この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 娘さんをボクにください!!(達也side)

ぽかぽかと晴れた春日より。
気持ちのいい日光を浴びながら、オレが今向かっている先は鯉菜の家。


『悪いわね、荷物持たせちゃって…』

「こんぐらいどうってこたァねぇよ。」


鯉菜の家に向かっている途中、同じく買い物帰りの鯉菜に出会ったのだ。そして今、鯉菜の持っていた買い物袋をオレが持ち運んでいるのだが…


「(重ぇ…!!)」


彼女の家には沢山の人(妖怪)が住んでいる。そのため食材の量が半端なく、とてつもなく買い物袋が重い。だが、男としてここでギブアップするわけにはいかねぇ…!!
そんな男のプライドのために一人格闘しているオレに、救いの声が聞こえてくる。


『あ、青だ! 青〜! 悪いけど買い物袋を台所まで運んでくれなーい!?』 

「お嬢、お帰りなせェ!!」


力持ちの青田坊だ。
オレ達の持つ買い物袋に気付き、青は慌ててコチラに駆け付ける。そしてオレから荷物を受け取り、驚いたような顔をして一言…


「…達也、オメェ…頑張ったな。」

「こんな重いもん彼女に持たせちゃあ男の名が廃るわ…」

『…別に私は気にしないのに。』


お前が気にしなくてもオレは気にするんだよぉぉお!!
そんなオレの心境を察してか、青田坊が「本当によく頑張った…!! お前は男だっ!!」と背中をバンバン叩いてくる。
ここ重要だからもう一度言うぞ?
背中をポンポンじゃなくて、バンバンだ。
あんな怪力バカに力強く背中を叩かれちゃあ…


『…大丈夫?』

「…無理かも…」


めちゃくちゃ痛いわけで、そんなオレの背中を摩ってくれるオレの女神にマジ感謝!!
…ってアレ? 痛み消えるの早過ぎね?
 

「…あーッ!! お前今治癒の力使ったろ!!」

『気のせいよ。』

「気のせいじゃねぇ! そんなポンポン使うなって、具合悪くなったらどうするんだよ。」

『そん時は介護よろしくね。』

「お前なぁ…」


ちょっとした事に治癒の力を使って欲しくないのだが…でもコイツに何を言っても無駄なことはわかっている。それに、自分の為に使ってくれたのだと思うとやはり強くは言えない。

 
「…サンキュ。」

『どいたまー。』


…軽っ!!
ケロッとして言う鯉菜に、心配しているオレがなんとなくアホみたいに感じる。お願いだから自分をもっと大切にしてくれ、鯉菜!!
そんなオレの切実な願いに彼女が気付くわけもなく、家に入り、2人して居間へと向かう。


「おぅ、お帰り。」

「なんでィ、達也も一緒かい。」

「いらっしゃい、達也さん。」


上から順に、ぬらりひょんさん、鯉伴、リクオ君だ。どうやら今はティータイムのようで、お煎餅をバリボリ食いながら皆お茶を飲んでいる。


『いやぁ…今日も平和ですなぁ。
あ、私お茶淹れてくるから。達也はここで待ってて。』

「あー、その前にちょっといいか? 話があるんだけど。」

『…話? じゃあ場所変える?』

「いや、ここでいい。」


台所へ向かおうとする鯉菜を止めるオレ。そんなオレに、鯉菜だけでなくここにいる皆も不思議そうな顔をする。
きょとん顔の鯉菜にオレの隣に座るように促し、次いで向かい側に座るぬらりひょんさんと鯉伴を見れば…


「…ワシらにも関係ある話かい?」 

「なんならオレ達は退こうか? 不満だが。」 

「父さん、心の声が漏れてるよ。」


気を遣ってか、退散した方がいいかと聞いてくる2人。ちなみに鯉伴にツッコミしたリクオ君、ナイスだ! つぅかオレ達と向かい側にいる鯉伴達との間にいるリクオ君は…何だか仲介人みたいだな。


「いえ…皆様もご一緒にお話を聞いてください。」


オレの言葉に、シン…と静まり返る居間。
真面目な顔をするオレに、流石の皆も真剣に耳を傾ける。
…自分の心臓の鼓動がまる聞こえなのではないか。そう思わざるを得ないほど、今オレの心臓は激しく脈打っている。
この緊張を落ち着かせるように大きく息を吸い、そして…



「ぬらりひょんさん、鯉伴さん、リクオ君…
奴良鯉菜さんを、オレにください!!」

『…え…?』

「おぉっ…!?」

「………あ"?」

「………」



実を言うと、
この話をする事は鯉菜にも鯉伴達にも、誰にも言っていない。その為、皆がこんなにも驚くのは無理はない…のだが…


「(何この空気…!! 誰か助けて!!)」


オレの右隣の鯉菜は顔を赤くして固まっている為、戦闘不能。オレの左隣のリクオ君は、有る人物を横目で見ながら様子見している。オレの向かい側のぬらりひょんさんはニヤニヤとしている。

…問題はー


「…それは…何だ、どういう意味だい?」


怖ェェえええええええええ!!!!!!
何この人、超怖ェェえええ!!!!!!
オーラが真っ黒で前髪で目が見えないんですけど…!! あれ!? てか目ェ光ってね!? オレ殺されんの!?


「り、鯉菜さんと結婚したいのでっ、娘さんをボクにください!! お願いします、お義父さん!!」

「誰がお義父さんだ…あ"ぁ?」

「やばいやばいよ…ちょっ、皆ー!! 父さんを止めて!! てか達也さんは逃げてっ!!」

「え!? リクオ君、愛の逃避行ってこと!?」

「んなロマンティックなもんじゃないから!! 死にたいの!?」

「カッカッカッ!! こりゃあ面白いのう!!
最近は暇で暇で退屈じゃったんじゃ…おい、てめーら! 鯉伴の暴走を止めるぞ!!」

「じいちゃんは何を楽しんでるの!? てか姉さんもいつまでフリーズしてんのさ!! 早く達也さん連れてかないと…
っウワァァアアアアア!!!!」


…ナニコレ怖い。今までで1番怖い。妖怪に襲われるのよりも怖い。
どうするべきなんだ!? 逃げるべきなのか…いや、でも逃げたらダメなような気もする!! オレはどうしたらいいんだ!!

暴れる鯉伴によってドンドン増える負傷者。次いで壊れてゆく建物。それらをアワアワと見ていれば、ようやく覚醒した鯉菜がオレに問いかける。


『達也…本気なの?』

「…あぁ、本気だ。
もうお前が隣にいない未来なんて考えらんねぇ。」


そう答えるものの、鯉菜の表情はいまいちパッとしない。
…全く、用心深いのか人間不信なのか…。
破壊音と悲鳴の声がBGMなんて…なんてムードがないんだ! そう内心思いながらも、オレはゆっくりと口を開く。


「オレはお前ほど強くないし、お前を護るどころかお前に護られる事の方が多いかもしれない。でも、オレはお前がそんなに強くないのも知ってる。強がってるけど、本当は…傷付きやすいのも知ってる。だから…オレはお前がもう傷つかないように、お前を守りたい。」


最後に「きっとお前を幸せにするから…結婚してください。」と付け加えれば、ピクリと鯉菜の眉が動く。


『…きっと幸せにするから、か…。』

「…いや、絶対幸せにします…!!」 

『却下。』

「…ッ」


もしやコレは…振られたのか?
絶望的な想いに陥りかけていれば、不意にパンとオレの両頬が挟まれる。痛い。
挟んだのは鯉菜の温かい両手で、オレの両頬に手を添えたまま、彼女は口を開く。


『…一方的に幸せにされても、私は嬉しくとも何ともないわ。
ねぇ、達也…
達也は私と一緒にいる時、幸せ?』


首を傾げながらも、やや不安そうに聞いてくる鯉菜。彼女の言葉に、ようやく何が却下なのかが分かった。


「あぁ、幸せだ。
オレはお前が隣にいてくれるだけで幸せだ。
だから、一緒に幸せになろう?」


オレも鯉菜の両頬に手を添えて言うと、頬を染めてゆっくりと頷く彼女。小さな声で『はい』と返事をする鯉菜に、安心と喜びがオレの中で満ち溢れる。
ーだが、今の状況を忘れてはならない。 


「おい、イチャつくのは後にしやがれこのバカ夫婦!!」

「オレ達が2代目を止めるんで、お2人は今は避難を!!」

「2代目が落ち着いたらまたご連絡します!!」


いつの間にやら夜の姿に変化したらリクオ君、次いで首無君や毛倡妓さん達が、早く逃げろと促してくる。その様子に、「どうする?」と隣に立つ鯉菜に視線を向ければ…


『達也も頑張ってくれたことだし…今度は私の番かな! お父さんに結婚報告してきます♪』

「え…大丈夫なのか? 危なくね?」

『大丈夫大丈夫!
つぅか、あの親馬鹿鯉伴を止められるのは私とお母さんしかいないっしょ!!』


そうウィンクをして答える鯉菜に、『達也はお母さんに結婚報告して来て〜』と依頼される。
なんというか…


「…これぞ任侠一家の結婚報告、か?」


後ろで鯉伴と攻防戦している激しい音を聞きながら、オレは苦笑いしながら台所へ向かう。
これからもっと楽しくなりそうな生活に、オレの心は浮き立つのだった。









(「あ、若菜さん! オレ…」)
(「達也君! 鯉菜と結婚するんですって!? おめでとう、うちの娘をよろしくね♪」)
(「え…あ、はい、もう知ってたんですね…」)
(「ふふっ、あの人の声がここまで聞こえてくるんですもの! 鯉菜は誰にもやらん、ですって! 頑張ってね、達也君♪」)
(「はは…頑張ります」)




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