この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 帰り道 in 朧車

『鴆、じゃあ私たち帰るけど…何かあったらすぐ連絡頂戴よ?』


鴆は大事な薬草やら何やらを纏めたいらしいので、ここに残るとのこと。それに今出かけている奴らが帰って来るから、ここで待っていたいらしい。


「心配しすぎだ。
明日も学校なんだろ?早く帰りな。」


その言葉に甘え、別れを簡単に済ませて朧車にリクオと共に乗る。


「…カラスよ」


そして、今まで黙っていた夜リクオが口を開く。ちなみに普段見慣れないイケメンな弟君に私はソワソワしております!


「あとどれほどの盃を交わせば…妖怪どもに認められる?」

「え!?」

「オレは三代目を継ぐぜ。なぁ…そうだ。さっきの画図。最高幹部って何人いるんだい?」


私と鴉天狗は顔を合わせる。
…漫画見てた時も思ってたけど、キャラ変わり過ぎだろ。


「そういやぁ、姉貴。」

『うえっ!?な、ななな何!?』

「…狼狽えすぎだろ。」

『ご、ごめん。慣れなくって…!
大丈夫!そのうち慣れるから!それで何?』


いかん。イケメンへの耐性は散々、お父さんやら首無やら黒田坊で鍛えられてきたのに…まさか弟に惑わされるとは、くそぅ!


「…何があったんだ?」

『はい?』

「今日の夕方前くらい…ジジイと話してただろ。アレから少し元気がない。何を言われた?」

『……………』



リクオの言葉によって思い出されるのは、おじいちゃんとの会話。




「まぁ、座りなさい。」


部屋を移動し、部屋の中央で2人向かい合って座る。


『…なに?』

「理由を話せ。…三代目を継ぎたくない理由を。
リクオが理由をちゃんと言ってるのに対して、お前は理由をまだ言っておらんじゃろうが。」

『…言ってなかったっけ?
私には皆を引っ張っていくようなリーダー役は不向きだって。そういうの苦手なんだよ。』

「…本当にそれだけか?」

『うん。』


今言ったのは嘘じゃないけど、本当の理由は別にある。原作ではリクオが三代目を継ぐからだ。ただそれだけのことだが、口にはできない。


「…はぁー…」


このジジイは鋭い。私は嘘吐くのは得意だが、別にそれは上手という意味ではない。


「…そんなんでワシを騙せるとでも思うなよ」

『…っ!』


溜め息を履いたかと思えば、次の瞬間、ギロっと睨まれる。
…しまった、ジジイの姿が見えない。
これはもう完璧に畏れてしまった証拠だ。


ー…構えて、後ろから来るわー

『(夜…!?)』


何処からとも無く、夜の私の声が聞こえた。言う通りに、懐に隠し持っている鉄扇を取り出して後ろを向けば、ボヤっとだが影が目に入る。
…見えた!


『…くっ!』

「む…!」


ジジイの蹴りをなんとか鉄扇で防ぐ。
何だよこのクソじじい!老体なのに何でこんな蹴り強いんだよ。めっちゃ手が痛い!


「…なるほど。
覚醒できることも隠しておったのか。」


その言葉に慌てて自分の体を見れば、何故だ!今まで隠してきたのに確かにこれは夜の姿だ。


「その顔じゃぁ、変化は前から出来ていたようじゃのぅ。…いつからじゃ?」


嘘は付くなよとでも言うかのように、鋭い目付きをしながら再び座布団の上に座るジジイ。


『…珱姫に会ってからよ』

「珱姫?どういうことじゃ。」

『昔、3日間起きなかったことがあったでしょ。』

「……あの時か。」


納得したようなしていないような、うーん…
ジジイの考えていることが読めない。


『…………………』


仕掛けてみるか。少し怖いけど。


「…ハッ、何のつもりじゃ?」


鼻で笑いつつも、私を睨む。睨まれて当然。
ジジイの首元に鉄扇を当ててるんだから。もちろん、本当に攻撃するつもりはさらさらない。それはジジイもわかってるんだろう。私を睨んでいるものの、全く動じない。


『…私は、三代目を継がない。
私が変化できることは他言するな。』

「だったら、ワシが納得できるようにちゃんと訳を話せ。」


そう言って、鉄扇を持っている手首を掴まれる。え?折らないよね?まさか手首の骨を折るなんてしないよね。


『三代目はあの子が継ぐ。私はリクオの邪魔になりたくない。ただそれだけよ。』


手を振り解こうとしたが、案外強く掴まれてて出来なかった。…イケメンだったら胸きゅんなシーンなのに。禿げたこの頭長いジジイでは役不足だ。私に老人の趣味はない。


「邪魔をしたくないと言うがぁ…アイツァお前と一緒で継ぎたくないと言っておるぞ」

『大丈夫。いずれ継ぐ時は来る。
…あの子は、運命の歯車から逃れることは出来ない。』

「運命の…歯車?」


訝しげに見てくるジジイ。どういうことじゃ?って顔してるけど、言いまっせ〜ん!


『…もう、動き出してるわよ。後はリクオがもう一人の自分と向き合うのを待つだけ。』


今宵、蛇太夫を倒し、次は窮鼠…そして牛鬼。
もう動き出してるんだ、原作が。


『…黄昏時…か。
おじいちゃん、私もう行くね?』


夜の姿から昼の姿に戻す。
もう話はお終い、強制終了だと言わんばかりにニッコリ笑顔で言う。
鴆の家に私も行きたいんだ!これ以上ジジイの話に付き合ってられるか!だなんて思ってるのは秘密。






所戻って、朧車のなか。


「おい、姉貴?」

『…リクオ、早く三代目を継いでね。』

「あ?」

『そしたら私は…三代目補佐にでもなろうかな』

「…本気か?」

『えっ、嫌なの?お姉ちゃんショック…』

「嫌じゃねえよ。ただ、姉貴は人間の世界で生きて行くものかと思ってた…三代目を継ぐ気なんか全くねぇし。」

『だって三代目はリクオが継ぎたいんでしょ?
小さい頃からの夢じゃん。私は逆にリーダー役はしたくないからさ…でもリクオの役には立ちたい。
……駄目?』

「っ…駄目なわけねーだろ?
これからも頼むぜ、姉貴。」


何だこの弟…!色気振り撒きやがって!
私は分かったぞ。こいつはもう将来女誑しになるね。しかも本人に悪意も自覚もない。余計タチ悪いわ。嫌だわ〜もう!


それから少しして…


「若、お嬢、もうそろそろ家に着きますぞ!
………あれ?聞こえてないのか?」


外を飛んでいた鴉天狗は返事をしない二人を訝し気に思い、朧車の中を覗いた。


「…まだまだ、お二人とも子供ですなぁ」


そこには、昼の姿に戻ったリクオと鯉菜が仲良く寄り添って寝る姿が。
その顔はあどけない子供の寝顔であった。




ーーーーーーーーーー
おまけ
夜リクオside

『だって三代目はリクオが継ぎたいんでしょ?小さい頃からの夢じゃん。私は逆にリーダー役はしたくないからさ…でもリクオの役には立ちたい。
…駄目?』

…何だこの生き物は!首傾げて上目遣い(身長故に)で「駄目?」…だと?
そんなの…駄目なんて言えるわけねーだろ!

「っ…駄目なわけねーだろ?
これからも頼むぜ、姉貴。」

コイツァ…あれだな。将来男誑しになるな。しかも、日頃は(性格的に)男らしいのに…こんなところで女を出してくるとは…!これがギャップ萌え!?

「女ってのァ…恐ろしいな(ボソッ)」
『? 何か言った?』
「…何でもねぇ」




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