この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 真の守る

「フン…何人でかかってこようとも雑魚は雑魚だ。式神を使えるのが雄呂血様だけだと思うでないぞ!!
喰いつくせ…〈食人木〉!!」


目の前に現れたのは…悪樓とほぼ同じ大きさの植物だ。牙がいくつも生えた口があり、涎を垂らしている。食人木と言うだけあって、きっと人も妖も…何でも食べるのだろう。


「…で、どうすんだぃ?」

「鯉菜、オレを鬼纏え!!
リクオだって出来たんだ、お前にもできるだろ!!」


チラッとこちらを見るお父さんに、意気揚揚と鬼纏うように言ってくる鴆…。あまり長話する暇はない。
そこでお父さんの方を見て口早で言うー


『お父さん、前言ったこと覚えてるよね?
試しにやってみよう。鴆がちょうどいるし。』

「…本気か? 別にいいけどよぉ…」

「ん? 二代目、何の話ですかい」


キョトンとする鴆を横に、お父さんにやってくれと頷く。


「…はぁ〜…面白そうだが、どうなるか知らねぇからな! 鴆、鬼纏わせてもらうぜ」

「…二代目がっ!? オレ…をぉぉお!!?」


鴆の了解を得ずに、そのまま鴆を鬼纏うお父さん。
すると、恰好はいつもとそこまで変わりないが…お父さんの背中には鴆の毒羽が生える。


「できたぜ。…本当にやるのか?」

『いつかやってみたいなって言ってたんだから、ちょうどいいじゃない。失敗したら普通の鬼纏をすればいいだけの話よ。
…それじゃあ、鬼纏うよ2人共!!』


今度は私が、鴆を鬼纏ったお父さんを鬼纏う。
鬼纏はつまり…人間部分に妖怪を憑依させ、自分自身の妖怪部分が畏を扱うのだ。複数人を憑依させるのは不可能かもしれないが、鬼纏によって一心同体になったお父さんと誰かを鬼纏うのは可能なのでは…、という話をお父さんと先日したことがある。
そして今ー


『畏襲〈乱羽炎舞〉』


夜の姿をした私には毒羽が生えている。
だが、ただの毒羽ではなく…一枚一枚の羽根が炎を帯びている。これは…毒と炎の羽だ。ちなみに、いつもの恰好に加え、緑と黒の縞模様の着物を上に羽織っている。
ーとどのつまり、成功したのだ。


『…おっと…どうやら相当腹が減ってるみたいね』


大口を開けて襲いかかる食人木を鏡花水月で避け、これまた火を帯びた刀でそいつを一刀両断する。


「なっ…!? 吾輩の食人木を…一撃で!!」

『…雑魚はどちらかしらねぇ…泰具さん?』

「こ、の…!! これで終わりと思うでない!!
吾輩の最強奥義…溶け死ぬがいい!〈屍昏葬の雨〉」

『…黒い…雨…? アッツ…!!』


突如降ってきた黒い雨。
その雨粒に濡れた所が、ジュワーッと音を立てて痛みが走る。周りを見渡せば、木や花などの植物が黒い煙をあげながら萎れていき…妖達は敵味方関係なく苦痛の声をあげる。


『…見境なしに攻撃かよ。
どこまでも最低で小物な奴だな。』

「何を言うか…鬼共も晴明様の駒に過ぎん。例え死んだとしても、それが清浄の結果だとすれば致し方なし。」


…どこまでも下劣なやつだ。
こんな奴に振り回されたのかと思うと、また怒りがフツフツと煮えたぎって来る。戦ってる皆のためにも、この邪魔な雨を早く消そう。


『毒羽根よ…闇の中で血を撒き散らせー
畏砲〈夢幻・無月散水羽〉!!』


泰具を中心に現れた黒い円柱…その中で鴆の毒羽根が舞い踊る。そして…泰具の悲鳴と共に、血飛沫が舞う。


「だ、出してくれ!
ここから…出してくれぇぇ!!」


バンバンと何度も円柱の壁を叩く泰具。
円柱の中は常世の闇のようになっている。そのため、泰具からしてみれば…飛び回る羽根にひたすら傷付き、なおかつ、羽根による毒で真っ暗闇の中もがき苦しんでいるに違いない。


「助けてくれっ…頼む!! …ガフッ!!」

『………悪いけど、私はリクオや他の皆みたいに心優しくないのよ。邪魔立てするものは先に片付けるし、怪しい者は徹底的に調べる。
そして私の大切なモノを傷つけた奴には…
後悔するまで苦しめて殺るわ。
楽に殺すわけがないでしょう…?
私の大切なモノを傷付けるってことは…そういう事よ。後悔しながら果てなさい。』


そう言いながらも、ドス黒い何かに胸が押し潰されるような感覚に襲われる。

…あぁ、そうか。これが〈憎悪〉だ。

重苦しいその感情に…私は今支配されているのかもしれない。そう気付いていながらも、泰具の叫びを無視して…ただ朽ち果てるのを待つ。


『……鴆、お父さん、ありがとう。』


そしてようやく泰具が滅びたため鬼纏を解けば…まずお父さんが出てきて、次いで鴆がお父さんから出てくる。私もだが…二人もとても体力を消耗している。


「…ハァ…ゲホッ…おまっ…容赦ねぇな…!」

「…鯉菜…憎しみで戦うな、守る為に戦え…」

『……………うん…』


咳込んで息を整えようとする鴆…
一方お父さんは息が切れながらもそう言う。
やっぱりお父さんには見透かされているか…
泰具を倒す時に先生や兄、小妖怪の顔が頭に浮かんできて…ドス黒い獣が胸のうちで暴れるような感覚がしたのだ。

もっと…もっと苦しめてやりたい、
と思わずにはいられなかった。


『……こんな事しても…帰って来ないのにね』

「鯉菜…」


ポツリと洩らした言葉にお父さんが何か言いかけるがー


「っぷはっ!!?」

「うおっ…で、出られたぞぉぉお!?」

「ど、どどどどうする破壊蛙!」

「破壊じゃ」

「何を!?」


突如パァンという破裂音が鳴り響き、一気に現れた5人の小妖怪達。
そうか…泰具を倒したから木の術が解けたのか!


「あれ? お嬢ー!?」

『…よかったっ…皆が無事で、本当によかった!』

「ど、どうしたんですかぃ?」

「あり? そういやオレら何してたんだっけ?」


涙を流しながら皆を抱き締める私に、小妖怪達は何事だと困惑している。


「ハハッ…オメェら本当タフだねぇ」

「二代目!」

「何があったんですか、お嬢は…」

「つぅか本家がボロボロになってやがらぁ!!」

「破壊じゃ」

「だから何をっ!?」


いつも通り元気なその姿に、心からホッとする。


『………守る為に戦え、か』


そういえば、昔からお父さんがよく言ってたっけ。
守る者があるやつの方が強いってー
今回小妖怪達が助かったのは運が良くて、偶然だったのだが…
それでも


『…ようやく本当の意味で、その言葉が理解できた気がする…』


心から、皆のこの笑顔を守りたいと思えた。
さっきはつい憎しみで戦ってしまったけれど…今度からは守るために戦おう。
おじいちゃんやお父さん、そしてリクオがやってみるみたいに…。




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