この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 嫉妬

達也が大学1年の時、私達は晴れて恋人同士という関係になった。
私はその時奴良組3代目補佐としての仕事したり、趣味で着物や染色について勉強していた。一方の達也は大学で授業を受けたりサークル活動に励んだりしていたのだと思う。
ここで『思う』って言うのは…当たり前だけど、私が達也の学校生活を知らないから。私は達也と同じ○○大学に行ってないため、達也がいつ、どこで、誰と何をしているかなんて知らないのだ。

いや…知ろうとしなかった、というのが正しい。
知ってしまったら、私の中で何かが変わりそうだから。

それでもー


「おーい、2次会行く人ー!?」

「行く行くー!!」

「はいはーい!!」

「ねぇ、達也君も行くでしょー?」

「行こうよー、もっと達也ンと話したーい!」

「え〜しょうがねぇなーっ! 行くぞー!」

「「キャーッ」」

『…………。』


こうやって知ってしまった私は…
一体どうすればいいのでしょうか。






「で、姉さんはヤキモチ妬いてるってことか。」

『……んー、微妙……。』

「え…ヤキモチじゃないなら何なのさ。」

『…………それは…』


今、私はリクオと話している。
昨夜見回りをしていれば、偶然にも飲み会をやっている達也を発見。何となく嫌な気分に陥って帰宅して寝たものの、起きてからも気分は一新せず。そんな私にリクオが気付かないはずもなく、結局私は今暇そうにしてるリクオに相談しているのだ。


『……昨日の夜、達也が飲み会でリア充してた。』

「姉さんは引きこもり予備軍のインドア派だもんね。」

『…………人気者になるだろうことは今までの学生ライフから予想してたけど、本当にキャピキャピ女子から言い寄られてた。』

「なんだ、やっぱ嫉妬じゃん。」

『…えー…でもそれは………
達也のあの顔とキャラからして、そうなるだろうなって覚悟してたもん。』


分かってても嫉妬したってことでしょ、と言うリクオに私は何だかモヤモヤする。何かスッキリしない。点数つけると60点って感じ。
そんなことを話していると、背後に人の気配がした。ついでガラッとひかれた戸に後ろを振り返ってみれば、そこにいたのはお父さんと達也。達也はどうやら大学帰りなようだ。


「まっ、そういう話は本人としかと相談するもんだぜ。実際ここにコイツいるんだし。」

「いるんだしって、父さんが連れてきたんでしょ? いらっしゃい、達也さん。」

『……いつからいたのよ。』

「えーっと…ヤキモチ妬いてるってことかってところ。」

『……最早最初からじゃん。』


ジロッとお父さんと達也を睨み付ければ、お父さんは口笛を吹きながらどこ吹く風。そんなお父さんを見て、達也は苦笑いながら「少し話そうぜ」と私の手を引いた。
さっきの聞かれてたのだと思うと恥ずかしいような腹立つような…てか何の話してたんだっけ。

ぼーっとしてる間に着いたのは家の近くの公園で、人がいなくて静かな中、私達はベンチに並んで座る。


「………昨日、見てたんだ?」

『…夜の見回りしてたら、偶然。2次会に行くところの達也達を見かけて…そのまま帰った。』

「声かけてくれれば良かったのに。」

『私、夜の姿だったから。』

「ふぅーん…?」


本当かよ〜怪しいなぁという目でこちらを見る達也に、『なによ』とひと睨みすれば頭をポンポンされた。本当に何なんだコイツは。しかも若干口元が緩んでる気がして腹立たしい。
そんな私の苛つきを察したのか、慌てて小走りで自販機のもとへ行く達也。ガタンゴトンと2回音をさせて持って帰ってきた物は2つのぶどうジュースで…それを開けて飲みながら話を続けた。


『……私さ…自分で思ってたよりも、意外と面倒くさい女だったわ。』

「それはまぁ…うん…そうだろうな。」

『殴られたいの?』

「……殴った後に言うなよ。」

『…………昨日の女の子達に嫉妬したって言うよりも、何か現実を思い知らされた気がした。』

「現実?」

『そ、現実。私は見た目は達也と対して変わんないかもしれないけれど…実際中身はだいたい60くらいの婆さんだし。』

「……いや、それ前世の分入ってるよね。それ言うならオレだって中身はだいたい50くらいだろうし。」


梅雨が明けたばかりのこの季節は少しじめじめとしてて暑い。まだ蝉が鳴いてないのがせめてもの救いだけど、ベンチに座る私達の顔からは少しずつ汗がにじみ出ている。


『……それでも、達也は今を生きてるじゃない。
私やリクオや、他の妖怪達は…あまり大っぴらに外を歩けないもの。カナちゃん達のように私達の正体を知ってる者なら問題ないけれど、他の近所からしたら「あそこのお子さん達…もう何十年経ってるのに老けないのよ。不気味だわ。」ってなるの。
私達の事を知ってる人がいなくなれば、また堂々として表に出られるけど…それまでは陰に隠れて過ごさなくちゃならないわけ。』

「…………。」

『だから…何というか、上手く言えないけど…悔しい。私は家と習い事とかだけの世界だけど、達也は違うじゃない? 大学で勉強して、サークル活動して、バイトして……そんな色んな達也の事を他の子は見られる。しかも、そんな事を達也と一緒に経験できるんだよ。
……私にはできないことを、他の子は楽々とやってみせるんだよ。それが……気に食わない…かも。』

「……鯉菜……」


自分でもよく分からない。こんな当たり前のこと分かっていたことだし、そんなことにまさか自分が動揺するだなんて思いもしなかった。
でも私が<限られた>達也しか知ることができないのに対して、他の子達は私の知らない沢山の達也を知ることができるんだ。そう思うと…達也と付き合ってるのは私な筈なのに、誰かも知らない女の子に負けているような気がする。だから…モヤモヤする。


「……ははっ、なーんだ。そーゆーことかー。」

『………くだらねぇ話で悪かったわねーっだ。』

「え〜誰もそんな事言ってねーじゃん。むしろオレ嬉しいよ、お前にもオレに対する独占欲があったんだって。
オレさ、学校のこととか昔からよくお前に話しただろ? あれ…お前を楽しませようっていうのもあるけど、お前にヤキモチ妬かせようってつもりで話してたんだぜ?」

『…………ハァ??』

「いや、だから! オレよくお前ん家に行くけど、お前は皆のこと信用してっから…オレが毛倡妓さんや他の女妖怪と話してても全っっくヤキモチ妬かねぇじゃん。オレはそれが……その、つまんなくて…だから学校でモテて気を引こうとしたりしたわけよ。」

『……(こいつ計算してたんかい)』

「でもまぁ、ある意味成功、だな!」

『何が成功よっ!!』

「あいてっ!!」


空になったペットボトルでポカンと達也の頭を叩く。そして達也は私の頭をペットボトルで叩き返すわけで、しばらくはポカポカといい音が公園で鳴り響いた。

その日以来、
「受講人数の多い授業だったら紛れ込んでもバレねぇぞ」という達也の誘い話にのって、私は時々達也と一緒に大学で授業を受けることになるのだが…




「あれ、達也じゃん。おーっす。」

「……ん、隣の美女は誰だ!? ちょ、オレと連絡先交換しようぜ!!」

『初めまして! 奴良鯉菜と言います。
よろし……』

「ダーーーーッッ!! 
散れお前ら! こいつはオレの彼女なんだから、気安く呼ぶな、触るな、連絡先聞くな!!
ってか鯉菜もアッサリ連絡先教えるな!!」

『フフッ…分かってるって!』


時々大学ライフに紛れ込んで楽しむ私とは反対に、達也は私を呼んだことで「嫉妬させるどころか自分が嫉妬させられることになった」と後に語ったという…。




***********

「なぁリクオ君……
鯉菜に嫉妬させようという悪戯心で、オレあいつを大学の講義に誘ったんだけどさ…」

「うん……」

「何かオレが逆に嫉妬する羽目になってんだけど、どうして?」

「…さぁ、何でだろうねぇ…。頑張って。
(それきっと姉さんの仕返しだろうな…)」




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