この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 達也、夜とのご対面(鯉伴side)

「鯉菜せーんせーい!
おっつー! 今日も元気ぶりぶりー?」

『………アンタはいつ見ても元気そうだな。』

「えーなになにー? いつ見ても愛しいって? もうやめてよー照れるぅ〜!」


午後3時頃。
鯉菜とリクオとオレで、ちょっとした甘味を食べながらテレビを見ていれば、そいつはいつも通りアホ面さげてやってきた。
ただ、いつもと少し違う点と言えば…


「なんだなんだ? 何かお前、今日反応薄くね? そんなにオレに逢いたくて逢いたくてセンチメンタルだったのか?」

「……おーい、達也。」

「……姉ちゃんの目、よく見てみた方が良いと思うよ。」

「は? 目? 目がどうかしたのか……
って、うわあっ!?
おまっ…どうしたその目は!
すげぇ充血してんじゃねぇかっ!!」

『「「…………。」」』


バカかコイツは。
充血でこんな真っ赤な目をする奴があるか。居たとしても、きっと本人も周りももっと焦ってるわ! んで病院とかに慌てて行くのが普通だろうが。
もう大学生になったのに、コイツはいつまで頭が弱いんだ。


「あー…お前さ…あの〜、眼科?
眼科に今すぐ行った方がいんじゃねーの?」

『……ムカつく。』

「えっ、お医者さんが? 何かあったのか?」

『違う、アンタがムカつく。』

「ええっ!? オレェ!? 何でッ!!」

「「……(もしや…達也って…)」」


ムスッとした顔で達也を見る鯉菜及びぎょぎょっとしている達也を見比べて、オレとリクオは何となく分かった。


「達也、夜の姉さんに会うの今日が初めて?」

「夜のって、妖怪姿の? それなら見たこと…」

「いや、まぁ…合ってるっちゃあ合ってるが…それとはまた微妙に違う。夜の鯉菜はー」


意外だ。
妖怪姿の鯉菜を知ってるから、既に夜の方の鯉菜のことも知っているかと思いきや…まさかの知らなかったとは。
改めて、滅多に表に出て来ない夜の鯉菜のことを話してやれば、「何だ、リクオ君と同じ二重人格者か!」と何故か目をキラキラさせて言う達也。またどうせ下らないことを想像しているに違いない。


「てことはさぁ、アレだろ?
オレは今、昼鯉菜と夜鯉菜の2人と付き合ってるってことだろ? やっべ…モテモテじゃんオレ。」


本当に下らないことを考えていた。
オレの予想以上に下らない…コイツは真のバカなのかもしれねぇ。人格的には2人でも、結局は鯉菜1人ってことをちゃんと理解しているのか?


「にしても、2人と付き合ってるったってお前ぇ…夜の方とは初対面なんだろう? その夜さんとも想い合ってるって決め付けるのは時期尚早なんじゃねぇのか?」

「えっ」

『……………。』


きっと今のオレは意地悪い笑みを浮かべているだろう。ニヤニヤとアホなことを考えている達也を少しからかいたくなり、つい意地悪いことを言ってしまった。
そしてオレの期待に応えるかのように、達也は石のように固まってしまった。だが暫くしてハッとし、今度は凄い勢いで鯉菜に問い詰める。


「鯉菜! …さん!?」

『…別に呼び捨てでいいけど。』

「じゃあ、鯉菜!
君の意思確認がしたい。君はオレのことどう思ってる!?」

『ど、どうって…』

「…鯉菜に、昼の顔と夜の顔があるのは分かった。2人とも違うけど、でも2人で鯉菜1人なんだろ?
ならオレは、アイツだけじゃなくて君からもオレのこと認めて貰いたいんだ。」


真面目な顔をして問う達也に、オレとリクオは顔を見合わせる。冗談のつもりでからかったのだが、まさかここで真面目モードに入るとは…。一見バカで不真面目に見える男だが、実際は誠実で情が厚く、バカ正直なのが達也の良いところなのかもしれねぇ。


「…鯉菜?」

『……アタシは…昼と同じ気持ち。』


聞こえた声にハッとして2人を見れば、鯉菜はなんと恥ずかしそうに、達也から目をそらして答えている。
……あの、夜の鯉菜が、だ。
ここ大切だからもう1度言うぞ。昼よりも感情表現が下手で、クールな、あの<夜>さんが、だ。


「チッ…父親のオレでさえあんな顔見たことねぇのに(ボソッ)」

「父さん…それ普通だから。親だからこそ見ることの出来ない顔ってあるから。(ボソッ)」


リクオ、お前何歳だ。
何でオレは子供のお前に諭されてんだ。いや、まぁ、お前ももう立派な父親だけれども。でもオレの方が父親歴長ぇぞ。


『アタシとあの子は…別だけど同じ。
だから…あの子が好きな人を私も好きになるし、あの子が嫌いな人を私も嫌いになる。』

「! ってことは…」

『でも、例外はある。』

「…れ、例外?」


夜さんが(随分と遠回しだが)告白したことでフワフワな雰囲気になりかけたものの、すぐに真面目な顔をしたため場の空気がピリッと少し張り詰める。


『もしアンタが浮気とかして<昼>を泣かせたら、アタシはアンタを許さない。絶対に。
それだけは忘れないでね。』


目を逸らさずに真っ直ぐと達也を見て、そう警告する夜の鯉菜。仮に達也が浮気をすれば、昼は勿論…きっと夜も傷付く筈だろうに。夜の優先順位ではいつだって、昼が1番なのだろう。


「…ははっ、安心しろって。
オレにはお前がいれば充分だから。他の女には興味ねぇよ。」

「そうそう。こんな世界一可愛い娘と付き合って? 他の女に? 手を出すなんてことあるはずないもんなぁ?
そう思うだろ、リクオ。」

「だね。姉さんを裏切るなんてこと、達也なら絶対しないもんね! 姉さんの涙1つで、奴良組がいつ・どこにでも行くの…達也ならちゃあ〜んと、知ってるもんね!」

「お、おう…勿論だせ! あは、あははは…はは!」

『……(殺気が…)。』


達也の肩にポンと手を置くオレとリクオ。
一方、達也は暑くもないのに汗をダラダラと流している。そんな様子の達也が可笑しくて内心ぷっと笑いながらも…結局、その日は珍しくも<昼>ではなく<夜>とずっと皆で談笑したのだった。









(「ただいま、<昼>。」)
(『おかえり〜、どうだった? 直接初めて達也と話したのは。楽しめた?』)
(「…どうだった、って…見てたでしょ? ここから。」)
(『うん、見てた。…お父さんとリクオが少し怖くて達也が不憫になったわ。』)
(「…それは否定できないわね。」)




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