この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 通じるそれぞれの想い<下>

満開な桜が咲き誇る今日…
ここ○○大学にはスーツに身を包む若者が、どこか緊張した面持ちで集まっていた。
それだけではない。
若者達の親御さんであろう大人も、同じように綺麗な服装をして集まっている。


『……あっ、達也みーっけた!』


そんな若者と親御さんが集まるここは○○大学の体育館で、現在はおめでたい入学式が開かれているのだ。ちなみに私は普通のカジュアルな格好ですが、明鏡止水を使っているため周りからは認識されてない。いやー便利なこと。


『ラッキー! 家出るの遅れたからもう入学式終わってるかと思ったけど、後もう少しで終わりそうなくらいかな。
……つーかアイツ寝てね?』


うじゃうじゃと新入生が沢山いる中からようやく見つけた達也は、コクリコクリと頭が揺らいでおり寝てるのが一目瞭然。入学式から寝るなんてよくやるわ。気持ちは分からんでもないけど。


『まだ時間少しありそうだなー……そうだ!
良いこと思いついちゃった。』


確かこの近くにちょっとしたモールがあったはず。そこに一旦買い物行って、ダッシュで戻ってこよう!
そう決心した私はダッシュでその場を去り、買い物を済ませ、またダッシュで大学へと戻ってきた。こういう時、(身体能力高いし姿見えないし)妖怪であることに良かったと心底思う。

着けば入学式は終わったばかりのようで、体育館からは次々と人が波のように出てくる。その波をジーッと見ていると、ようやくお目当ての人物が流れ出てきた。


『たーつーやーさーん。』

「ぅうおぉぉおおうぅっ!!??」


ツーと達也の背筋を上から下へなぞれば、変な声を出しながら後ろを振り返る達也。「何するんだ」と言おうとしてるそんな達也の目の前に、先程調達した一輪の花をスッとつき出した。


『入学おめでとう、達也。』

「お前なぁ〜、普通に渡せないのかよ!」

『あとこれ、入学祝いのプレゼント。今すぐ開けてみて。』

「え、まじで? サンキュー、何だろう……
……目覚まし時計??」

『うん。さっき入学式早々寝てたから、なんとなく。』

「見てたのかよ…」


ケラケラと話しながらも近くの空いてるベンチへと向かう。どうやら今から1時間半程度昼休みらしく、その後オリエンテーションがあるらしい。
さっきコンビニで自分達のお昼買っといて良かった! 食堂やらここら一帯のコンビニは新入生でウジャウジャして時間かかりそうだもの。


『早いもんだねぇ…坂本先生が逝って転生して、もう大学生だよ。中身は前世の頃から小学生みたいだけど。』

「えー、小学生のようにずっと心が綺麗って? そんな褒めんなよ〜事実だけどさ!」

『…あーハイハイ。でも頭は小学生どころかずっと幼稚園児でちゅよね。』

「鯉菜…お前幼児退行が始まったのか?」

『マジウゼェ。』


お互い毒を吐きながらも、でも本音ではないことを互いに知っている。
いつまで続けられるのだろうか、こんな事を。仮に達也に彼女ができたら、私達には距離ができていくんじゃないだろうか。まぁ、仕方ないけど。


『…やっと大学生になったんだもんね。これから沢山遊べるじゃん。でも遊びすぎて単位落とすなよ。あと、仮にモテたとしても調子乗って女の子泣かさないようにねー。』


何だかモヤッとしてきたから、そんな自分の感情に蓋をした。へらっと笑ってブラックジョーク。いつも通りに私はしたけど、達也はいつも通りに返してこない。


『…達也?』

「…なぁ鯉菜、リクオ君と鯉伴にこないだ会って思ったんだけどさ…お前って人間と妖怪のどっちと結婚したいの? てか結婚願望あんの?」

『………何よ急に。』

「いいから、真面目に答えて。」


達也がシリアスモードって、何か調子が狂う。
正直居心地悪いけど、でもここで私がふざけ続けたら達也も怒りそうだし…早くこの雰囲気を壊すためにもここは大人しく真面目に返すのが賢明かもしれない。


『結婚願望はあるよ、ただ相手が見付からないだけで。あと人間か妖怪かってこだわりはない。』

「……でも妖怪なら一緒に長くいられるけど、人間ならお前は一人になるかもしれねぇだろ。いくらクォーターと言えども妖怪の血がある限りお前の方が長生きなのは確かだし、人間が相手なら先に逝くのはその旦那だろうし。」

『…まぁ…それは……寂しいし、私もちょっと思うところあるけど……。でも人間を選んで先に逝かれたとしても、多分私は後悔しないと思う。
それを経験してるおじいちゃんが今も元気に生きてるし、お父さんもリクオも、奴良組の皆もいるから……だから寂しく思っても、寂しくて後悔することはないと思うんだ。』


そう答えると、なるほどなぁ…と何やら考え込んでいる達也のうなり声が聞こえてきた。本当どうしたんだろう急に。「結婚しろ」とうるさいおじいちゃんやら鴉天狗に、何か聞けと頼まれたのかな。
いや…聞けって言うくらいならおじいちゃんが自ら聞いてくるよな、多分だけど。


「じゃあもう一つ。
さっきオレがモテたとしてってお前言ったけど…お前はオレがモテて嫌じゃないの?」

『……はぁ〜? 何言って、』

「ちなみにオレは嫌だ、お前がモテるのは。」

『な、さっきから何なのよ…!』

「…今までオレはモテたいって思ってたけど、実際中学高校の時にモテてもそこまで嬉しいと思えなかった。いや、嬉しいけど…何か違ぇなって感じてて…。
んでも、最近ようやく分かったんだ。オレは一体誰の隣に居たいのかって考えた時に…やっと気付いたんだよ。
オレはずっと…お前の傍に居たい。」


ギュッと手を握りしめられて、隣にいる達也の顔を見上げた。その目はいつになく真剣で、きっと真面目に考えて出した「彼」の答えなのだと分かった。
正直その言葉の数々に私は喜びを感じた…
けれどー、


『……そんな、まだ時間はたっぷりあるんだから、急いで答えを出さなくてもいいんじゃない? せめて大学生を謳歌してからでも…』

「……オレは急いでなんかねぇ。むしろ時間はたっぷりあった。ただオレが逃げるのを止めて、自分に向き合った結果出した答えがこれなんだ。」

『でも……っ』

「鯉菜、オレはお前と離れるのは嫌だ。
でも…お前はどうなんだ? オレと離れ離れになっても、いいのか? オレがモテて他の女と付き合ってもいいのか?」

『…………』


そんなの……嫌に決まってる。
でもここでの『嫌』は『達也のことが好き』と言うのと一緒なこと。達也も本当は…私の気持ちに気付いているのだ。だから、素直じゃない私でも好きという気持ちを伝えられるよう…わざわざこんな聞き方をしてくれてるんだ。


「なぁ、鯉菜……」

『……そんなのっ…分かんないよ! 離れ離れになるのは嫌だけど……でもっ…!!』


それでも私はやっぱり臆病者なんだ。
せっかく達也がここまでしてくれてるのに、私はまだ自分の気持ちを認めるのを恐れている。
認めたら、きっともう後戻りはできない。
達也が狙われることは多くなるし、そのせいで達也が傷を負ったら? もしくはまた私が…自らの手で達也を殺してしまったら?
いっそのこと…この手を振り払って『嫌い』と言った方が、達也の為になるのでは?

どうして私は…こんなにも弱いんだろう。


『……っ…』

ポタッ ポタッ

押し寄せる感情に、涙が湧き上がる。唇を噛んでも押さえきれそうになくて下を向いてると、溢れた雫が達也の繋いでる手に落ちた。
……あーあ、これじゃあ泣いてるのバレバレじゃん。まぁ涎が垂れたと勘違いされるよりかはマシだけど。
そんな阿呆なことを考えていると、急に引き寄せられた私の体。背中と頭に手をまわされて、あぁ抱きしめられてんだと頭の隅でぼんやりと状況確認した。


「悪ぃ…泣かせるつもりはなかった。
けどな、奴良…もうアレは<終わった>事なんだ。
お前の性格上忘れるってことは無理だろうけど、いつまでも過去に縛られるな。
過去を背負うのと過去に縛られるのは違ぇぞ?」

『……ズルイですよ…! 何で……っ』

「お前が達也の幸せを考えてくれてるのはありがたいが…自分の幸せは自分で決める。
だから奴良…お前もいい加減自分の気持ちに正直になって、自分のために生きろよ。な?」

『こんな時に…坂本先生になるなんて、ズルイですよ……バカっ!!』

「つっても…坂本先生も達也もどっちもオレだけどな? 名前と外見が違うだけだけどな?」

『そん、なの…分かってます……!』


ズビスビと泣きじゃくりながら訴えるも苦笑いして返すこの男に、また助けられちゃったなぁとこっちも苦笑い。
お前がウジウジしてたらオレがいくらでもケツひっぱたいてやるからな!とイタズラっ子のような目をして言われた言葉に、セクハラで訴えるぞと返せば笑いがわき起こる。


「それで?」

『うん?』

「改めて問うよ?」

『うん』

「オレのこと『ダーリン♪』って今後ずっと呼んでくれますか!?」

『それ告白かプロポーズなのかどっちなの?』

「だーかーらー、結婚を前提に付き合ってくれるよねって聞いてんだよ鯉菜ちゃーん。」

『質問どころか脅しに聞こえるんだけど…
まぁ、いいや。また独身になったら可哀想だから、私がお付き合いしてあげます。』

「出たツンデレ。顔が赤いぞ〜
本当はオレのことが大好きでたまらないくせに〜」

『うっさい。』


改めて付き合って下さい、なんて堅苦しくするほどの付き合いでもない。むしろ今更過ぎて…お互い照れ隠しにふざけて言ってしまうが、これはこれで私達らしいと思う。


「改めてよろしくな、鯉菜。」

『こちらこそよろしくね、達也。』


風に揺られ、ひらひらと桜が舞い遊ぶこの季節…
そして新入生が新たな生活のスタートをきる日に、私達は付き合い始めた。





(『達也、もし私がまた何らかの争い事で達也を殺すことになったらゴメンね?』)

(「んー…まぁ、また痛いのはゴメンだけど、他の知らん奴らに殺されるくらいなら鯉菜に殺された方がいいからオッケー!」)

(『軽っ!! そこはもっとこう…何というか…』)

(「心配ナッシング! また死んだらまた転生してまたお前のところに現れるから!」)

(『ストーカーかよ。』)




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