この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ おつかいもできないのは誰(鯉伴side)

…おかしい。
鯉菜のやつ、どんだけぽん酢1つ買うのに時間かかってんだ。ぽん酢の種類に迷ってんのか?
いや、確かにな?
確かに友達も一緒に送るって言ってたが…それにしても掛かり過ぎだろ。もう何時間経ったと思ってんだ。アイツァおつかいもできないのか…困った娘だ。


「あり?そういやぁ…リクオも見ねえな。」


…まさか何かに巻き込まれてんのか?
鯉菜はまだ番傘に鉄扇に新しい銃を身に付けさせてるが…リクオは何も持っちゃいねぇ。大丈夫だろうか。


「はぁ…ちょっくら外を見回りするかねぇ。
…って、おい。何でこいつがここにあるんだ。」


玄関に行けば、本来なら鯉菜と共にあるはずの番傘がそこにはあった。


「あのバカ娘…」


何で毎日忘れずに持ち歩いてるのに、こういう時に限って置いていくんだ。一気に不安になってきたぞ…危ない目に遭ってないだろうか。
すると突如、番傘と睨めっこしていれば勢い良く扉が開いた。


「!
リクオ!?お前…どうしたその怪我!」


転ぶようにしながら入ってきたのは、あちこち痣があるリクオだった。


「…ハァッ…っゲホ、お父さっ…回状…」

「…回状?」

「回状の…書き方、教えてっ…」

「…そらぁ構わないが、何を書くんだ?」


息を切らしているリクオの背をさすりながら聞けば、「三代目を継がないことを書くんだ」と予想外な答えが返ってきた。


「…理由は何だ。」

「姉ちゃんが…!友達も…危ないんだ!
旧鼠って妖怪に捕まってて、早くしないとっ!」


…なるほどな。
リクオの言葉に、なんとなくだが、嫌な予感が当たったということを察する。


「それで?」

「えっ…だから、」

「回状を廻したら助かるとでも思ってんのか?
…舐めてんじゃねえぞ。」


そんな甘いもんじゃねえ、この妖怪の世界は。


「っじゃあ!どうすればいいんだよ!」

「話は聞いたぞ、リクオ。」


下を向いて拳を強く握り締めるリクオを見ていれば親父が現れる。


「じいちゃん…」

「こっちに来なさい。」


親父の後をついていき、リクオと共に部屋に入れば化猫組二人と鴉天狗がいた。そのまま敷かれている座布団に座り、オレは場を見守る。


「リクオ。
回状を回そうとするわ、昼間は陰陽師を連れてくるわ…ワシら妖怪を破滅させる気か!?」

「しかたないだろ!?
妖怪が《悪い》からいけないんじゃないか!」

「何ィィ!?」

「しかもあんな奴らがうちの組にいるなんて!
じーちゃんも父さんも何やってんだよ!だから妖怪一家なんて嫌なんだ!ほんと…最低だよ!」

「それは違いますぜ若ぁ!」

「誰…?」

「奴良組系化猫組当主 良太猫でございます。
実は本当に1番街を総大将から預かってんのはワシらなんですわ…リクオ様」


良太猫は親父から1番街の支配権を貰った時のことをリクオに話す。親父の代から、そして俺の代でも、化猫組はよくやってくれている。奴良組の畏の代紋に傷がつかねぇようずっと努力して来たんだ。それなのに…


「あの街は今っドブネズミに支配されちまってるんですよぉ!!見た目華やかできらびやかな世界は小娘を誘いこみ、やつらは欲望のままに貪り食ってんですよ!」


良太猫も今まで何とか自分達で解決しようとしてたんだろう。だがそれももう限界に来たんだ…。


「若っ!どうかあの街を救ってくだせぇ!!」


その言葉にたじろぐリクオ。


「僕は…人間なんだぞ!?回状を廻すことでしか、友達を助けられないんだ!」

「リクオ、そいつらは欲望でしか動かねぇ奴らだ。約束なんて守るようなタマじゃねぇ。」


オレの後に、親父も続けて口を開く。


「旧鼠組な…あまりにも知恵のない奴らだったよ。おさまりのきかねぇ…ただの暴徒…早々に破門したはずだがな。
リクオ!言いなりになってんじゃねーぞ、情けねぇ!てめーのことだろうが…ケジメつけたらんかい!」

「そんなこと言ったって…
ボクには力なんてないんだ!」


そう言い捨てて外に飛び出すリクオ。
今まで、人間か妖怪かを選ばせると言っていたが…もう潮時かもしれねぇな。


「リクオ…三代目を捨てるってこたァ、下僕を見捨てることだぞ。」

「なんで…!何で姉ちゃんじゃダメなんだよ!姉ちゃんの方が余っ程向いてるじゃないか!」

「…オレとしちゃあ、お前らの二人のどちらかが三代目を継いだら文句はねぇ。だがな…鯉菜も今は捕まって動けねえ以上、誰がこの問題をおさめるんだ?」

「…っでも…!」

「それとも何だい?
鯉菜の命を捨ててまでお前は…てめーの平和な暮らしを守りたいのかい。」

「ち…違う…僕は!」


そこで空気が変わる。
リクオの背が伸び、髪も変わった。妖気が漂い始めたし、ようやくリクオが覚醒したらしい…。


「カラス天狗、皆をここへ呼べ。
夜明けまでのねずみ狩りだ…。」


リクオの言葉に、カラス天狗は出入りをすることを皆に知らせに行く。その命令に素直に従って飛び去るカラス天狗の背を見遣り、オレは夜のリクオの元へ向かった。そろそろアレを譲り渡す時がきたかもしれねぇ。


「やっと変化したか…待たせやがって。」


そう言いながらリクオの頭をクシャクシャしてやれば、うるせぇとそっぽ向きやがった。
これがツンデレというものか?


「…前から聞きたかったんだが、親父。」

「ん?なんだい?」

「左肩が昔みてえに動かなくとも、まだ戦えるんだろ?何で二代目を降りた。」


…まさかそれを今聞いてくるとは、どうしたもんかねぇ。


「お前が正式に三代目を継いだら、教えてやらんでもない。」

「…んだよそれ。」

「それよりほら、これやるよ。
祢々切丸っていう妖刀だ、失くすなよ。」


失くしたら承知しねえぞと言いながら、刀を渡す。
祢々切丸…これは親父から譲り受けた刀だ。元々は人間であったオレのおふくろの物だったらしいが…親父が使い、2代目となったオレへと引き継がれたのだ。
そして今度はお前…リクオの番だ。


「…おぅ。あんがとな。」


何処か照れくさそうに刀を受け取ったリクオと少し言葉を交わしていれば、妖がだんだん庭に集まってくる。しかし、どいつもこいつも不満あり気な表情だ。まぁ…それも仕方ないだろう。


「で…出入り!?」

「じゃあ…あの陰陽師女を助けるってことか?」

「お嬢は分かりますが…何で妖怪のワシらが陰陽師なんかを助けないかんのです!?」


ぎゃあぎゃあ文句を言うこいつらを何とかしねぇと助けに行けねえぞ、リクオ。そう意味を込めて目配せをすれば、まるで分かってらぁと言うかのようにニヤリと笑う。
そしてただ一言…


「うだうだうるせぇよ、天敵に《かし》を作るのも…悪くねぇぜ。」


たったそれだけで、皆のヤル気を掻き立てる。


「親父はどうするんだ?行くのか?」


オレァどうしようかねぇ。
行きたいのは山々だが…


「カナちゃん達に顔を知られてるからなぁ…ここで待っとくぜ。早くケジメ付けてきな。そんでおつかいもできない娘をさっさと連れて帰って来い。」

「あぁ、待ってろ。」


そう言って、祢々切丸を持って百鬼を引き連れて歩く息子の背に感動を覚える。


「大きくなったなぁ…リクオ。」


そして今、
ここにいないもう一人のオレの子を思い浮かべる…


「帰ってきたら…どう苛めてやろうかねぇ。」




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