この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 2-1)どなたですか

ピンポーン


「あら、誰かしら。鯉菜ちゃん、悪いんだけどちょっと出てきてくれる?」

『りょ!』


ある昼下がり、台所に一つのインターホンが響き渡る。氷麗や毛倡妓、お母さん達は昼食の片付けで手が離せない為、代わりに私が玄関へと向かっているなう。
…え? お前も片付け手伝えよって?
失礼しちゃうわ、私も手伝ってるっての! ちょっとお皿運んでフーッてひと休憩してただけだっての!


『…あ、お皿運びを伝言ゲームみたいにしたら楽じゃね? そしたら何回も往復しなくてもよくね?』


いやーん私凄いこと思い付いちゃった天才だね!
だなんて1人脳内トークを繰り広げながら玄関へと向かう。新聞屋か宅配便だろうと勝手に予想をつけ、ハンコを片手に出れば…


銀髪に若葉みたいな綺麗な緑色の目をした美少女がいた。



『…こんにちは〜どちら様でしょうか?』

「え? …あ、夏目です。リクオ君はいらっしゃいますか?」

『あぁ、リクオのお友達? ちょっと待っててね〜呼んでくるから…』


ニコッと笑う少女にこちらも笑顔でそう返し、踵を返そうとするも…ある違和感を感じて足を止める。彼女は間違いなく人間だ。
人間なのに…彼女の周りから妖気の感じがするのは何故だ?
そう思ってクルッと振り返ればー


『むに"ゃっ!!?』

「あらーっ 何この娘、可愛いじゃない!! 奴良組にこんな美人さんいたかしら!?」

「なっ…ヒノエ!? 何してんの!!」


ガバチョと抱き締めてきたのは…美人だけど少しケバイお姉さま。いやらしい手付きでさわさわモミモミしてくるこの人はどうしてくれようか。


『…やっ、やられたらやり返す!!
必殺・ハンムラビ法典〈モミモミ〉!!』

「あんっ
…やぁね、もうちょっと優しくしてくれなきゃ駄目よ。お姉さんが手取り足取り…
お・し・え・て・あ・げ・る☆」


やべぇ…この人ガチだ。毛倡妓よりヤバイわ。
このままじゃ私の純潔は同性のこの人に奪われてしまう…!!


『た、助けてーー!! ヘルプ!!』

「泣いても叫んでも無駄よ…ふふふふふ」


手を空に伸ばし…大声で助けを求めていれば、横から「やめなさい!!」と怒る声が耳に入る。
そしてー


ゴンッ!!

「ぎゃっ!!」


ヒノエと呼ばれた変態女性の頭に大きなタンコブが出来上がった。取り敢えずこれで私の純潔は守られた…!


「すみません! うちの者が…!!」

『あっ、いえいえ! むしろ助けてくれてありがとうございます!!』


ペコッと頭を下げる夏目さんに、こちらも慌てて頭を下げる。本当に助かったからありがたい…でも凄い拳骨でしたね! アレは喰らったら痛いぞ…!!
そんなこんなで…
お互いにペコペコ頭を下げあっていれば、ジャリっという砂の音と共に第三者が現れる。


「…お客さんかい? 鯉菜」

『お父さん…我がスーパーキューティブラザーを呼んで来てくれるかな?』

「…リクオが聞いたら怒るぞ。」


現れたのはお父さんで、私の言葉に夏目さんは驚いたような顔をする。
…何か変なことを言っただろうか?
そんなことを考えていれば、どこからか声が聞こえてくる。


「お前…奴良鯉伴か!?」

「…あん? …なんだい、この変な豚は…」


その声の主は夏目さん…ではなく、夏目さんの肩に乗っているちんちくりんな猫らしきモノであった。
…どこから現れた。
さっきまでそこにいなかったよな…アレか。夏目さんの後ろのフードに入っていたのか?


「豚じゃと!? このうつけもの!!
この可愛らしくて愛らしい姿の魅力が分からんとは…!!」

「…いや、不細工だろ…」

『そう? 性格は不細工そうだけど、外見は可愛いじゃない。』


私とお父さんの言葉に、「相変わらず無礼な奴だ!」「私は性格も見た目も超絶プリチーだ!!」とぷりぷり怒る猫。だが…しばらくして私とお父さんを交互に見比べ、訝し気にお父さんに問う。


「…それよりお前…何故生きておる? それに…その娘はお前の本当の子か?」

「ちょ、ニャンコ先生! 何言って…!!」


デリカシーの欠片もないその言葉に、慌ててブス可愛な猫を咎める夏目さん。お父さんはお父さんで、「どういう事だ…」と目を細めて猫を睨んでいる。
そんな険悪なムードになりかけている時…


「二人共何してんの?」

「これはまた可愛らしいお客さんが来たのう」


何処かへ出掛けようとしていたのだろう…リクオとおじいちゃんが並んでやってきた。
その二人にいち早く反応したのは夏目さんと変な猫で、


「リクオ君、今日も名前を返しに来たよ」

「ぬらりひょん! この間言っていた銘酒は届いたのか!?」


とそれぞれ話し掛ける。
だが…話し掛けられた当の本人達は困惑した表情で顔を見合わせる。
そしてー


「…すみません…
ぇえっと…どちら様、でしたっけ…?」

「何じゃいこの丸々肥った不細工は…」


申し訳なさそうにリクオは口を開き、おじいちゃんは眉を寄せて言う。
そんな二人の様子に…困惑してショックを受ける夏目さん。そして傷ついた彼女を守るように、ヒノエさんと猫が私達に突っかかる。


「ちょっと…昨日の今日で急に他人のフリ? ずいぶんと感じ悪くないかい…。」

「下級妖怪共が!
それ以上巫山戯るなら…貴様ら全員、私が喰ろうてやるわ!!」


その瞬間、さっきまで真ん丸と肥った変な猫は大きく真っ白い狐のような姿へと変貌する。そのあまりの大きさに、悲鳴をあげる奴良組の妖怪達。
だが…今にも暴れんとするその大きな妖を止めたのは夏目さんであり、
そしてー


「あの…奴良組の皆さん、
私達の話を少しだけ聞いてもらえないでしょうか?」


恐怖と悲しみの色を抱えながらも、彼女は真っ直ぐな目をして言う。
その問いに、皆の視線が一気にリクオへと集まる。今一番強い決定権を持っているのは…奴良組を率いる三代目のリクオだ。
皆が事の流れを見守る中、
リクオが出した答えはー



「…そうだね。
取り敢えずあがってよ。お互い情報交換して現状を整理しよう。」




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