この手に掴んだ幸せを(短編) | ナノ

▽ 妊娠しました。

「おめでとうございます! 妊娠されてますよ!!」

『まじでか。』


産婦人科なう。
最近どうもイライラするし、体の調子がおかしいうえに生理が来ないため、『もしや…』と思い産婦人科に来た鯉菜です。
心拍はまだ確認されてないようだけれど、でもどうやら今私のお腹の中には小さな命が宿っているらしい。


『…赤ちゃん…』

「安定期に入る迄は安静にして下さいね。それから、今度から定期検診で…」


目の前の医者の話を聞くものの、半分は上の空。何だか妊娠したことに実感が湧かなくて、不思議な気分だ。
そんなこんなで(あまり話を聞いてなかったけれど)医者の話は終わり、寄り道もせずにボーッとした頭で帰路につく。

今日は土曜日だ。
達也も仕事がなくて今は家にいる。
…妊娠したことを早速報告するべきだろうか。それとも安定期に入ってから?


『うーん………
何か考えるの面倒になってきた。今日ぶっちゃけるか。
…となると、お酒好きな皆の事だから絶対宴になるなぁ。これまた面倒!』


独り言を呟きながらもそう結論付け、ようやく着いた奴良組本家。偶然出会ったリクオに、『今宵は宴よ』と告げれば「は?」と返された。「は?」じゃないよ、全く。お前は何年私の弟をやってると思ってるんだ。


『今宵は宴を開くから、大広間に皆を集めてねって言ってんの。姉の意図くらい汲み取っておくれよ3代目兼、弟よ。』

「それは分かってるよ!
僕が聞きたいのは何のお祝いかってこと。姉さんこそ僕の意図くらい汲み取ってよね、3代目補佐なんだから。」


私の弟が年々捻くれていくような気がするのは気のせいだろうか。
ボソッと『可愛くねー』と舌打ちして言えば、ニコニコと微笑みながらこめかみをグリグリしてくるリクオ。痛いからやめろバカヤロー。

結局、

宴の理由を伝えずに、取り敢えず皆に集まってもらった大広間。お酒好きな皆の顔には「酒」という文字でいっぱいで、宴の理由なんかどうでも良さ気である。


『…このアル中妖怪共が。』

「何を言ってんじゃぃ。それより早く話を済ませんか!」


宴を開けと言ったのは私。
それ即ち、乾杯の音頭も私だ。要は、皆お酒を片手に私の話が終わるのが今か今かと待っているのだ。まだ話し始めてもいないのに。

壇上にいつもいるのは3代目のリクオだが、今日は私が主催な為に壇上に立つ。皆の視線が痛いほど集まる中、スッと息を吸って言葉を放つ。



『まだ安定期に入ってないし、鼓動も確認されてないけど、取り敢えず妊娠しました。
乾杯!!』

「「「「乾杯!!!!」」」」



一斉にワーッと盛り上がる大広間。
ワイワイと騒ぎながらお酒を飲んでいる皆だが…それも徐々に静まっていく。


『………どした?』


本当は静まった理由を分かっている。だが、こちらを目を丸くして見る皆にワザと惚けてみせた。


「今…なんと?」

『どした?』

「その前!」

『乾杯!!』

「もっと前です! 音頭、何て言いました!?」


身を乗り出してそう次々に聞いてくる皆に、ニヤッと一瞬笑ってみせる。
そして、


『妊娠しました。』


その言葉に動きが止まる全員。
1番に意識を取り戻したのはお母さんで、「きゃあ♪遂に鯉菜ちゃんに赤ちゃんができたのねー!! おめでとう! ちょっと待ってね、今からご馳走もっと持ってくるから☆」とまくしたててノリノリで台所で去っていった。
それに続き、毛倡妓と雪女もきゃいきゃいと喜びながらお母さんの後を追う。


「…は! いかんいかん、ワシとしたことが意識が飛びかけておった。それより鯉菜、おめでとう!」

「…姉貴、いい母親になれよ。」

『じいちゃんありがとう。
そしてリクオは何を上から目線で言ってるんだ。』

「それより、あの二人はいいのか?」

『……あの二人、ねぇ…。』


夜リクオが指差す先には、未だ固まっているお父さんと達也。
どうしたものかと近寄れば…


「鯉菜…」
「……お前、」


歩み寄る私を見上げる2人。
『何だ』と首を傾げればー


「良かったああああああ!! おめでとう! というかやったな、鯉菜!
最近お前が何だかイライラしてたのってこれが原因だったんだな!? オレてっきり倦怠期に入られたのかと思って…うわあああああ、色んな意味で良かったああああああ!!!!」

『……なんか、うん、ごめん?』


顔を両手で覆い、ひたすら叫び続ける達也。
一方…


「てめぇら! 鯉菜が無事出産を終えるまで、こいつには家事を一切させるな! あと、3代目補佐の仕事もしばらくは辞めだ! 鴉天狗、コイツの護衛を厚くしろ!」

「はいっ!!!」


首無に、青や黒など…奴良組の戦闘員に早速命令しているお父さん。首無は「お嬢、今度からどこか行く時はオレを呼んで下さい!」なんて言ってくるし、青や黒は気合入れとか言って一気飲みしてるし…


『……ハハッ、こりゃあ安静にして無事産まないと。謎のプレッシャーだわ。』


これで流産とかなったら、皆の落ち込みようと私への気遣いようが目に浮かぶようだ。絶対に元気な子供を産まなければ…
そんな事を考えていると、ようやくお腹に赤ちゃんがいることに現実味がでてきた。

今度はちゃんとお祝いモードで宴が始まる奴良組に、私の口角もゆるりと上がる。まるで自分のことのように喜んでくれる皆の様子を見ながら、優しく自分のお腹に手を当てて1言。


『無事元気な子に産まれてね。』


護衛も面倒だし、家事や3代目補佐の仕事がなくなるのは退屈そうだけど、お腹の子の為なら何だって耐えられるような気がした。





(『…あれ、達也は?』)
(「達也ならさっき出掛けたぜ。」)
(『出掛けた?』)
(「おう、安産祈願してくるってよ。」)
(『………早いよ。早過ぎるよ。』)




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