いてるけど…お父さんを見かけたことは1度もないなぁ。鯉菜ちゃんも…見かけたことないからよく分からない…ごめんね。」

「あ、謝らないでください! ただ興味本位で聞いただけですので!!」


彩乃さんの話しを聞いてて改めて、ここの世界と彩乃さん達のいた世界が違うのだと実感する。
浮世絵中は他の中学校と合併なんかしてないし…それに姉ちゃんと父さんの存在が不確かだ。
元から姉ちゃんが産まれてなかったのか…
それとも姉ちゃんと父さんが羽衣狐に殺されてしまったのか…
2人とも生きてるけど訳あって離れて暮らしてるのか…
色んな可能性があるが、考えたって分からないものは仕方がない。余計な考えを打ち消すように頭を振れば、ガヤガヤと賑やかな声が近づいてくる。


「離せぇええ!!」

『やめろぉぉおおおお!!!』

「いいじゃない〜女同士仲良くしましょ♪」


その声の主は…
ニャンコ先生、姉ちゃん、そしてヒノエさんだ。
ニャンコ先生は姉ちゃんの大のお気に入りで…姉ちゃんに見つかる度に抱き締められてスリスリされている。同じく…ヒノエさんも姉ちゃんを見かける度に抱き着いてサワサワするのだ。


「ヒノエ! いい加減に止めなさい!!」

ゴッ!!

「ぎゃっ!!」

「姉ちゃんもだよ! ニャンコ先生が窒息しかけてるよ!?」

ゴスッ!!

『っだぁ!?』


そんな2人を止めるのが…最近僕らにできた新しい仕事。
そしてー


「げほっ…このアホウが!!
気安くこの高貴な私に触るでないわい!!」

「おっ…こんなところにいたのか豚猫。
一緒に1杯どうだい?」

「ちょうど季節限定のお酒が届いてのう…ツマミもあるぞ〜」

「なにぃっ!?
1杯じゃ足らんぞ!!酒樽を用意せい!!」


食い意地が張ったこのニャンコ先生の飲み相手が…じいちゃんとお父さんだ。
3人とも意気投合したようで、ここのところ毎日飲んでいる。


「…てかずっと朝から飲んでるじゃん!!」

「先生も少しは遠慮してよ!!また太るよ!?」

『いいじゃん、肥った方が猫は可愛いよ?』

「鯉菜ちゃんは先生に甘過ぎだよ!」


こんな日常が当たり前のようになってきたここ最近の奴良組。さらに賑やかになって笑顔溢れる日々だが…ちゃんと元の世界に帰る方法を探すのは忘れていない。


「鯉菜ちゃん、ちょっとこれ手伝って〜」

『はーい』

「あ、私も手伝うよ」

「…仕方ないねぇ、私も手伝ってやるよ」

『二人ともありがとう!』


彩乃さん達は家事のお手伝いをしてくれながらも、時間がある時は外に出て情報収集しているし…


「若…」

「! 三羽鴉…どうだった?」

「東北の方は何も…」

「関西も同じく…異常も変わった情報もありませんでした。」

「九州の者も思いあたりはないと…」

「そっか…ありがとう。
引き続き情報を集めてくれ。」

「「「はっ!!」」」


ボク達も全力で情報収集をしているが…なかなか有力な情報を得られない。
ボク達と一緒にいる時の彩乃さんはいつも楽しそうにしている…
だが、時々元の世界のことを思い出しているのか哀しげな顔をするのだ。


「…さて、どうしたもんか…」


時は夕暮れー
ざわっと騒ぐ血に、夜の姿になる。
視線の先には母さんと姉貴と共に台所へ向かう彩乃の後ろ姿。彩乃の手には、この間家の者から貰ったという携帯電話が握られている。
きっと家族のことが気掛かりで仕方がないのだろう…


「…早く帰してやんねぇとな…」


そうポツリと呟き、なかなか見つからない情報を求めて今宵も夜道を行く。




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