この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ とあるカップルの初デート(リクオside)

「リクオ様!」

「…何? 氷麗。
こんな夜遅くにどうしたの?」

「で、ででで、デートして下さい! 私と!!」

「デート?」


氷麗と付き合い始めて3か月。
(恥ずかしくて)暑い…(恥ずかしくて)溶けそうと言いながら僕にお願いしてきたことは、初デートのことだった。
そしてふと気付く。
氷麗と付き合い始めたものの…僕と氷麗は同じ奴良組の家に住んでいるため、デートのようにカップルらしきことなど未だにしていなかった。毎日顔を見合わせるし、何処に行くにしても大抵は一緒に居る。だからわざわざ何処かへ2人で行くような…そんなデートっぽいことはしたことないし、する必要性も感じていなかったのだ。
でも、氷麗は違ったのかもしれない…。


「うん、いいよ。何処に行きたい?」

「ほ、本当ですかっ!? 何処に行きましょう!!」

「え…何処にって…行きたいところ決まってんじゃないの?」

「いえ…ただリクオ様と2人っきりでプライベートのお出かけをしてみたかったんです!
…迷惑…でしたか?」

「ええっ!? そ、そんな迷惑なわけないよ!! 必ず行こう!!」

「本当ですかっ、ありがとうございます!!」


結局、今週の日曜日に2人で出掛けることを約束し、場所はおいおい決めることにしてた。
にしても…日曜日って明後日じゃん。随分と急だな。何処に行くのがいいのか全く見当がつかない。


「そうだ、母さんに聞…いや駄目だ。父さんにバレたら面倒なことになる。毛倡妓は…うん…デートどころかそれ以上の計画を立ててきそう。男共は頼りないし…」


ここはやっぱり…


「恩着せがましいけど、姉さんに聞いてみようかな。」


そうと決まれば口止め料としてハーゲンダッチを持って行かないと。

そんなわけで場所を移しー


「姉さん、入るよ?」

『ん、いいよ。』


姉さんの部屋へ入れば、眼鏡をかけてパソコンをカタカタと打ち込んでいる姉がいた。そして何か用と問う姉に、氷麗とデートに行くことになったことを告げ、取り敢えず何処に行けばいいのか助言を求めた。


「動物園とか…どうかな?」

『…世の中の女子力高い女子がどう思うのかは知らないけど、私としては動物園は却下。夏だから暑いし臭いし、何より幽閉されて自由のない退屈そうにしてる動物を見て何が楽しいのよ。』

「世界中の動物園を敵に回すような発言だね。じゃあ遊園地とかは? ディパニーランドとか。」

『あのね…今は夏の時期で、氷麗は雪女! アトラクションは外で並ぶことが多いのに、あんた氷麗が炎天下の中、何時間も並べると思う? 彼女を中心に雪国が急に建国されるわ。
てかミッチーとかミミーちゃんに楽しませて貰おうだなんて思うなよ。彼氏なんだからテメェで氷麗を楽しませろ。あのネズミ共は敵だ。』

「……じゃあ兄さんなら何処に連れてって欲しいのさ。」

『誰が兄さんだ。別に私は何処でもいい。』

「姉さん? それだと『何でもいい』って言っておきながら後で難癖つけてくる質悪い女だよ?」

『…じゃあ水族館はどうよ。
館内だからそこまで暑いことないだろうし、綺麗じゃん。雰囲気あるし。』


水族館…か。
確かに水族館なら暑くないし、結構楽しめるし、良いかもしれない。うん…それでいこうかな。
たまには姉さんも頼りになる。
お礼を言って部屋を出る際、『白熊とペンギンベストショットで撮ってきてね』と言われたけど…別に自分が水族館行きたかったから勧めたんじゃないよね! そうだよね!


そして、なんやかんやでデート当日。
姉さんのアドバイス通り水族館へ行くことになり、僕達は今館内を歩き回っている。


「わぁ〜っ!
綺麗なお魚がいっぱいですね、リクオ様!!」

「そうだね、見たことない魚も沢山いる。」


水族館までの道中、既に暑くて溶けそうと言っていたから館内でのデートは正解だったかもしれない。


「わっ リクオ様! 見てくださいアレ! 鮫ですよ、大っきいですね〜!!」

「へぇ〜…鮫ってあんなに種類あるんだ…」

「…あ! あそこ! イルカショーがやってるみたいですよ!? 行きましょう!!」

「うわぁっ!?」


手を掴まれて引っ張られるまま氷麗へと着いていく。芸をしてみせるイルカを見る度に嬉しそうな笑顔を見せる氷麗は、雪女なのにも関わらず僕の心を温めてくれる。作ったような笑顔じゃなくて、本当に屈託なく笑うから、僕もつられて笑顔になってしまう。
でもまぁー


「えっ!? 何コレ…人面魚!?」

「どれどれ…って、ああぁっ!!?
氷麗! また凍ってる凍ってる!!」

「ひぃっ!? す、すみませんー!!」


まさか壁?…というか水槽?に触れる度に、無意識のうちパキパキと凍らしていくのには流石に驚かされたけど。周りの人達が見ていないのと、魚たちが凍らされなかったのが不幸中の幸いと言ったところかな…。

氷麗の手を触れても、通常は凍ったりしない。手はひんやりして冷たいけど。ただ氷麗曰く、「興奮して畏れのコントロールが上手くできなかったのと、あと水槽の壁1枚を隔てて冷たい水があるので…つい?」というあやふやな訳で凍らしてしまったらしい。
…にしても氷麗が食べてるアイス美味しそうだな。やっぱり僕もさっき一緒に買えばよかった。


「…氷麗、それひと口ちょーだい。」

「へ? あ、はいっ!
(…ハッ!? これはもしや…間接キス…!!)」


…前言撤回。
やっぱりさっきアイスを買わなくてよかった。


「間接キス…だね?」

「な、ななな…リクオ様あぁぁっ!!!??」


ニヤッとして言えば、期待通りな反応をくれる氷麗。氷麗ほど分かりやすい人(妖怪)だと、ついついいじりたくなってしまう。
…拗ねてしまうからやり過ぎ注意だけれど。

そんなこんなで水族館デートを終えた今、僕達は家への道を2人並んで歩いている。


「リクオ様! 今日はありがとうございました!」

「いや、こっちこそありがとう。氷麗が誘ってくれなかったら水族館に行こうだなんて思わなかっただろうし…それにこうやって氷麗と楽しく過ごせたしね。」


少し前までは夕日があって明るかったのに、今ではもう日は落ちていて暗い。そして暗闇になれば、聞こえてくるアイツの声。


 ーおい、いつまで氷麗を独占してんだ。お前はもう充分楽しんだだろ…オレと変われ。

「(やだよ、君はいつも夜になったら氷麗を独占するじゃないか…)」

ーそれはお前も一緒だろ。日中はいつも独占してんじゃねぇか。

「(…今日は僕が氷麗をまるまる一日、独り占めする。)」

ーざけんな!


毎度毎度、夜になったら待ってましたと言わんばかりに出てくる妖怪の僕。だからいつも逢魔が時を過ぎると、昼の僕は氷麗と一緒にいることができない。でもそれは向こうにとっても同じでー


ーさっさと退け。

「(あぁっ!? ちょ、ちょっとー!?)」

「リクオ様?
…って、ええっ!? い、いつの間に夜のお姿に!」

「…たった今だ。
(こっからはオレの時間だ…お前はゆっっっくり朝まで休んどきな。)」

ー…氷麗をあまりいじめすぎないでよ。次の朝僕が大変になるんだから!

「(へいへい。)
…腹減った。帰るぞ氷麗。」

「きゃっ…な、わ、若ぁ〜っ!!?
(若にお姫様だっこされてるーっっ!??)」


ぶっちゃけそこまで腹減ってない。
だが、一刻も早く氷麗とのんびり過ごしてぇ。それに…


「あ…リクオ様! お空見てくださいっ、星が凄く綺麗ですよ!?」

「…ククッ…そうだな。」

「ちょっと…何で今笑ったんですか!」

「別に。」


恥ずかしがったり、笑ったりするこいつの笑顔を間近で見られるからな。(雪女だから)少し冷てぇが、抱えて行った方が得だ。


「氷麗」

「はい?」

「今日はデートなんだろ…
帰ったらちゃんとオレの相手しろよ?」

「へっ…? え、えええっ!!?
(相手って…な、何の相手ですかリクオ様!!)」


「相手をする」と言う言葉に色々と考えてるのだろう…百面相をしている氷麗を見て、ぶっと吹き出しそうになるのを何とか耐えながらオレは足を進めた。
この後…
ニヤニヤしているオレへ「もしかして…からかってます!?」と半泣き×上目遣いで迫ってきた氷麗にオレがムラッときたのはまた別の話だ。





おまけ

次の日
『リクオ、白熊とペンギンは?』

「あ……(忘れてた)」

『………………チッ、使えねぇ弟だ。』

「自分で行きなよ!!」


おまけ2
翌朝
「……つ、氷麗……?」

「…………………………………………何ですか。」

「(ひぃーっ寒いー!!)
や、やっぱり怒ってる………よね?」

「疑問系ですかぁ〜!?」

「ご、ごごごごめん!! その…夜の僕が…何かしたようで………」

「………なにか、したようでぇ〜?」

「ほ、本当ごめん! 昨日はその…お酒を飲み過ぎたみたいで覚えてないんだ、本当にごめん!!」

「覚えて…ない…!!
(2代目や初代がいる前でスキンシップしたのに!? それで恥ずかしがってる私を見て…更にからかってきてのに!??)」

「(うわぁ〜何やったんだよアイツー!!
今はぐったり死んだように眠ってるし!! 氷麗はカンカンに怒って寒いし!!)
………ヒッ…あの…その、氷麗…??」

「………妖怪任侠奴良組3代目、奴良リクオ様…」

「………ぅ、……はい…(嫌な予感…)」

「恐れながら、側近としてこの氷麗が申し上げます。……しばらく反省なさいっ!!」

ビュオオオオオオオ

「わ、わああぁぁっ!!!? さ、寒、い……っ…」

カキーン

「ふんっ」

「(…せ、雪麗に似てきたのぅ……)」
↑通りすがりのぬら爺




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