▽ それ下さい!
所変わって、清継の家。
『…すっげ。』
「はぁ…すげぇ、ここ清継くんち?」
「ふふふ…ボクのプライベート資料室さ…」
「超成金じゃないすか…」
「口をつつしみたまえ!
大学教授である僕の祖父が使っていた部屋をまるごとかりてるんだ。ま…そのうち僕の資料で埋めてみせるさ」
何このキラキラした家。
つぅかさ、こいつ…将来妖怪博士としてどっかの大学で変な授業やってそうだな。
「この…日本人形なんだけどね…」
そんなことを思っていれば、
いつの間にやら部屋についていたようで…いかにもな人形を持って来た清継。
そういや前世で日本人形持ってたんだけど…あれ壊れたんだよなぁ。私の大学受験失敗で母がブチ切れて床に叩きつけて…アレは怖かった。人形の顔が割れててさ、元々日本人形好きじゃないから、余計怖く感じたね。呪われたらどうしようって思った覚えがある。懐かしいなぁ。
「どぉしたー!リクオー!」
『っな、…は?』
ボーッと昔のことを思い返してたら、急に清継の大きい声がして吃驚した。しかもリクオは人形に抱きついてるし…何やってんだコイツ。
「ハハハ…ごめん聞いてたらかわいそーで!」
『…ぷっ』
どんな言い訳だよ。
つーか笑ったらリクオに睨まれた。恐ろしい弟だぜ。
「まったく貴重な資料を…名誉会員から外してしまうよ…」
…その名誉会員って何で決まったんだ?
そんな私の疑問を余所に、清継は再び日記を読み始めた。それにつられ今度は髪がもりもりと伸びる人形。
「姉ちゃん!どうしよう(コソッ)」
『…任せなさい。』
正直触りたくないが、かわいい弟のお願いならば仕方がない。ハサミを取り出して人形の元へ行き、伸びた分の髪の毛を引っ掴んでジョキンと切る。そして切った分の髪とハサミを素早くリクオのポケットに突っ込んだ。
「ヒッ…ちょっ…何す…!(コソッ)」
「ジョキン…?今度は奴良のお姉さんですか!?
一体何したんですか!大事な資料に!」
そう言って人形を再び見るも、変わりのない様子に清継は不思議そうにする。
「おかしいな…今何かをハサミで切るような音がしたんだが…」
『気のせいよ。ほら、ハサミも何も私持ってないでしょ?』
手をぶらぶらさせて見せれば、気のせいかと納得する清継。ふっ、チョロイな。横でリクオが私を睨みつけているが、まぁそれはスルーするとしよう。あんな恐いもん(髪の毛)なんか私持ちたくないもん。ドヤァ。
一方で、気を取り直した清継はまた日記を読み始めていた。
「2月28日 おかしい…しまっておいた箱が開いている…」
その言葉に今度は刀を持ち、振り下ろそうとする人形。
どこから刀を取り出したんだ?
そんなことを呑気に考えている私とは逆に、リクオは慌てて清継を止めにかかる。
だがー
「日記を…読むのをやめてぇぇえーーー!」
「浮世絵町…やはりおった」
リクオが止める前に、花開院ゆらによって滅せられた人形。そう、彼女は…
「陰陽師 花開院家の名において、妖怪よ。
あなたをこの世から…滅します!」
陰陽師だ。
ゆらという陰陽師が現れたことにも、妖怪の存在を証明することができたことにも喜んでいる清継。
お前だけだぞ、ハイテンションなの。周りを見てみろ。ゆらは普通だが…島とカナちゃんは怖がってるし、リクオは陰陽師の存在に疑問を抱いているし、つららは…ってつららーーー!?
『ちょっ、大丈夫?(コソッ)』
「ゆ、雪女!?」
「若…お嬢…一刻も早く…逃げましょう」
『落ち着けって。
堂々としてないと逆にバレるぞ。』
背中をさすってやれば少しだけ落ち着いた模様。一方、ゆらと清継はまだ盛り上がっている。
「私は…より多くの妖怪を封じ!そして、陰陽師の頂点に立つ花開院の頭首を継ぐんです!」
…爽やかに言うなーゆら。
「んなっ!?妖怪を…?」
「す、すごいぞ!プロが来たんだこの清十字団に!ぜひ協力してくれないか!?僕もある妖怪を探していたんだ!」
ちょいと待て清継。ゆらの手を離せ。
「そのお方は…月夜をかけめぐる闇の支配者…もう一度…僕は彼と会わねばならない!」
いや、会いたいっていう願望でいいじゃんそこは。なんで義務化してるんだよ。
「それは…まさか百鬼夜行、率いる者…」
「そう、恐らく彼こそが…」
「それは一体どこで…」
「妖怪の主!!」
わぁー話が噛み合ってなーい。
「一緒に探そう!妖怪の主を見つけ出そうじゃないかー!清十字怪奇探偵団ここに始動だー!」
待て。温度差が激しいぞ。
ゆらの顔を見ろ。どん引いてるぞ。
『つーかさ、ゆら。まだ生きてるぞこれ。』
「え…? あっ、滅!」
「封じた筈なのに…?花開院さん、これは…?」
『レシート、間違えて飛ばしてるよ』
「あっ…」
そういう君の抜けてるところ、私は好きだよ。
そしてなんやかんやで、
無事に人形を滅したところで解散となるのだが…
『リクオ、ちょっと先に帰ってて。』
「え、どうして?」
『ちょっと清継に話があるんだ』
「でも!護衛が…!」
『私は大丈夫だから、つらら。リクオと一緒に帰って。ちゃんと番傘も持ってるし。』
そう言えばなんとか納得してくれて、先に帰ってくれたリクオ達。
そして私は1人玄関に残り、見送りに来ている清継へと話しかけた。
「あれ?お姉さんは帰らないのかい?」
『…清継君。君にお願いがある。』
「…お、お願い?」
『あぁ。…一生のお願いだ。』
(『これを…私に譲ってくれないかしら?』)
(「え…これをですか?でもこれ…曰く付きですよ?」)
(『分かってるわ。それでも欲しいの。』)
(「…う〜ん…。」)
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