この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 遊園地(上)

「…お姉ちゃん、誰?」

『…ぇ、マジでか。』


どうも皆さんこんにちは。
ただいま目の前には今年1年生になったばかりの小さな男の子、もとい先生がいます。


「…ここどこ? …アレ、ボク…誰だっけ?」


そんな彼は現在進行形で記憶喪失にあっています。私の事は愚か、自分の事さえも忘れてしまった模様。


「何だ何だ〜」

「本当に記憶喪失になったのかー?」

「怪しいぞ…演技じゃないのか?」


その様子に小妖怪達はワラワラと先生を取り囲む。いつもの先生ならきっと大丈夫だったであろう…だが記憶をなくした幼い子供にはー


「ひっ…!
ふ、うぅ…うわああああああああん!!
おばげぇぇぇぇぇ!!!!」

「うえっ!? 泣き出したぞ!?」

「お、おい…泣き止めよっ」

「演技じゃないのか…??」


どうやら恐ろしい光景だったようで、ワンワンと大泣きしている。
しかも、だ。


『…ほぉら大丈夫だよ〜、見た目は怖いけど皆優しい子達だからね〜』


私に縋り付いて泣いている…!!
ナニコレ、激カワなんですけど。私にはショタ癖なんかない筈なのに…


『これが覚醒か…!!』

「そんな覚醒はいらねぇ。」


パシンと叩かれる頭に後ろを振り返れば、半目のお父さんが私の後ろに立っていた。


『どんな覚醒だったらいるのよ。』

「ファザ…、パパコンになる覚醒を求め…」

『そんな覚醒は超いらねぇ。』

「ぐふぉっ!?」


未だグズグズと泣いている先生を抱っこしながら、クルッと回し蹴りでお父さんを蹴る。
これこそ…
 

『奴良家一子相伝…
妖怪ヤクザクルクルキック!!』 

「えーっ、クルクルですかー?」

「お嬢、もっとカッコイイ技にしましょうよ!!」

「暗黒蹴りとかどーです!?」

「いやいや、龍星群キックの方がいいだろ!!」

「ダセーよ!! ファイヤー…」

『お前ら最近どーした?
中二病になってないか? 包帯あげようか?』


最近の小妖怪達は誰の影響なのか…
「暗黒」とか「うっ…腕がっ!」とか「くそっ…右目がっ!!」とか急に騒ぎ出す症状に見舞われている。鴆に相談したらグハッと大量吐血された挙句、「…お、オレの咳も…中二病なんだぜっ」とか言い出すからもう…


『笑えばいいのか泣けばいいのか分からないじゃないっ…!!』

「お、お姉ちゃん、大丈夫…? 怖いの…?」

『たっ…たっくん…!!』
 

私の腕の中にて、涙目で心配そうにこちらを見つめる先生…いや、たつや君に私のハートはキュンキュンです!!
ちなみに、今更だが何で先生が記憶を失ったかと言うとー


「プオーン!」

『グッドジョブだ、夢喰い。』

「プオーン!」

『まさか本当に君が記憶を消せるとは思わなかったよ。夢だけかと思ってたのに…疑って悪かったね。』

「プオーン!」

『お前何言ってんのか全然分かんねぇよ。』


奴良組に突如やってきた妖怪の獏。
そんな獏に「お前夢しか食えねぇの? オレの記憶から前世のモテなかった悲しみの記憶を消してくれない? そんでモテてた偽りの記憶を入れてくんない?」とお願いした先生。
何言ってんだコイツは…獏は夢しか喰わねぇだろと思いながらも見守っていれば、「プオーン」と獏が大きく一鳴きして冒頭に至る。
まさか記憶を丸ごと消すとは思わなかったが…先生としてではなく、たっくんとしてこのキュートな子供を可愛がれるとは正に棚からぼた餅だ。


『そーだ。
お腹空いたんじゃない? お姉ちゃんと一緒に美味しいケーキを食べに行こっか♪』

「本当!? やったぁー!! ボクね、チョコレートケーキがいい!!」

『ふふ、じゃあ私はベリー系のケーキにしようかなぁ!』


そんなわけで、
妖怪を恐れ…私にベッタリなたっくんを私は滅茶苦茶可愛がることに決定。どうやって会話をしたのかは謎だが…烏天狗の情報によると、記憶はどうやら4,5時間で戻るらしい。
 

『つまり…4,5時間しかたっくんを堪能できないということだ!! 有意義に過ごさねばっ!!』

「? たんのー?」

『うん! たっくんは遊園地とか行きたい?』

「行きたい! 連れてってくれるの!?」

『勿論! 遊園地で美味しいケーキ食べて、たっくさん乗り物に乗ろう♪』


そう言えば、流石子供…両手をあげて大喜びする。びしょ濡れのお父さんが指をポキポキ鳴らしながらこちらに歩いてきているが…それをガン無視して私達が向かう先は遊園地。


「しゅっぱーつ!!」

『進行ー!!』


こうして、
小さな男の子を抱え、キラキラと輝く太陽の光を浴びながら私達の小さな旅は始まった。




prev / next

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -