この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ おかえり(鯉伴side)

リクオが出入りに行くのを見送り、親父のところへ戻る。


「親父…どう思う。」

「どうも何も…リクオが三代目を継ぐのに反対な奴がけしかけたんじゃろうよ」


やっぱり、そうなるよなぁ…。


「それより鯉伴…」

「ん?なんだい?」

「さっきの言葉は…本気か?
鯉菜とリクオ、三代目を継ぐのはどちらでもいいって言ってたじゃろ。」

「あぁ、あれか。
まぁ…嘘ではねぇな。どっちが継いでもオレァ嬉しい。だが欲を言えばリクオに継いで欲しいねぇ。」


鯉菜は女の子だ。リクオにも言えることだが、傷痕を作って欲しかねぇ…。


「…もし鯉菜が変化できるとしたらどうする?
いや、正確に言おうかのう。
三代目を継ぐ素質があると言えばどうする?」

「…アイツは変化できねぇだろう?
それに本人は継ぐ気はないって言ってるじゃねーか。」


一体どうしたんだ急に。何かあったのだろうか。
急に真剣な顔をして話す親父に、オレの頭には疑問が浮かぶ。


「鯉伴、アイツぁ変化できるぞ。
しかもリクオと違って自分の意思でな。三代目をリクオに継がせるために、その事実を隠してんじゃ。」

「……その話、本当かい?」


嘘なんかついても意味ないじゃろう馬鹿もん!と言う親父に、馬鹿は余計だと内心突っ込む。
親父を疑っているわけじゃないが…
もしそれが本当だとすれば、何故頑なに三代目になることを嫌がるのだろうか。


「そういや…三代目を継ぎたくない理由、ちゃんと聞いたことなかったな」


いっつも面倒臭いだの言って誤魔化されてきた。そろそろ…真面目に聞いてみるかねぇ。

鯉菜とリクオ、そして三代目のことを考えていればあっという間に時間が経つ。
しばらくして…
ちゃんとケジメをつけてきたのだろうリクオが百鬼を連れて帰ってきた。


「出迎えに行ってやるかねぇ…」


鯉菜も軽く説教しなくちゃいけねぇしな。護身刀忘れたら意味ないだろあの馬鹿娘は…ったく。
内心愚痴りながら玄関に向かえば、人間に戻ったリクオと予想以上にボロボロな姿になった鯉菜が目に入る。


「鯉菜!?おい、しっか…んぐっ」


駆け寄って揺さぶり起こそうとすれば、首無に全力で止められる。つーかお前、鼻と口の両方を押さえたらオレ死ぬじゃねえか。


「落ち着いてください!寝てるだけですので!
今起こしたらバーサク状態になりますよ!?」


小声で必死に怒鳴る首無に何となく事を察した。
だが怪我が酷い。
起こさないように、特に重症な後頭部と腹辺りに手を添えてやれば傷が治る。
…後は鴆にでも見てもらえば大丈夫だろう。


「リクオは?大丈夫なのかい?」

「えぇ。立派なお姿でしたよ。今は人間に戻って寝ているだけですので…。」

「そうかい、なら良かった。」


青田坊におんぶされているリクオの頭を撫でれば、くすぐったそうに身をよじる。


「よく頑張ったな、二人共。」


明日になったらもう一回ちゃんと二人を褒めてやろうと思いながら、黒田坊から鯉菜を預かる。青はリクオを、オレは鯉菜を各自の部屋に運び、敷いてある布団に寝かせる。


「こんなにボロボロになって…。
変化できるのにしなかったのは…カナちゃんたちがいたからかい?
それとも…リクオのためにかい?」


その質問に返事が返ってくるはずもなく、部屋にはこいつの寝息だけが聴こえる。軽く溜息をつきながら、部屋の明かりを消して静かに退出する。
朝が来て学校に行く準備をするまでの時間は残りわずか…。今日はもういっそのこと学校を休み、二人がしっかりと回復をすることをオレは祈るのだった。




「(説教は回復後に持ち越しだねぇ…。)」




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