この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ プライバシーの侵害

今日は何の日ー?


「だから若…どうしてワシらが隠れないかんのです!!」

「あのねぇーワシらは妖怪一家なんですがねー!」

「頼むよ…君らの為でもあるんだ」


家庭訪問の日ー!
家庭訪問と言っても、先生が来るのではない。清十字団のメンバーが我が家に来る日である。


「姉ちゃんもなんとか説得してよ!皆が隠れるように!」

『はぁ…頭を使いなさいな。
はーい、皆さん注目ー!
命が欲しい奴は今から全力で隠れなさい?今日来るのはただの人間じゃない…陰陽師よ。』

「「「えっ…」」」

『見つかれば命はないわよ。』


ニヤッと嫌な笑みを浮かべながら言った言葉に、空気がはりつくのを感じる。そしてこの空気感とは逆に、明るいチャイム音が鳴る。どうやらはた迷惑なお客様が来たようだ。 


『じゃ、後は頑張ってねリクオ。』

「え!?姉ちゃんも一緒に参加しないの!?」

『んー…気分が乗らないからパス。』


え?ノリ悪いって?ちゃんと混ざれって?そんなこと言うなよ〜こっちにも色々事情があんの!


『お邪魔しマース』


という訳で、私が向かった先は…


「おまっ…無断でいきなり入ってくんなよ」

『ちゃんと言ったじゃん。お邪魔しますって』

「開けた後に言うな。先に言え。」

『ケチケチすんなよ。また血ぃ吐くわよ。』

「うるせぇ。」


そう、吐血が特技な鴆君のところです。家が燃えて修理中だから、ここにいるんだよ。


「てか何の騒ぎなんだ?」

『あ、やっぱ伝わってなかったんだ。今ね、陰陽師来てるから。外出ちゃダメよ〜ダメダメ!』

「…はぁ!?陰陽師だぁ!?
何でそんなもんがきてるんだよ!」


あ…最後のところはスルーですか、そうですか。
もうこのネタも終わりですもんね、スンマセン。


『リクオの友達が遊びに来てるんだけど、そのうちの一人が偶然にも陰陽師なんだよね。』


全く…リクオもはっきりと断ればいいものを。断ったぐらいで誰も怪しんだりしないっつーの。


「『はぁ〜…』」


そんなことを考えていれば、鴆と目が合い、お互いに溜息をつく。わー。息ピッタリ。きっと同じ事考えてたんだろうなぁ。


「邪魔するぜ、鴆…ってお前さんもいたのかい?」

『お父さんは何しに来たんだい?』


横で、親子揃って了承取る前に入るなよ…だなんて聞こえてきたけど気にしない。


「俺はまぁ…一応健康診断、みたいな?」

『あぁ、左肩の確認…みたいな?』

「何も変わりがないが一応な…みたいな?」

「みたいなみたいな…うるせぇ!!!」


みたいなゴッコをお父さんと意味もなくしてたら、鴆に怒られちゃいました。良かった…止めてくれなかったら永遠に続いていたよ。
お父さんの診察をすれば、やはり変化はないようだ。良くもなってないし、悪くもなってない。動くのは動くが、前みたいにスムーズには動かせない…と言ったところか。


『あ、そういえば…これをワカメから貰ったんだけど。』


そう言って、ゴトっと鴆とお父さんの前にある物を置く。


「銃…?」

「ワカメって…ワカメの妖怪か?」

『いや、リクオの妖怪好きな友達のこと。頭がワカメヘヤーだからワカメ。』


私の説明を聞いてるのか聞いてないのか…ふーんと興味なさげに呟き、銃を手に取ってまじまじと見るお父さん。


「…ん?これ、本物かい?
弾を装填するところが何処にもねぇんだが。」

『そう。何処を探してもないんだよね。』

「おもちゃの銃ってことか?」

『違う。本物なんだけど、弾を装填するところがないのよ。…どう思う?』

「どうって言われてもなぁ…」

「使えねぇただの飾り銃じゃねぇのか?」

『その銃、曰く付きらしいんだけど…、使い方がさっぱりなんだよね。』

「曰く付き…?どんな?」

『使い手の生命力を吸い取るらしい。』

「…生命力?」


3人でうーん…と唸りながら銃を見つめる。
シュールな光景だ。


「それで、鯉菜はこいつをどうしたいんだい?」


お父さんに聞かれて少し返答に困る。


『…使えそうなら、使いたい。』

「生命力を吸い取られるとしても…か?」

『…まだ分からない。その程度による。疲れるだけとかなら使いたいけど、命に危険が及ぶ場合は使わない。』

「………そうか。」


結構長い間があったんだけど、反対なのだろうか…それとも賛成?


『まー、まずは使い方を見つけなくちゃいけないんだけどね。決めるのはそれからだな。』


そういえば納得したような顔を見せる2人。
よくそれを貰えたなー、なんてほのぼのした会話をしていれば外から騒がしい音が聞こえてくる。どうやらゆら達が近づいて来ているようだ。


「…おいおい、まさかこの部屋を覗きに来るんじゃねぇだろうな。」


お父さんのその言葉に立ち上がる鴆。一方、近づいて来ているゆら達の足音。


『…鴆、扉の前で何してんの?』


なんで仁王立ちしてんの?
しかも顔が凄いよ。ガン飛ばしまくりじゃん。


「ガキが来たら追い返すんだよ。」

『あぁ、なるほど。でももっといい方法があるよ。』


その言葉に不思議そうな顔をしてこちらを見る鴆。


『あ、お父さんは姿を見えないようにしてくれる?』


そう言うと、不思議そうな顔をしながらも言う通りにするお父さん。


『さてと・・・』


お父さんの姿が見えなくなったことを確認し、胸元のボタンを3,4つ外して谷間が見えるよう胸元をはだける私。


「なっ…!」


そんな私に対して若干頬を赤らめる鴆を無視し、次に目薬をさす。
…足音はもう直ぐそこだ。


『こっち来てよ、鴆。』


ニヤッと笑いながら鴆の手を掴み、勢い良くこちらへ引っ張る。そこで、バランスを崩しそうになった鴆の足を払えば…


「……っ!」


私が鴆に押し倒されている図の出来上がり〜。
しかも私の胸元は肌蹴ているうえ、目薬のせいで涙目だ。これはもう…誰がどう見ても、そういうシーンにしか見えないだろう。


ガララッ


そこでナイスタイミングに戸が開く。
開いた戸の方を見れば、顔を真っ赤にしているゆら達。


「…!し、失礼しました!!」


慌てて戸を閉めるゆらだが、戸はリクオの声と共に再び開く。


「ちょっ鴆くん!姉ちゃんに何してんの!?」

「うおぅっ!?」


ずかずかと入ってきて、私の上から鴆を力ずくで退かすリクオ。きゃぁー嫉妬ですかリクオくーん♪


『誤解だよ、リクオ。鴆兄は今立ちくらみで倒れちゃっただけだよ。そんで、私がそれを支えるだけの力がなかっただけ。』


そう説明すれば、なーんだとホッとするリクオ達。なーんだじゃないよテメェら。
こっからはオレのターンだ!


『んで?
家主の許可も取らずに君達は何を勝手に人の家をウロチョロしてんのかな?ん?』


そう笑顔で聞けば、少し顔色が悪くなる皆。笑顔と言っても、目は笑っていない笑顔だ。


「よ、妖気を感じたんです…だから、」

『そう、でも妖怪を探してなんて依頼…ウチはしてないよね?』

「でも!妖怪は危険なんや!
滅さないけん存在やねんで!?」

『花開院家は…皆そうなの?』

「…え?」

『陰陽師ってのは、人に信頼されることが大切な仕事なんじゃないの?あなたのしていることは人の為でも何でもない。ただの自己満よ。』

「…っ」


ここでゆらは押し黙るが、次いで口を開いたのは清継だった。


「しかし、お姉さん!」

『清継くん…うちん家は確かにボロいけれど、とても広い家なの。それは見て分かるでしょ?私の家族だけで住むにはとても広いから、親戚からお手伝いさんまで…色んな人がここで暮らしてんの。各自プライバシーがあるんだから…こんなことされちゃ困るわ。大体、人の家を勝手に歩き回っちゃ駄目なんてこと、小学生でも分かってるわよ。』

「うっ…す、すみません。」

「ごめんなさい。」


分かってくれたのか、ゆらと清継を筆頭に皆謝ってきた。


『…分かってくれれば良いのよ。』


今度こそ本当の笑顔で言えば、ホッとする皆さん。だが、もう1人…まだ叱らなくちゃいけないやつがいるんだなー。


『リクオも気をつけなさい。
今回、皆を呼んだのはリクオでしょう?だったら責任もって最初から最後までお世話をしなさいよ。それができないなら今度からはちゃんと断ることね。』

「う…ごめん。」

『ちゃんと客間に皆で戻るのよ?
私は鴆兄の看病するから。
…それじゃ皆、ごゆっくり〜。』


ちゃんと私の言ったことを分かったのだろう、客間へと大人しく戻って行くリクオ達。そして彼らが退散したことを確認し、ようやくお父さんと鴆は口を開く。


「お前さん…手厳しいな〜。」

「ったく、これだからガキはよぉ…」

『まぁまぁ、落ち着いてよ鴆。また血ィ吐くよ。
それよりもお父さん…せっかくリクオが友達を連れてきたんだから挨拶でもしに行ったら?』

「それもそーだな。」


その提案にニヤッとイタズラっ子みたいな笑みを浮かべ、お父さんは客間へと向かう。大人になっても悪戯が好きなのは治らないらしい。
その後、
きっと今頃はお父さんとおじいちゃんが客間に現れるんだろうなぁ、大変だなぁ…とリクオに同情しながら、私は鴆とお茶菓子を食べるのだった。



(「鯉菜、俺だから良かったものの…そう簡単に、その…あんま大胆な行動はするなよ?」)
(『はいはーい!』)
(「(本当に分かってんのか?)」)




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