この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 痛すぎていと辛し

「…ん………さん…」



ふわふわした意識の中、声が聞こえた。



「お…さん…!」



誰がおっさんだ。
確かに中身はおっさんだが、女を捨てた覚えはないぞ。


「お姉さん!起きてください!」

『…なんだ、お姉さんか』


おっさんじゃなかった。


「え?そ、それより、大丈夫ですか?怪我は」

『んー…あぁ、思い出した。
そうだったそうだった。確かやり返すことを誓ったところで意識飛んだんだった。』

「…大丈夫ですか?」

『痛いし気分も最悪だが…まぁ、何とか大丈夫かな。カナちゃんは?』

「私は大丈夫です…でもゆらちゃんが!」


カナちゃんの視線の先を見れば、胸元を抑えて悔しそうにしているゆらがいた。原作通り、胸元の制服を破られたんだろう。


『…あら大変。これでも着なさいな。
汗臭かったらゴメンネ。』


そう言って私のパーカーを脱いで貸す。
そういえば縛られてた筈なのに…自由になってる。あれか?
お前なんか縛らなくても何も怖くねぇってか?


「え!?でもそしたらお姉さんが…!」

『私の心配よりも自分の心配をしなさい。私はほら…まだ、タンクトップがあるから平気平気。』


誰だ今ワイルドって言った奴、出てこい。
スギちゃんヘアーにしてやるから。


「あ、ありがとうございます…」

『どいたまー』


にしてもまだリクオ来ないのか。原作が崩壊して本当に回状廻してたらどうしよう。それだけはマジ勘弁。とりあえず、皆が助けに来るまでは鉄扇で何とか対応しようかな。心許無いけど仕方ないね。


『そもそもこれは戦闘用じゃなくて防衛向きなんだけどね。しかもその場しのぎの…』

「「?」」


疑問を浮かべる二人に何でもないよーと笑顔で言いながら、この後のことを考える。痛いの嫌いなんだけどなぁ…。でもやるっきゃない。


「そろそろ時間だな…
ま、来ないなら来ないでオレは構わんがな。
知ってるか?
人間の血はなぁ…夜明け前の血が一番ドロっとしててうめぇのよ。
ちょうど、今くらいのなぁ…?」


そう言って、檻の中にぞろぞろと入ってくる下っ端達。どいつもこいつも金髪スーツで似たような格好しやがって。就活かよてめーら。金髪の時点でてめーら全員不合格だざまぁみろ!


『カナちゃん、ゆらちゃん…後ろに下がってて』


ボソッと二人に背を向けたまま言えば、不安そうな顔をしながらも大人しく後ろの方に下がる。
さてと、死なない程度に頑張りますか…!


『へーぇ、時間帯によって血の美味しさって変わるんだねー知らなかったー。』


棒読みで言いながら、懐に隠し持ってた鉄扇に手をやる。
つぅか人間の血なんか主食にしてないのに、そんなこと分かるわけないじゃん。こいつ脳みそあんのかな。


『でも注意しないとね?
一部の人間の間ではある病気が流行ってるみたいだから…気を付けないと伝染るかも。』


鉄扇をゆっくりと取り出し、ゆっくりと広げる。


「病気だァ…?」


そして、闇夜に舞う蝶の絵が出てきたところで…それを構えた。


『そう…
厨二病って言う厄介な病気が、ねっ!』


勢い良く飛び出し、一番手前にいたネズミの首を鉄扇で掻っ切る。


『主役が現れるまでは、私が暴れさせて貰うよ』


次々と襲いかかってくるネズミの首や目を鉄扇で切りつけ、頭や腹やアソコを容赦なく蹴る。
…散々カッコつけといて何だけど、ぶっちゃけキツイ。頭やら腹を蹴られてたんだよ?まだ痛むに決まってるじゃん!
動く度にクラクラする。


『でもっ…やられたらやり返さなくちゃ腹の虫が治まらないんでねぇ!』


まだ終わってたまるか!


「…くそっ!能無しのクソアマが…図に乗ってんじゃねえぞ!この女がどうなってもいいのか!」

「きゃっ…いやあ!」

「家長さん…!」


追い込まれる旧鼠の一人がカナちゃんを人質に取る。しまった、注意不足だった。


『カナちゃ…!あぅ…っ』


カナちゃんに意識が向いたのを奴らが見逃すわけもなく、後頭部をまたもや鉄棒で殴られる。


「お姉さん!」

『…っ』


拉致する時に殴った所をわざと狙っているのだろう。怪我したところと同じ箇所を再び殴られ、酷い眩暈と吐き気に襲われる。動くのが辛い。


『ぐっ…ぅあぁっ!』


倒れ込んだ私の腹に蹴りを入れ、鉄扇をもつ手を力強くグリグリと踏み付けてくる。骨折れそう…。


「え、ええかげんにせい!」

「やめてください…っ!誰かぁあ!!」


あぁ…口喧嘩はしたことあっても、こんな喧嘩は初めてだ。痛くて死にそう…いや死ぬ程のものじゃないけどね?でも痛いのが嫌いな私にしては頑張った方だよ…。
もう諦めてしまおうかな…どうせ私がこんな頑張らなくても二人は助かるんだろうし。
でも…それじゃあ…


『どうして来ないんだよ!』

「ぶっ!…ってぇーな!!」


原作だったらもうとっくに来てるんじゃないの!?なかなか来ないリクオのせいでバーサク状態に入りかけな私。何か痛みとか麻痺してきた気がする。怒りが痛みを上回ったよ。


「! おい!何だありゃ…!?」

『知るっかぁ!げほっ』


ざわざわと騒ぎ出した鼠の視線の先には白いモヤ。おそらくリクオの率いる百鬼夜行だろう…見えないからただの感だけど。


「待たせたな、ねずみ共」


あ、リクオだ。夜リクオのイケボイスだ。
てかさ…リクオ君や。
カッコよく登場するのはいいけどさぁ…!


『どんだけ…待たせんだよっ
この馬鹿野郎があぁっ!』


助走をつけて飛び蹴りをかます。
リクオにではない、リクオに一番近いところにいた旧鼠にだ。
あ…やっべ、吐きそう。ジャンプしたら脳がグルングルン揺れた気がする。
あまりの気分の悪さにorz状態だ。


「………………大丈夫か?」

『…………。』


これが大丈夫そうに見えるか?と半切れ状態でリクオを睨み付ければ、「悪ぃ」と小さく呟いて目を逸らされた。
え?八つ当たり?そんなの百も承知だ。
取り敢えず、皆が来たからもうカナちゃんとゆらちゃんは大丈夫だろう。
戦う皆の姿を見たかったがもう限界だ。眠いし気分悪いし…何よりも緊張して疲れた。
何度目になるか分からないが、今度は自らの意思で瞼を閉じる。次起きる時には全て終わっている事を願いながら。


(「お嬢!大丈夫ですか!?しっかりし…」)
(『うるさい寝るから黙って首無おやすみ。』)




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