この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ とあるカップルのファーストキス(氷麗side)

最近、リクオ様の様子が変だ。



「リクオ様…あの、その〜……」

「んー?」

「……そ、そんなに見つめられると……
緊張しますのでござりまするが……!!」

「……ぇっ……あ、えーっ!
ご、ごめん! ちょっとボーッとしてて…!!
悪気は全くないのでござる!!」

「落ち着けお前ら。」



気がつけばボーッとしてるし、しかも私の方をボーッとして見てるから少し不安になります。
私…また何かやらかしちゃった!?
見覚えないだけで、実を言うとリクオ様にご迷惑かけて呆れられてるとか!?

そんなネガティブ思考に陥っている私に、偶然傍を通りかかった2代目は(怪し気な)爽やか笑顔で「心配すんな、コイツも思春期なんだよ」と謎のお言葉を残していった。
意味分かりません…もう少し分かりやすい助言をして下さいよー!!
しかし、そんな声なき心の叫びは届くはずもなく、私はもっと深い謎に呑み込まれることとなる。


「ねぇ氷麗」

「は、はいっ!」

「…ファーストキスの時のこと、覚えてる?」

「はいっ!
…………ぇ、ぇえっ!? お、覚えてますけど、勿論、な、何でですか急にぃっ!!?」


私とリクオ様のファーストキス。
あれは衝撃でした…色んな意味で!
リクオ様から愛の告白を受け…リクオ様をお慕いしていた私は勿論泣いて喜びながら、そのお気持ちにお応えしたのです。
「これからも…よろしくお願いします。」
なんて言えば、リクオ様に抱擁されて私はもうこの上なく幸せ大絶頂でしたとも!!
けれどその直後、
「やっとこれでお前はオレのもんになったな。」
といつの間にやら覚醒した夜の…夜の(2回目)リクオ様が私に熱い視線を向けたのです!!
しかもその後……!!


「〜〜〜ッッ」

「(顔真っ赤…可愛い……)
…氷麗…また思い出してるの?」


き、キス…!!
キスを、口づけを…接吻を……!!
あの甘い台詞の直後にされたんです…
もうどれだけ恥ずかしくて死にそうだったか…嬉しかったけれども。


「……あの時は…危うく死にかけたなぁ、アハハ」

「すすすすみません〜!!」


そう…。
私は恥ずかしさのあまり、リクオ様を氷像に変えてしまっていたのです。キスされたと自覚した次の瞬間にはもう、リクオ様は氷のオブジェへと成り果てていました。見事に。

本当、色んな意味でいつ思い出しても恥ずかしい…!
それにしても何故急にこの話を……?
そんな私の考えていることをまるで見透かしているのか……リクオ様は困ったような笑顔を浮かべて、ゆっくりと、ゆっくりと話し出した。


「変…だよね……。
夜のボクも、今のボクも、どっちもボクなのにさ。夜のボクが…アイツが氷麗に触れてるのを見ると、胸が苦しくなるんだ。」

「リクオ…様…?」

「アイツと比べたらボクは…人間だから強くないし、男気もないかもしれない。アイツは皆を畏れさせて、ボクでも羨ましいと思う時が何回もある。」

「…………」

「でも、アイツもだけど、ボクだって氷麗が好きなんだ! 
……いや、気持ちだけならアイツにも負けない。そのくらいボクにとって氷麗は大事だし、なくちゃならない存在なんだ!!」


あぁ……そっか。
そうだったんですね、リクオ様…。
私は自分のことばっかり、あなたのことがちゃんと見えていませんでした…。


「そんな氷麗だからちゃんと大事にしたいし…あまり困らせるようなことも、焦らせるようなこともしたくない。
…でも……、アイツばかり……ズルい。
ボクだって……氷麗ともっと一緒にいたいし、氷麗の声を聞きたい……。氷麗に…触れたいッ……。」


確かにあの時、私を好きだと言ったのはあなたでした。でも夜のお姿になられ、最初に口づけを交わしたのは夜のリクオ様。その後も何度か口づけを交わしましたが、それも全て、夜のリクオ様でしたね。
……昼のリクオ様とはまだ一度もキスをしていないのに。
私はその事に気付かず、リクオ様はひとり…その事で思い悩んでいたのですね?



「リクオ様…」

「……ごめん……。
み、みっともないよね! アハハ、何言ってんだろうボク。勝手に妬いていじけて…しかも相手は自分だってのに! ごめん、さっきの忘れ……」

「リクオ様!」

「え…………ンむっ!??」



リクオ様の苦しみに気づいてあげられなかった自分に腹が立つし、情けなく感じる。
リクオ様がご自身に妬いているその姿が、いじらしく感じる。
私はリクオ様にこんなにも愛されてるんだって…。
だから私も、伝えなければなりません。


「…ッ、リクオ様……氷麗は今、とても幸せです。」

「……氷麗、」

「気づいてあげられずにすみませんでした…。
でも、リクオ様が私を愛してくれてるように、私もリクオ様を言い表せられないくらいお慕いしています。」

「…うん……」

「だ、だから、こんな伝え方しかできなくて申し訳ないですけど……でも本当に私は、昼夜関係なく、リクオ様をお慕いしてますので、その……」


勢いでしてしまったけれど、段々と恥ずかしくなってきて声も小さくなってしまう。
でもリクオ様には私の想いがきっと通じてくれたのでしょう…


「うん……ありがとう、氷麗。
氷麗の気持ち、よ〜く伝わったよ。
だって氷麗からボクにキスしてくれたのって…初めてだもんね!」

「く、口に出して言わないでくださいー!!」


夜のリクオ様とは何度も口づけを交わしたけれど、昼のリクオ様とは今日が初めて。
でも…私から口づけをしたのは、昼のリクオ様が初めてです。こればっかりは、夜のリクオ様にもまだしていません。


「ありがとう、氷麗。」

「いえ…こちらこそ、ありがとうございます、リクオ様。」


顔を合わせれば、お互いに自然と緩む頬。
夕焼けに作り出された2人の影は、今度はどちらともなく重なり合ったのだった。











*******
おまけ
「……へっ!? い、いつの間に夜のお姿に!??」

「ん? 
昼のオレと熱い口づけを交わした後だが?(ニヤニヤ)」

「なっ、そっ、ええーっ!!?」

「……で?
オレには氷麗の方からキスしてくれねーのかぃ。」

「す、すすす、すみません今日はもう閉店ですうぅぅー!!」




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