この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 1-1)初めまして

とある春休みー
干していた洗濯物を取り込み、縁側でそれを畳んでいると…それは起こった。


ドオオオオオオォォォォォ………ン


物凄い光と音…そして衝撃が奴良組本家の庭に落ちる。木の上で寝ていた者は地に落ち、水の中にいた者は水面に顔を出し…皆が皆、何事だと警戒の色を示す。

「雷…でしょうか…」
『…晴れてるのに…雷…?』

一緒に畳んでくれている首無と顔を見合わせ、首を傾げる。念のため見に行こうか悩んでいれば…

「てっ…敵襲だぁぁーーー!!!」
『!!』
「敵襲…!? …って、お嬢!?」

離れた所から聞こえてくる…敵襲を知らせる声。
持っていた洗濯物を首無に投げ渡し、その声の方へと向かう。

『毛倡妓!!』
「ハイッ!!」

私の部屋の前を偶然通りかかる毛倡妓に声をかければ…直ぐにこちらに投げられる私の護身刀。それをお礼を言って受け取り…一気に駆ける。

「な、なに…これ…?」
「化け物…!?」

聴こえてきた知らない声に目を凝らせば、妖怪に囲まれる2人の女性がいた。

「なんだ〜お前ら??」
「どこの組のモンじゃ!」
「人間っぽいが…でも何も無いところから現れたぞ…」
「人間に化けた妖怪にちげぇねぇ!」

『………のけ、お前達。』

ザワザワと騒ぐ妖怪達に言えば、全員がこちらを振り返る。そして…私が通れるように、自然と道が開く。

『……これはまた随分と可愛いお客さんね。
私は奴良組三代目補佐・奴良鯉菜よ…貴方達は?』
「私は…AL4 鑑ミサノです…」
「……FFAL4鳴海アサカよ」
『…? 聞いたこともない組ね…』

晴明戦のこともあって大概の組の名は知っているのだが…。正直にそう言えば、2人とも吃驚したようでキョトンとしている。
…そんなに有名な組だったのか?

『…まぁいいわ。
単刀直入に聞かせてもらう…
誰の命令でここへ来た』
「っ!!」
「なっ…刀!?」

スッと刀を抜き、目の前に突き出す。
…外見上は2人とも普通の人間の女の子だ。しかし、普通の人間が何も無いところから現れる筈が無い。塀の高さからして、よじ登って敷地内に入ることも不可能な筈だ。
私達と同じ半妖…もしくは、陰陽師…か。

「あのっ…私達も何があったのか分からないんです!」
「だいたい…ミサノ様を知らないって、貴方達こそ何者なの!?」

あくまでも惚ける気か? それとも本当に白なのか…
悪いけど、試させてもらうとしよう。

『…吐かないつもりなら、吐かせるまでよ』

キッと睨み付けて刀を振るえば…反射的に目をつぶり、悲鳴をあげる2人。だが、なかなかやって来ない痛みに…恐る恐る目をあける。

「…あ…れ…?」
「生きて…る…」
『…悪いわね、怖かったでしょう?
貴方達が敵かどうか見分けるには…これが手っ取り早いと思ってね…。
改めまして、三代目補佐の奴良鯉菜よ。
ミサノさんと…アサカさんだっけ、取り敢えず中に入ってくれるかしら。
黒、2人を客間に案内して。』
「はっ、こちらへどうぞ。」

ニコッと2人に笑いかけ、黒田坊に案内するように頼む。そして客間に向かう3人の後ろ姿を見送り、やって来た首無に声をかけた。

『首無、お茶を用意してくれる?』
「…いいのですか?
まだ敵という可能性が完全に消えたわけじゃ…」
『クスッ…だから首無に頼んでるのよ。
もし正体を現した時は…よろしくね?』
「! …分かりました」

さてと…リクオは学校だし、お父さんは確かお母さんと夕飯の買出し中だ。
ーん? 春休みじゃなかったのかって?
先日浮世絵中を卒業したから、私の春休みは先に始まってるんだよ。だから卒業生以外はまだ普通に学校である。

『あっ毛倡妓、さっきはありがとね。』
「いえいえ。それよりも鯉菜様…リクオ様が今ここにいなくてよかったですね」
『! そうね…リクオがいたら今頃怒られてたわ』
「ふふっ
リクオ様が警戒心ないのは…鯉菜様の用心深い性格のおかげかもしれませんね!」
『…え〜…逆だよ。リクオが警戒心薄過ぎて私が用心深くなったんだよ。…ったく。』

そんなたわいもない話をし終え、鴉天狗の元へ向かう。

『鴉天狗…何かわかったことある?』
「! 鯉菜様…今あの2人の身元を調べているのですが、何も出てきません…」
『そう…
何かいつもと違うことに気付いたら報告するよう、浮世絵町中のカラスに命令して。それとリクオとお父さん達に三羽鴉つけて。』
「了解です」

…私もだけど、皆もピリピリしている。
というのも、晴明戦が終わってしばらくは平穏な日々が続いていたのだが…時折リクオの命を狙う者が出たのだ。
鬼妖怪の時もあったし、御門院の末裔だと名乗る者もいた…。だから今回もその可能性があると、皆警戒しているのだ。

『…どう見てもカタギの女の子なんだけどね』

そう独り言を言いながら、客間へと向かう。
スッ…と扉を開けば、緊張した面持ちの2人に首無と黒がいた。その様子からもやはり…カタギのようにしか見えない。
だが油断大敵だ…世の中には某陰陽師みたいに嘘のプロがいる。安心できるまでは隙を見せてはならない。

『…待たせてゴメンね!
えっと…何て呼べばいいかしら…ミサノちゃんとアサカさんでいい?』
「は、はい! 大丈夫です」
「…構わないわ」
『よかった! 私のことも好きに呼んで頂戴。
それじゃあ…早速本題に入るんだけど、どうしてうちの庭にいたの?』

そう問いかければ、ポツポツと何があったか話し始める2人。

「全国大会の終わった後だったの…休日でフーファイター本部の自室でアサカちゃんとお茶をしていたら…」
「突然光に覆われて、気がついたらミサノ様と一緒にあそこにいたのよ」
『全国大会って…何の?』
「ヴァンガードです。」
『ばんがーど? なにそれ』
「ば、じゃなくて…ヴァ!
それよりも…貴女カードファイトヴァンガードを知らないの? どこの辺境の地に住んでるのよ…」

首無や黒を見るが…2人共首を横に振る。
アレレ、いつの間にかそのようなものが流行っていたのか…。
にしても…突然光に覆われて、か。

『気になるな…』
「え?」

ボソッと呟いた私の言葉が聞き取れなかったのだろう…首を傾げるミサノちゃんに『何でもない』と笑顔で返す。
そしてちょうどその時、

「ただいまー!」
「今帰ったぜー」
「リクオ、鯉伴さん、荷物持ってくれてありがとうね!助かったわ〜」

偶然帰り道に会ったのだろう…リクオだけでなく、お父さんとお母さんも一緒に帰ってきた。
さて…そろそろ本格的に話し合わなければならない。

『ちょっと待っててね!』

2人に笑いかけて部屋を出る…
向かう先は三代目と二代目のもと。




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