この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 枕投げ大会

「なぁなぁ、枕投げしようぜ!」

『仮にも元教師がする発言か? それ。』


やぁやぁ皆様、こんにちは。
ただいま奴良組で温泉旅行に来ております鯉菜です。温泉めっさ気持ち良かったよ! その後の食事も最高だった!! そして今は布団に入っておやすみタイム…かと思いきや、


「よし、2チームに分かれてやるからな!」

「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」

『何がよしなの? てゆうか何で皆乗り気なの!?』


達也の誘いにつられ、テンションMAXな奴良組の猛者達。何てこった…こりゃなかなか寝られそうにないな。
そんなこんなで急に始まった枕投げ勝負!
どうやら細かいルールが色々とあるらしく、達也が一生懸命に説明している。


「てなわけで、赤チームと白チームに半々に分かれて勝負するわけ。OK?」

「OK! 大将が当てられたら即終了、そのチームの負けなんだよな。大将は誰がやる?」

「そこはやっぱり若でしょう! 白チームの大将は若にしか務まりません!!」

「じゃあ赤はお嬢にしようぜ!」

『いやいや、私に大将は務まらないよ。間をとって達也を大将にしよう。』

「どの間をとったらオレになったんだ?」


急に指名されたことで驚いている様子の達也だが、満更でもないらしい。アッサリと大将の役を請け負った。
ちなみにこのゲーム、大将が枕を当てられた時点で試合終了なのだが…


「大将が当てられたら終わりだからな! そこをちゃんと考えて戦略を考えるんだぞ!?」

『枕投げに戦略とかあんの?』

「おまっ、ちょ、枕投げ馬鹿にしてねぇか!?
大将が当てられたらジエンドってことは、大将を守る奴がいるだろうが! それに枕を飛ばしまくってたら、飛ばす枕がなくなるだろ!? そうならないために枕回収係も必要じゃん!?」

『あぁ…確かに。』

「奴良姉どおした!? お前そんなんで3代目補佐がよく勤まってるな!?」

『図に乗るなよクソガキ。』


意外と奥が深いこの枕投げ勝負…どうやら役割分担とチームワークができていないと勝つのは難しそうだ。ちなみに布団は一枚だけ使用可能らしい。なんでもそれで敵の攻撃を塞ぐのだそうだ。


「両チーム共、大将を守る副大将を誰にするか決めましたか?」

「オレら赤チームは、奴良姉が副大将だ!!」

『癪だけど、このチビには指一本触れさせないから。』

「ハッ…白チームは親父が副大将だ。親父、姉貴に負けんじゃねぇぞ!!」

「分かってらぁ。我が息子の頼みとあっちゃあ…相手がいくら愛娘であろうと手加減はしねぇ。覚悟しとけよ? 鯉菜」

『上等だよバカ親父。』

「ゴホンッ! えぇ〜…準備ができたようなので、そろそろ始めたいと思います。
枕投げ勝負…よぉ〜い、始めっ!!」


パンッと鳴り響いた手拍子に、一斉に枕が飛び通う。リクオ達と私達を行き来するその枕達は確かに柔らかい…とっても柔らかい筈なのだ。
しかし、我らの勝負はいつも本気と書いてマジだ。手加減なんか一切せずに、全身全霊をかけて枕を投げてくる。ゆえに、当たると地味に痛い。柔らかいのだから痛くない筈なのに、痛い。

そして、私達は狡い。


「オホホホ!」

「てめっ、毛倡妓! 髪使うなんざセコいぞ!!」

『んなこたぁないよ青田坊。これはあくまで枕を敵にぶつけるゲームだ。敵の妨害をしたら駄目だというルールはない!』

「…確かにそうですね。じゃあオレもやらせていただこう。」

「なっ…首無! アンタっ!!」


枕投げをせずに、枕投げをする敵の邪魔をする毛倡妓。そんな彼女の髪を、仕返しと云わんばかりに、紐で結んでいく首無。
あぁ…毛倡妓だけでなく首無も私のチームだったら良かったのに。この二人が対決するなんて戦力が勿体ない。


「うわっ!?」

『おっと…当たってない? 達也』

「お、おう! そう言うお前は…」

『ちゃんと避けたから大丈夫。』

「そっか。
にしてもやべぇな、今形成不利じゃね?」

『多勢に無勢ってやつ、かな。』


そういや…
大将が枕を当てられたらそこで試合終了になるけど、他の人が枕を当てられた場合はその場で1分おやすみするんだよね。だからチーム人数は平等なんだけど、今私達のチームはおやすみしてる人が多く人手不足なのだ。

そして、
そんなピンチを逃してくれるほど、敵は甘くない。


「あらよっと」

『甘い! …けど、このまま戦うのもキツイな…。』


現れたお父さんの手には枕が握られ、しかも、首無の紐で枕を幾つか腰に付けている。そしてどや顔なのがまた腹立つ。対して私と達也は枕を1個ずつしか持っていない…
となればー


『…達也、舌噛まないようにね!』

「ふえっ!? なっなっなっ…何事ぉ!?」

「何でぃ、逃げようってのかぃ?」


敵前逃走。枕を抱き締めている達也を俵担ぎにして、ダッシュで逃げる。そんな私達をお父さんはポカンと見送り、途中でハッとして追いかけてきた。
達也も最初はびっくりしてたようだけど、今はもう楽しんでいて…


「やっべ! 妖怪超速ぇー!! アハハ!!」

『ちょっ、達也! あんまり暴れないで!!』

「待ておめぇら! 駆け落ちなんざパパ認めないからなぁ!?」

『何でそうなるんだよ! あほか!!』

「鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ♪」

『おいっ、呼ぶなバカ!!』


王子様がお姫様を抱っこして逃げる話というのはあるかもしれないけど、その逆は普通ないよな。…なんてことを考えながら、私は枕と達也を担ぎ走り回った。
そして、そんな光景をまさか隠し撮りされてるとは露知らず…

後日、




ピロリン♪

『おっ、LIMEだ。しかも奴良組全体グループ。
何の用だ、ろ…う…』

「…あれ。この誘拐犯の顔、見覚えがあるなぁ。」

「リクオもか。実は父さんもこの誘拐犯を見たことある気がするんだよなぁ…」

『……………』


奴良組全体グループのLIMEで送られたのは、夜の私が枕片手に達也を俵担ぎしている写真で…


「子拐いは立派な悪行だよね、父さん。」

『いやいや、リクオ。この写真…』

「そうだなぁ…しかも片手に持ってる枕がまたイヤらしいよなぁ。しかも寝間着だし。」

『おいコラ、これ枕投げの時の写真でしょ。なに誤解を招くような言い方してんの。しかもLIMEでも呟いてるし。マジやめてくんない? このバカ親子。』


まるで変態女が子供を拐っているようなその写真に、「お嬢がついに目覚めた」「お赤飯炊きましょうか」「どうでしたか」などと悪ノリしたコメントがいくつもあがったのであった。




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