この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 雪麗に告白(リクオside)

心臓がバクバクと高鳴る。
手には汗が滲み出ていて、気持ち悪い。
…喉も、カラカラだ。


「それで、用事ってなに?」


静かで、綺麗な声。
やっぱり母娘だからか…同じではないけど、声が似ている。凛として、鈴のような声。


「…遠路はるばる起こし頂き有難うございます。本日は、氷麗さんとのことで御話しがございます。」


目の前にいる雪麗さんの目が、僕を捉えた。
じっと見てると吸い込まれそうになる瞳…
やっぱり、この二人は母娘だ。


「必ずや、氷麗さんを幸せにしてみせます。
なので…氷麗さんを、僕にください。」

「…………」


了承も、否定の言葉もない。
さらに悪いことに…頭を下げているため、雪麗さんの表情も分からない。


「…お母様!
私、これからもずっとリクオ様の傍に…」

「あなたは黙ってなさい。」

「お母様!?」



此度の挨拶、本当は僕と氷麗が雪麗さんを訪れる予定だった。だが、それを覆したのは雪麗さん本人。3日後に雪麗さんを訪れるはずだったのに、今日、急に彼女は奴良組にやってきたのだ。
戸惑いながらも雪麗さんを客間へと通せば…
「私に話があるんでしょう?」
そう彼女は言って、冒頭に至る。



「余所余所しいから、堅苦しいのはナシにしましょう? だからリクオちゃん…あなたの言葉を聞かせてちょうだい。」


頭を上げれば、こちらを見る細められた目。
普段おおっぴらに笑わない彼女だけど、口許を袖で隠している。…きっと優しい微笑みを浮かべているんだろう。
そして気がつけば、心臓の高鳴りはおさまっていて、手の汗もひいていた。


「…僕は、妖怪の血がたった4分の1しかありません。変化もできず、信頼を得るどころか皆を失望させていた時でも、氷麗さんは僕を信じて待っていてくれました。僕が3代目を継いでからは、いつも1番僕の近くで、僕を支えてくれていました。
人間である僕も、妖怪である時の僕も受け入れて、氷麗はいつも"奴良リクオ"として見てくれた。そんな氷麗に僕は救われてきたし、そんな氷麗を僕は好きになったんです。」

「…リクオ、さま…」

「そう…」


気が付いたらがむしゃらに話していて…我にかえって恥ずかしくなった。
…僕、何を言ったっけ…!?
変なこと言っちゃってたらどうしよう!
と焦った僕だったけど、それは杞憂なようでー


「…分かったわ。リクオちゃんの気持ちはよぉく分かった!」

「えっ!? じゃあ…!!」

「えぇ。今度は夜のリクオちゃんの気持ちを聞かせてくれる?」

「…えっ…えええっ!!?
そ、そんな、今まだ昼だから無理です!!
変化できまけん!!」


キッと鋭い目で見られるとコワイ。
何でだ。時々思うけど、何か雪麗さんって妖怪の僕にだけ厳しい気がするんだけどー!?
アワアワと慌てる僕と、雪麗さんを宥めようとする氷麗。どうしよう。どうすればいいんだ。夜まで待ってくれそうにないんだけどこの人!!
…なんて頭を抱えていれば、ノリのいい音楽が聞こえてきた。


『I have yellow〜』

「I have a boll〜」

『「Ah! 満月〜♪」』

『I have black!』

「I have a curtain!」

『「Ah! 遮光カーテン〜♪」』

『満月〜』

「遮光カーテン〜」

『「Ah! 常世の闇で、大変身!!」』


…いつから僕達の会話を聞いていたのやら。姉さんと父さんによる歌と躍りのカーニバルが開かれた。オレ達は何のネタか分かるが…普段山奥に住んでいるらしい雪麗さんからしたら、"意味不明"としか言い様がないだろう。


「ちょっ…鯉伴、鯉菜ちゃん!?
これは一体何なのよ!?」

「そ、そうですよ! いくらリクオ様が暗闇があれば変化できるとは言え、これじゃ…って…
あれぇ!?? リクオ様変化してるぅ!??」

『「さらばなり。」』

「あぁ…助かったがさっさと散れ。」


キリッとして忍者の如く去っていった姉貴と親父。
一方、氷麗は呆れたようにしており、雪麗さんは呆気にとられている。
…せっかくオレが出てきたんだ、さっきの続きをさせて貰おうか。


「雪麗さん。
昼のオレもさっき言っていたが…オレも、人間のオレと妖怪のオレで態度を変えねぇ氷麗が好きなんだ。確かに…氷麗はおっちょこちょいな時もある。先走ってミスするし、畏れをコントロールできなくて時々ご飯も凍らす。落ち込んだり泣いたり怒ったりしたかと思いきや、いつの間にかコロッと、笑ったりもする。
そんな…いつ何事にでも一生懸命に取り組んでるコイツが好きだし…そんな氷麗をオレは守りてぇ。氷麗にはオレの傍に居て欲しいし、氷麗の傍にオレは居てぇ。」

「(…リクオさま…っ…)」

「…だから雪麗さん、オレは氷麗が欲しい。
絶対に幸せにする。だからお願いします。」

「…リクオちゃん…」

「…まぁ、"ダメ"って言われた時には無理矢理氷麗を奪わせて貰うがな。」

「…はぁ?」

「ちょっ…リクオ様ぁ!? 何を言ってんですか!!」


声を潜めて「そんな事言って反対されたらどうするんだ」と怒る氷麗だがー、


「…はぁっ…本ッ当、リクオちゃんもぬらりひょんの血筋なだけあるわ。
…いいわよ、二人の結婚、認めてあげる。」

「お母様…ありがとうございます!!」

「そ、その代わり!! うちの娘を泣かしたりしたら許さないんだからね!! そんな事したら凍らして北極熊の餌にしてやるんだから!!」

「…き、気を付けます」

「お、お母様! リクオ様が凍りかけてます!!」


認めてくれたが、流石妖怪任侠一家の女。
オレの肩をぐぐっと掴むその力は何気に強いし、凍って寒い。
だが、これにて一件落着。
そう思いきやー、


『らっしゃいらっしゃいー!!』

「奴良組3代目奴良リクオの男前な名言"無理矢理氷麗を奪わせて貰う"のボイスレコーダー!!
今ならなんと…たったの500円!!」

『我が大将の記念的名言を保存したい! ネタとしてとっておきたい! これを参考に女を落としたいという人には、オススメですよ〜!!』

「いりますいります!!」

「オイラも記念に買う〜」

「…いつかのネタとして…」


…おいおいおいおい、おい!!


「何勝手に人の話を録音してんだ!! それに何勝手にそれを売ってやがんだてめぇらは!! よこせ!!」


録音データと500円を交換してるのは、言わずもがなバカ姉貴とバカ親父。スパァンと障子を開けて、バカ2匹を押さえようとするも…


「…あっ」

「おっ、よう昼リクオ!!」

『…あ、そういえば…昼リクオの名言録ってなかったからさ…リクオも言う? "無理矢理氷麗を奪わせて貰う"って。』

「言うわけないだろっ!!
てか二人とも何してんだよ!! 今すぐ消してくんない!?」


外に出れば、昼の世界。
必然的に妖怪から人間の姿へと戻ってしまった。
結婚報告に関しては一件落着したはずなのに、てんやわんやと次なる問題で騒ぐ奴良組一家。
そんな僕達を収束してのは雪麗さんだ。
僕を助けてくれるのかと思いきや、父さん達に荷担する形で収束。具体的には…


「リクオ様♪ 氷麗はあの言葉…人間のリクオ様にも言われたいです!!」

「…リクオちゃーん。ま、さ、か…氷麗を裏切るような真似なんかしないわよねぇ?」


氷麗本人によるお願い。
そしてその母からの牽制という名の命令。
こんなのに僕が逆らえる筈もなく…ギブアップした僕によってこの騒ぎも収束したのだ。

そしてこの夜、
僕達の結婚が本格的に決まったことに乾杯し…
数日後に、氷麗との祝言を行ったのである。




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