この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 奴良組温泉旅行

「よし!! 温泉へ行こう!!」

「「「「うおおおおおおおおおお」」」」

『喜び過ぎじゃね!?』




2月に入り、まだまだ寒いこの季節…
あまりの寒さにそう言い出したのは、初代奴良組の総大将であるおじいちゃん。そんなこんなで奴良組で大きな温泉に行くことになったのだが…


『何故に混浴?』

「まぁ…家族水入らず、偶にはいいじゃねぇか。」

『家族水入らずってか…組水入らずだよね。』

「いいじゃない♪ 奴良組の皆ももう立派な家族の一員でしょう?」

『いや、そりゃそうだけどさ…お母さんって何気に大胆だよね。』

「姉貴、諦めも肝心だぜ?」

『笑顔で言われても説得力ないわ。』

「いつまでモジモジしてんだぁ?」

『おじいちゃんは何で若返ってんのかなぁ…』

「トイレ行きたいのか?」

『達也君やい、そんなに溺れ死にたいの?』


何故に皆、混浴であることに疑問を抱かない…!
普通なの!? 混浴って普通なことなの!?
いや、私としては胸板をエンジョイできるから超嬉しいけどさ…皆よく平気だよね!!


「キャハハ! 混浴たァ…偶には気が利くじゃねぇか大将!!」


バッッシャアーーーーーーーン!!!!


「お、親父ぃぃぃっ!!?」

「…………。」

「ぎゅ、牛鬼様ーっ!?」

「わぁっ!? ボクの骨が〜!!」


狒々が勢いよく温泉にダイブしたことで、大きな湯飛沫と共に波が起こる。その波にのまれた第1被害者牛鬼よ…ご愁傷様です。ついでに、頭にいつも被ってある馬の骨を流された馬頭丸もご愁傷様です。


『うわっ…波がすごいな。
お母さん大丈…あり? お母さんは?』

「母さんならもうあがったぜ?」

『早くねっ!?』

「若菜はリンパマッサージサロンに行くって出て行ったなぁ…」

『…何それ。私も行こうかな…』

「えぇ、後でいいじゃんそんなの。
つぅか鯉菜っちは夜の姿になんねぇの?」

『下心丸見えだぞエロガキ。』


リクオ、お父さん、そして達也と話しながら…露天風呂を楽しむ。寒い冬であるにも関わらず、温泉に入ると外にいても全然平気である。これぞ露天風呂パワーだ。


『それにしても…うむ、いいねぇ…!』

「鯉菜先生! 顔がにやけております!!」

『ニヤけざるを得ないだろう…!? こんなに素晴らしい胸板が沢山あるんだからっ!! マジウマ。』


ただでさえ素晴らしい胸板が…当たり前だが濡れているのだ!! 水に滴るいい男…いや、水に滴る美☆胸板!! 鼻血を出さない私は偉いっ!!
そんなことを内心1人で誇っていればー


「ひぃぃいいいいいいっっ!!!!
無理ですぅぅうう!! 私にはまだ無理ですっお母様!!」

「だから、畏を上手くコントロールしたら雪女だってお風呂は入れるの! 実践あるのみよ!!」


アカン。
雪女親子…雪麗さんと氷麗が現れてもうた。雪麗さんはともかく、氷麗はお湯に入れない筈!


『…私あがるわ。』

「あん? 待てよ、まだ早…
ちっ、行きやがった。」

「…ぬらりひょんの能力って便利でいいなー。」

「…オレもあがるわ。」

「何じゃ何じゃ。若いもんは逆上せるのが早くてツマランのぅ…!!」


湯から出る私をお父さんは止めようとするが…明鏡止水でそれをスルッと抜ける。その様子に達也は良いなぁと言い、お父さんとおじいちゃんは呑気にボヤいている。


『…リクオもまだ入っとけばいいのに。』

「顔に出てたぜ? 〈嫌な予感がする〉って。
姉貴の嫌な感は当たるからなぁ…
氷麗か雪麗さんで凍るんじゃねぇのか?」

『十中八九、氷麗でね。』


ニッと笑いかけるリクオに、こちらもニッと笑い返す。お父さん達はもちろん…首無や黒、青、狒々親子などなどはまだ温泉の中にいる。皆テンションが上がりすぎていて、雪女親子が温泉に入らんとしていることに気付いていないようだ。
そして遂にー


「ほらっ! 入って!!」

「きゃあっ!!?
………熱っ、熱過ぎて無理ですぅぅううーっ!!」


ジャボーンと湯飛沫をあげながら、雪麗さんによって湯の中に落ちる氷麗。直後…


ピキピキピキイイッー!!


氷のオブジェの出来上がり☆


「ああああっっ!! 初代や二代目までも…!!
どうしようお母様っ…!!」

「…ほっといていんじゃない?」


慌てふためく氷麗とは逆に、ケロッとそう言いのける雪麗さん…あな恐ろしや…!! リクオと2人で頬を引きつらせながらその光景を見ていれば、


「あらっ、鯉菜様とリクオ様はお湯から出てたんですね〜。」

「毛倡妓…」

『そらーね…凍らせると思ったし。』


毛倡妓もお湯から出ていたのだろう…フフフと愉快そうに笑って言う。首無達と一緒にいたはずなのに、自分だけコッソリ逃げるとは…なんて彼女らしいんだ!!人のこと言えないけど。


『奴良組の女はコワいねぇ…』

「あらっ、そう言うお嬢だって…。
達也様をお連れすれば良かったのに。」

『楽しんでるところを邪魔したくなかったの。』

「またまたァ〜!」

「(女って怖ぇな…)」


私の言わんとすることを直ぐに汲み取った毛倡妓は、すかさず私もその〈コワい女〉の部類だと言う。そんな私達の会話を耳にし、頬を引き攣らせるリクオの様子に…私と毛倡妓は顔を合わせてニヤリと笑う。


『リークっ♪』

「あ?」

「若、せっかくなんで…
一緒に3人で水入らず飲みましょう♪」

「お、おいっ…!?」


私と毛倡妓に両側から腕を絡められるリクオ。
慌てて抜け出そうとするも、ガッチリ掴んでいるので逃げられない。


「(…凍った方が良かったかもしんねぇ!!)」


酔っ払いの相手をする程苦痛なことは無い。これからこの3人で飲むということ…それ即ち、1番お酒の強いリクオはお酒の弱い私と毛倡妓を相手にしなくてはならないということだ。

結局、沢山の氷のオブジェが出来上がった氷風呂を去り…私達3人は美味しいお酒を飲みまくった。ぶっちゃけ酔った時の記憶はないのだが、後日リクオは
「酔っ払った姉貴と毛倡妓のコンビだけはもう二度と相手したくねぇ…!!」
と語ったと言う…。




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