この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 最期の微笑み(鯉伴side)

『兄さん! 先生!!
そんな…鴆!! 誰か鴆を呼んで!!』


急に力が抜けたその身体を、慌てて支える鯉菜。
そして鴆を呼ぶが…


「! コイツァ…」

『鴆!! 何とかできない!? 治癒したからなんとか傷も塞がって血も止まったんだけど…!』


鯉菜の言う通り、先生の胸の傷口はもう塞がっている。だが…刀はまだ刺さったままなのだ。
抜けばそこから一気に出血する…だから抜けない。


『どうしよう…! 既に結構出血したから顔色も悪いし…鴆!! なにか方法はないの!?』

「…鯉菜…悪いがそいつァ…」

「…ぬ…ら…?」

『!! 先生っ!?』


鴆の言葉を遮ったのは…今度こそ本物の坂本先生だった。


「………あ、そ…か。お前…変身できたんだっけ…
一瞬誰かと思っ…た…ゴフッ」

『先生! 喋らないで…なんとか、
なんとかして治しますから!!』


そう目に涙を溜めて言う鯉菜に、先生は首を横にふって言う。


「もういい…いいんだ奴良。自分の身体は自分が一番分かる…だから、最期にオレの話をきいてくれ…」

『な、何諦めて…!』

「鯉菜…聞いてやれ…」


諦めるなと言おうとする鯉菜の肩を掴み、そう咎める鴆。何人もの怪我人や病人を診てきた鴆だからこそ分かるのだろう…もう先生は…助からない、と。


「奴良…お前の前世のこと…
兄貴から聞いちまった、悪いな…。」


ゆっくりと…ゆっくりと話し始める先生の手を握り、鯉菜は一字一句聞き逃さないように耳を傾ける。


「…オレな…聞いてて思ったんだよ。
お前ら…ただすれ違っただけなんだって…
兄貴は、お前がアイツを恨んでるって…勝手に想像して恐れ…
お前も…さっき少し聴こえたけど…兄貴に怯えてたんだろう? 恨んでるんじゃねぇか…って。」

『…は、い…』

「…お互いが…お互いの気持ちを確かめられず…それが怖かったんだろうよ…。お前もアイツも…同じだ、…まぁ…事の始まりは、アイツが悪いんだけどな…。ゲホッゴホッ!!」


またもや血を吐く先生に、鯉菜が何度も『ごめんなさい』と謝る。


「…何で謝るんだ?」

『私…たちのせいで…先生まで巻き込んでしまった…。もしちゃんと兄と決着つけていたら…こんな事にはならなかったかもしれないのに!』

「…まぁ…確かにな。
お前らの兄妹喧嘩のせいで、オレの胸に…とんがりコーンが生えちまったじゃねぇか…」

『…ごめん…なさい…』

「…ガチで受け取るなよ…冗談だよ」


いつもだったら鯉菜もツッコミをするだろうが…流石に今はその気力もないようで、ただただ謝り続ける。そんな鯉菜に、先生は青白い顔をして言う。



「…奴良…
いい加減、許してやったらどうだ…?
兄貴のことも…自分自身のことも…。
家族を苦しめたとか…秘密バラしちまったとか…後悔したり、自分を責める事は誰だって…できる…。
お前達がどれだけ苦しんだか…オレは知らないが、…でももういいじゃねぇか…?
…もう…充分、苦しんだだろ…」



段々と弱々しく…小さくなる先生の声。
それに比例するかのように…鯉菜の涙の粒は大きく、とどまることを知らない。


「…前世の親も、今の親も…お前の幸せを願ってるだろうよ…。
過去の事を忘れろとは言わねぇ…だが、捕らわれるな。未来のことを考えるのも大事だが…だからといって不安に押し潰されるな。
一番難しいかもしれないが…今を生きろ、奴良。」

『せ、んせぇ…私…』

「…日頃、弱味を見せないお前も…泣く時あるん、だな…」

『当たり前じゃないですかっ…人を何だと…』

「…ハハッ…そうだよな…
前世の記憶があろうが…妖の血が混ざってようが、お前はどこにでもいる…普通の女の子だもんな。
…オレ、お前の…担任やれて…良かっ、た…」

『…私も…前世含め、今まで見てきた先生の中で坂本先生が一番…最高の教師でした…』


鯉菜の言葉に、先生は嬉しそうに満面の笑みを浮かべて目を閉じる。
そして最期にー



「お前が…悪い事したら、
枕元…化けて、出る…からな…」



ーと、楽しそうに笑い…静かに眠りについた。








(『…先、生…そんなこと言ったら…私、悪餓鬼になっちゃいますよっ…?』)




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