この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 1-2)幕開け

「鑑ミサノです。
元の世界に帰れるまでお世話になります。」
「鳴海アサカよ。
帰れるまでミサノ様とお世話になるわ。」

大広間にて挨拶するのは…突如奴良組の庭に現れた2人の女の子。
リクオやお父さん、おじいちゃん、鴉天狗や木魚達磨などなど…数人で話をしたところ、あることが判明したのだ。
それはー

「さっき説明した通り、2人共違う世界から来て心細いだろうから…皆仲良くしてあげてね!
怖がらせちゃダメだよ!?」

ミサノちゃんもアサカさんも、異世界から来たということだ。

『滞在期間は一週間よ。
何としてでも無事に帰すためにも…もし敵襲が来たらこの2人を最優先に護れ。』

一週間…それは元の世界に帰るのにかかる期間。鴉天狗の調査により、ある不審な妖が発見されたのだ。
その名は…狭間妖怪。
その名の通り、人を此岸と彼岸の間に無理矢理連れ込む妖怪である。しかし…それだけでなく、時空や空間の狭間も自由に扱えるらしい。そして今回その被害に遭ったのが…ミサノちゃんとアサカさん。
ただ問題なのが、一度技を使えば…次に使うのに一週間力を溜めなくてはならないとのこと。そのため狭間妖怪は今奴良組にて捕獲されている。


そんなわけで…新しく2人が奴良組で生活することになったのだが、

「宴だーーーー!!」
「歓迎会を開くぞーーー!!」
『だからテメーらは酒飲みたいだけだろ。』

やはり奴良組…宴の準備に嬉々として入る。
やれやれ…また家中が汚くなるぞ。そう思いながらも横を見れば、ミサノちゃんとアサカさんは未だ畏まっている。
…そうだ。

『2人とも、良かったら着替えない? 皆と同じように和服になったら…少し馴染めるかも。』
「でも…いいの? 借りちゃって」
「万が一汚したら悪いわ」
『気にしないで、汚れたら洗えば済むし!
沢山あるから…好きな柄選んで着るといいよ。2人共可愛くて美人だから、きっとどれ着ても似合うんじゃないかな。』

そんなわけで…氷麗や毛倡妓、お母さん達に着せ替え人形の如く着替えさせられる2人。
「この柄、ミサノさんに合うと思います!」
「本当ね! あっ…でもこの色の方が似合うわ〜」
「アサカさんにはこちらの柄が似合うんじゃないですかぁ〜?」
キャッキャッとはしゃぐ奴良組三代女子…あまりのはしゃぎっぷりに2人も疲れるんじゃね?
そう思ったのだが、

「ミサノ様はやはり何を着てもお似合いですね」
「アサカちゃんこそ、大人っぽいからどれも着こなしてるよ!」

全然平気そうな2人に…女子軍団に1人男が混じったような心地になる私だった。
長い時間をかけた結果ー
ミサノちゃんが淡いピンクの花柄、アサカちゃんが紺色のアゲハ蝶柄の着物に最終決定。
『2人ともよく似合ってるよ』
「ありがとう!」
「…着物って結構動きづらいわね」
『そのうち慣れるよ。
じゃあ宴にそろそろ行こうか。多分男共は既に始めてるだろうけど…』

皆で苦笑いしながら大広間へ向かえば、やはり予想通り…どんちゃん騒ぎが始まっている。
こりゃ明日の掃除が大変だなーなんて遠い目で見ていると、

「おっ、着替えたのかい。2人とも似合ってんじゃねーか」
「おいコラ姉貴。鴉天狗から聞いたが…てめー2人を刀で脅したんだって?」

お酒で顔を赤くして言うお父さんに、半目にして私を咎めるリクオが来た。
「…姉貴? 鯉菜ちゃん、弟2人いたの?」
キョトンとして私に聞いてくるミサノちゃんに、そういえば説明してなかったっけと思い出す。

『コレ、リクオ。
暗くなったら妖怪に変化する。性格も昼とは全く違い、女たらしになる。趣味は垣間見、気をつけろ。…痛いっ!?』
「テメーはそんなにオレにしばかれてぇのか?」
『いいね! M心を擽られるよ!』
「じゃあパパもお前を縛ってやるぜ♪」
『誰が縛られたいっつったこのド変態クソ親父』
「あいたっ!?」

リクオは私を叩き、私はお父さんをどつく。そして醜い3人の争いが始まらんとする時、クスクスと可愛らしい笑い声が聴こえる。

「妖怪って言っても人間みたいだわ」
「ふふっ、もっと怖いのかと思ってたから…ホッとしちゃった!」
「それにしても…昼と夜でだいぶ変わりますね」
「うん…でも2人共レン様と同じくらいカッコイイかも」
「そうですね…それでもやっぱりレン様の方が凄いと思います」
『なになに。そんなにそのレン様って人イケメンなの? 会ってみたいわー』

ウンウンと誇らしげにレン様について話す2人に、よほどその人を尊敬してるんだなぁと感じる。だがここで張り合ってくるのが二代目鯉伴であり…

「待て、オレだって誰にも負けねぇくらいイケメンだぞ。リクオにも負けねぇ。」
『お父さんは睫毛長いよね』
「…え? それオレの敗北の原因?」
『いんや、可愛くて好きよ。ラクダみたい。』
「…それ絶対敗北の原因だよな」

チャームポイントTHE☆睫毛を褒めたのに…何故かションボリするお父さん。
その様子に口を開けて笑う私達、そしてお酒で泣き上戸や笑い上戸になる面々…こうして奴良組の騒がしい日常と共に、2人が加わった一週間のプチ新生活に幕が開けた。




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