この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 遊園地(下)

「あははははははっ!!」

『……っ…』


はい、皆さんこんにちは。
前回のあらすじを簡単にまとめますと…
記憶喪失なたっくんと遊園地に行くことになりました、です。そして現に遊園地なうなんだが…


『(…気持ち悪っ…!!)』


コーヒーカップを物凄いスピードでグルングルン回されてて吐きそうです。たつや君、見た目可愛いのにやることえげつないわ。お姉ちゃん吐きそうなんだけど…。回転しながら吐くなんてそんな人生最大の恥を晒したくないんだけど…。


『…ぁっ、これデジャヴだわ……ウッ』

「うわははははははー!!」 


ふと走馬灯のように頭をよぎったのは…リクオと一緒に乗ったコーヒーカップ。確かあの時も無邪気で活発なリクオによって吐きそうになった覚えがあるぞ。つぅか最早たつや君の笑い声が魔王の笑い声にしか聞こえないんですけど…!!



「あははっ! 楽しかったー!!」

『………そ、そう。
それはようございました……ッ』


ようやく終わった地獄のコーヒーカップ。
吐き気を催す私に気付かず、私の手を引っ張ってケーキを食べようと言うこの子は悪魔の子かもしれない。


「チョッコケーキ♪ チョッコケーキ♪」

『(…あ、美味しそう)
チョコレートケーキとブルーベリーケーキを一つずつ下さい。あ、あと紅茶もお願いします。』


喫茶店のようなお店に入れば、お土産屋とケーキがたくさん売ってあった。後で皆へのお土産にお菓子を買って帰ろうと思いながらも、取り敢えず空いている席にたっくんと座る。
そしてしばらくすれば、注文したケーキと紅茶が到着。さっきまでの気分の悪さはどこへ行ったのやら…目の前に広がる美味しそうなケーキと紅茶に早速手をつける。


「…ん〜! 凄く美味しい!!」

『…うん、本当だ。甘過ぎずで丁度いい!』


期待以上に美味しかったケーキについ頬が緩む。


『これ、少し食べてみる?』

「いいのっ!? じゃあボクのチョコレートケーキもお姉ちゃんに少しあげる〜! 特別だよ!」

『クスッ、それじゃあお言葉に甘えて頂きます。』


特別…ねぇ。
なんとなく可愛いその言葉に、ついクスリと笑ってしまう。それを誤魔化すようにして、お互いのケーキを少しつつきながらも各自残りのケーキを食べる。他愛もない話をしながら和気あいあいと時間を潰していればー


「…あり?」

『?
どうかしたの? たっくん』


急にポカンとするたっくん。
だが、しばらくして「何でもないよ!」とたっくんはニッコリ笑う。


『疲れたなら帰ろうか?』

「えーっ、ボクまだ遊びたい!! ねぇ、次はアレに乗ろうよ!!」

『はいはい』


喫茶店を出て、次に向かう場所はジェットコースター。結構な高さと速さがあるそれは、この遊園地の三代絶叫マシンの1つである。コーヒーカップの次はこれか…と苦笑いしながらも、グイグイと私の手を引っ張るたっくんに促されるままその乗り場に向かう。

そんなこんなで、
アイスクリームやポップコーンなどを時々食べながら遊園地を堪能した私達。辺りはすっかり暗くなっており、様々なアトラクションはライトアップされている。


『今日は楽しかった? たっくん』


たくさんのお土産を両手に抱えながら、隣をてくてくと歩くたっくんに何気なく訊ねる。
すると、返ってきた言葉はー


「おう!
楽しかったぞ、鯉菜先生♪」

『…………』


たっくんではなく、坂本先生の返事だった。
…完璧に忘れていた! そうだよ、記憶が戻るのは4,5時間後だったはずじゃないか!!


『…いつから?』

「喫茶店を出る前ら辺かなー」

『…あん時か…!』


先生の言葉に、ケーキを食べ終わる頃を思い出す。
ポカンとしたあの時に既に、たっくんではなく先生になっていたのだ。


「オレには手厳しいのに、たっくんには随分と優しいんだなぁ奴良〜」

『こんのクソガキ…っ!』

「いってえー!!」


たっくんとして接していた私のことを思い返しているのか…ニヤニヤとこちらを下から見上げてくる先生に、取り敢えず拳骨をお見舞いする。あぁ…もう、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい…!!


「帰ろうよ、お姉ちゃん♪」

『殴るわよ。』


キャッキャと騒ぐ先生を睨み付けながらも、二人並んで出口へと向かう。


「今日はありがとな、奴良!」


最後に、普通にニッと笑みを浮かべる先生。
空にはたくさんの星が所狭しと散らばっており、とても綺麗である。そんな星空を2人して見ながら帰路につく。


『…どういたしまして。』


途中から先生に騙されていたのは癪だけど、偶にはこういうのも悪くないかもしれない…。




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